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涙の章 その1 待ちの陳到


新野城市(しんやじょうし)のなかの屯所(とんしょ)にて、陳到(ちんとう)は部下たちの報告を、いまかいまかと待っていた。

自身も、街に繰り出して、夏侯蘭(かこうらん)人攫(ひとさら)いの両方を探しているのだが、いまのところかれらの尾っぽは、まったくつかめていない。

人攫いはすでに新野を出ている可能性がある。

だが、もう一方の、病身ともいえる夏侯蘭が見つからないのはふしぎだった。


陳到は、街に住まう情報屋ともいうべき者たちに夏侯蘭を見ていないかあたってみた。

しかし、かれらの口は重く、逆になにかあると思わせた。

『だれか、街の大物に(かくま)われておるな』

ピンときたが、さて、それがだれなのかまでは、わからない。

大物という大物に当たることも可能である。

だが、そうすると、無用のいざこざに発展しかねない危険があった。

夏侯蘭については、慎重にならざるをえない。


とはいえ、だれが匿っているにしろ、そいつは、夏侯蘭が許都(きょと)の役人だということを知っているのだろうか。

もし知っていて匿っているというのなら問題だ。

知らないにしても、あんな怪しい禿頭(はげあたま)、どうして匿う必要があるのだろう。


考えてもわからないので、陳到は屯所の隅の机に陣取って、今日の事務仕事をやっている。

兵卒たちの健康管理から、厩舎の掃除、飼い葉の仕入れ、武器の手配、兵卒たちの備品管理などを記録していく作業だ。

無になって仕事をしていると、かえってひらめきが降ってくると信じている。


ほかの書記たちとともに、黙然(もくねん)と仕事をこなしていると、孔明と趙雲に同行して、襄陽(じょうよう)へ行っていた一団のひとりが、孔明の手紙をふところに、陳到のもとへ戻ってきた。

斐仁(ひじん)はどうなった」

陳到の問いに、使者はかくかくしかじかと、よどみなく説明をする。


斐仁は襄陽城の地下牢に閉じ込められ、尋問を受けている。

一方で、孔明や趙雲らが劉表や蔡瑁(さいぼう)に邪険にあつかわれていることはなく、逆にもてなされているほど。

そして事情が変わり、孔明と趙雲は、ふたりだけで、襄陽城から西に行ったところにある、とある村に向かっている……


「なぜそんな村に?」

「軍師どのによる書状をご覧ください。

そこに、叔至(しゅくし)(陳到)さまあての私信も入っております」

面倒の気配がするなあとうんざりしつつ、陳到は書状を開いてみる。

そして、絶句した。


陳到が絶句していた、まさにそのとき、時機をはかったかのように、麋竺(びじく)の養子である伯亮(はくりょう)仲亮(ちゅうりょう)がやってきた。

(かわや)と豚小屋の掃除を終えましたことを報告させていただきます」

いくぶん誇らしげに兄の伯亮のほうが言う。

よほど掃除はきつかったらしく、仲亮のほうは、うらめしそうな顔を露骨に浮かべている。


「ふむ、よくやった。鼻は曲がらなかったか?」

「曲がりそうになりましたが、耐えました」

「よしよし、それでよい。あそこの掃除に耐えられたのなら、東の蔵の仕事もできるようになっておるだろう」

とたん、伯亮、仲亮ともにさっと顔色を蒼くした。


陳到は、孔明からの書状を文箱に大事にしまって封をすると、立ち上がった。

「冗談だ。それよりふたりとも、今日は街の巡回がある。ともについてまいれ。

風通しのよいところへ行けば、いくらか曲がりかけた鼻も元に戻るであろうよ」

悪い冗談を言いながら身支度をはじめた陳到に、養子兄弟は、戸惑って、どうこたえてよいのか困っているようであった。


「そうかしこまることはない、おとなしくついてこい、よいな」

念を押すと、兄弟は、浮かぬ声で、はあ、と答えた。


つづく

「涙の章」開幕です。

どうぞお楽しみください(^^♪

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