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とある神様のおもてなし狂想曲  作者: 楽土 毅
最高のおもてなし
62/70

私はオムライスになってしまうのかもしれない

 そこへミカド様が戻ってくる。

 そしてその後ろには台車を押す給仕さんの姿があり、そこには浴槽ほどの大きさを持つバカでかい皿があった。そしてその上には、黄金の輝きを放つふわふわのオムレツ、その下には赤が鮮やかなチキンライスがあった。


「にゃんてこった!」


 でかい、デカい過ぎる。そして凄まじく美味しそうだ。

 これには坂下くんも反応していた。


「夢のようだな。これぞまさにG級――ゴッドサイズだ」


 目を真ん丸にして驚いている私たちを見て、ミカド様もご満悦の様子だ。


「味も最高級のはずだ。ほら佐々野、これで上のオムレツを割ってみろ」


 そう言って、ミカド様はナイフを差し出す。これで上のオムレツを()いて、オムライスにしろという奴らしい。テレビなんかでよく見る奴だ。うちではやったことがない。


 しかもこの特大サイズ、もう死ぬまでこんな機会はないかもしれない。思わず胸が躍った。


「おいおい待て待て、俺もそれやりたいぞ」

「ダメよ。私が注文したんだもん。やりたきゃ坂下くんも頼みなよ」

「俺はもう食えない。でもそれはやりたい。だからやらせて」

「子供か!」


 ええい知ったことか。私はごくりと喉を鳴らし、ナイフを構え、オムレツに向き合う。


「これよりオペを始める。メス」

「先生、もう手にもってます。落ち着いて」

「うむ。では執刀を開始する」


 坂下くんと変なノリを交わした後、私はその黄金色のオムレツにナイフを滑らせた。ふわふわの卵に差し込んだナイフは何の抵抗もない。しかし、その差し込んだ裂け目からとろとろの卵が零れてくる。さらにナイフを動かすと、それに伴ってオムレツが裂けていく。まるで小さな一隻のボートが静かな海原を滑ってさざ波を起こしていくかのように、黄金色の波がチキンライスを覆っていく。


 ついにそれがオムレツの端にまで到達したとき、私は言葉を失っていた。


「よし、上手くいったな。おい、ソースをかけろ」

「はい」


 ミカド様が、給仕さんにそう指示を出した。すると給仕さんはそのオムレツの上にこれでもかとデミグラスソースをかけていく。なんてことだ。こんなものが存在していいのか。こんなもの絶対うまいに決まっている。


「どうぞお召し上がりください」

「はい、いただきます!」


 給仕さんの言葉に私は元気よく答え、渡されたスプーンでオムライスをすくった。そしてそれを口へ運ぶ。


「お~い~ひぃ~」


 口が至福に満たされた私は思わず顔を(とろ)けさせてしまう。私がオムライスを食べているのか、オムライスが私を食べているのか、それすらも判然としない。もしかしたらこのまま、私はオムライスになってしまうのかもしれない。そしてそれも悪くないような気がしてしまうのだ。私はさっきから何を言っているのだろう。


 しかしそんな幸せそうな顔をしている私を見て、坂下くんも我慢できなくなってしまったらしい。


「そんなにか⁉ ええい俺にも食わせろ!」


 右手が扱えない彼は、そのままオムライスにかぶりつこうとした。それを私はぶん殴って止める。


「これは私の患者だ! 何人(なんぴと)にも触れさせやしない! ヒーローはお外でチャンバラでもやってろ!」

「くそ……これがこの世界の縮図か。手を伸ばせばそこにあるのにっ!」


 坂下くんは、うう、と体を震わせながら膝をつく。とことんノリのいい人らしい。いや、多分こういうのがすごく好きなんだ。家でも一人でなんかやってそう。


「冗談だよ冗談。ほれ、お口開けんさい」

「む?」


 私がスプーンにオムライスをすくって坂下くんの口の前に差し出すと、彼はそれを凝視していた。


「いい……のか?」

「勝利の味は、分け合うものでしょう?」


 ていうか、やばいな。なんか私も楽しくなってきた。

 それはさておき、坂下くんはそれをぱくりと食べる。


 瞬間、やはり顔をとろんと蕩けさせた。


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