『審問会』の一つ目は私たち自身による活動報告なんだけど
「先に簡単に説明しとくと、『審問会』は主に三つの過程を経て行われるの。まず一つ目は、私たち自身による活動報告。今までにどんなことをしてきたか、その実績を説明するの。例えばうちなら、これまでにどんな依頼をこなしてきたかを説明すればいいわけ」
「その活動報告って、まさか創部以来洗いざらい全部のを、ってわけじゃないわよね?」
集計している手を止めて、三春が尋ねてきた。
私はそちらを見て、コクンと頷く。
「うん、今日から六か月前までをね。逆に言えば、今日から半年前までの間になんの実績も上げていなければ、この活動報告ができない。そうなれば間違いなく廃部コースまっしぐら」
「ならまあ、うちはひとまず安心だな。半年前まで遡れんなら、牧野先輩の残してくれた貯金がたんまりある」
佳香が頬杖をついた体勢から、ぶっきらぼうに言った。
私はそれに頷く。
でも、ことはそう単純ではない。私は続けた。
「でもそれはボーダーラインぎりぎりってところだと思う。いくら半年前に偉大な実績があっても、直近一月の間になんの活動もなかったら、それはやっぱりマイナスポイントになっちゃうよ。牧野先輩がいなくなった今、『よろず部』はもう何もできてないと思われても仕方ない」
「なるほどね。でもさすがに何もないってことはないでしょ?」
「うん、もちろん。でもどうしても牧野先輩がいるときに比べたら、レベル下がっちゃうんだよね~」
「あの人はダース単位で依頼捌いてたものね。しかもその一つ一つが金とれるレベルだし」
「いない人のこと言っても仕方ねぇだろー」
佳香は体の向きを変え、背をこちらに向け、背もたれに足を乗っけて机に頭を乗せた。
「それより、備えるってのは、具体的にどうすりゃいいんだ?」
「うん、じゃあ説明続けるね。さっきいったように『審問会』の一つ目は私たち自身による活動報告なんだけど、二つ目はその逆、『生徒会』側視点の私たち『よろず部』に対する評価ね。私たちの活動に問題があった場合とか、私たちの報告と生徒会の調査による実績の不一致なんかがあったりすると、ここで親の仇のように責め立てられたりするそうな……」
「ああ、女の子とか、たまに『審問会』終わって泣きながら出てきたりするよね。それは、そういうことか」
「現生徒会副会長の三木杉って人が、やり手みたいなんだよ~。言い訳すればするほどボロが出て、それを片っ端から咎めてくるらしくて」
「嫌な奴だな。でもまあ私らは大丈夫だろ? 別に悪いことはしてないし、嘘つかなきゃいけないほど切羽詰まってもいないしな。正直に話しゃいい」
佳香の言う通りだ。
私たちには、これまでの活動を依頼人の名前から、依頼内容、日時、対応期間、実際の進捗の具合までを丁寧に書き記してあるノート――『よろず部活動日誌』がある。これを提出して、その通り話せばいい。下手に盛ったりさえしなければボロが出ることもなかろう。
「それで、三つ目は?」
三春が尋ねてきた。黒縁の眼鏡をくいっと押し上げている。その仕草かっけぇっす。
「三つ目は、流れのままだよ。その『生徒会』に指摘された部分に対する、弁明の時間だね。たとえ少し問題のある活動だったとしても、そこにちゃんとした理由があったり、またはその問題点も含めて事後解決できた場合には、それをそこで話すの。それが上手くいけば多少は印象も良くなる。もちろん言い訳がましいのはだめだけどね」
「じゃあ、究極何の問題もなかったら、この三つ目自体ないわけだ。弁明するもんがないわけだし」
「そゆこと。というかぜひともそれ希望。私説明すんの下手だし」
私が机にだらんと突っ伏しながら言うと、佳香は豪快にけらけら笑った。
「確かに。つーか口ゲンカだったら結木が一番だよな。もうお前が『審問会』出りゃいいんじゃね?」
「いやよ。ていうか、ケンカしにいくわけじゃないし。人当たりが一番いいのは沙良なんだから、今回は沙良が適任でしょ」
「まあ、お前けっこう無愛想だしな」
「あんただけには言われたくない……」
何やら不穏な雰囲気になってきたが、まあいつものことだ。というかこれでも二人は仲良くなった方なのである。当初は口を開く度にケンカしていたような二人なのだ。
まあ、頑固な石もぶつかり続けりゃ、ちったぁ丸くなるってこったな。なんか急におっさん臭くなっちゃった。いかんいかん。
ちなみに三春と佳香を『よろず部』に誘ったのは、牧野先輩ではなく私だ。
牧野先輩は「僕は沙良ちゃんがいれば十分なんだけど」と言ってくれたが――これもなかなかの殺し文句である――私は二人をどうしても入部させたくて、牧野先輩にお願いしたのだ。
その結果、「まあ三人以下だと『審問会』に呼ばれる面倒もあるし、沙良ちゃんが選んだ子なら間違いないだろうし、オーケー」と快諾してくれた。これもまた密かにきゅんときた言葉である。
狙って言っているのやら、いないのやら。常に笑みを絶やさない彼の真意を汲むのは、飛んでいるハエを箸で捕まえるより難しい。