救いようのないバカ
「まあ『審問会』のことは大体わかったよ。んで、具体的に今は何すりゃいいの?」
「もうあまりすることは残ってない気がするけど」
佳香は体をこちらに向け直し、三春は眼鏡をいったん外してクロスでレンズを拭き拭きしていた。
「うーん、一応私一人でこの半年間の活動見直したんだけど、まずそれを二人にも確認しておいてもらおうと思ってね。ほら……私……みはるんとよっしーに黙って一人でやっちゃった依頼とかなんかも……いくつかあったからさ」
私がバツが悪そうに半ば俯きつつ言うと、三春と佳香は顔を見合わせつつ、肩をすくめるように笑っていた。
それを横目に、私は続ける。
「それで、もしその中に問題がありそうなやつがあったら、言っておいて欲しいわけ。『審問会』で指摘されそうなヤツとかね。先にそういうので心の準備しておいたら、言い訳もしやすいし」
「確かに私たち、活動日誌にはほとんど手ぇつけてないからね。どんなこと書かれてるのかもほとんど知らないし」
「だな。じゃあその活動日誌貸してくれ。結木が集計やってる間に、まず私が目を通す」
「よしきた」
私は背後にあった棚から数冊のノートを取り出す。『よろず部活動日誌⑧ ○年九月十九日~○年十月三十日』。これが約半年前に使っていた分だ。
それから⑨、⑩、⑪、⑫、⑬、最新本の⑭と全部で七冊もある。それを笑顔で佳香に渡した。
「じゃ、お願いね❤」
「おう。じゃあ早速⑧から見てくかぁ――――――――って多過ぎるわっ!」
佳香はノートを机に叩きつけ、上から人差し指を突きつける。
「たった一日でこんなに目ぇ通せるわけねぇだろ! なんでもっと早く言わないんだよっ!」
「ご、ご、ごめんなしゃ……」
私はあまりの佳香の剣幕に泣く寸前だ。
「ちょっと落ち着きなさいよ。『審問会』の通達が来たのが昨日なんだから、仕方ないでしょ。沙良のこと責めてどうすんの?」
三春がそんな風に助け舟を出してくれた。それを聞いた佳香も納得したのか、はぁ、と息を吐いて心を落ち着ける。
「さっき沙良もちょろっと言ってたけど、半年も前のものより、ここ最近の活動の方が注目されるはずよ。チェックするならこっちの⑭から優先的に見ていくべき」
そう言いつつ、三春は『よろず部活動日誌⑭ △年三月十二日~』を手にとり、ページを繰って行く。
「まったく佳香はいつまで経っても血の気が多くて困るわ。いい加減自制心ってものを身につけとかないと将来社会に出たとき――」
と、その瞬間である。
「って佐々野沙良コラぁああ! あんたバカか⁉ 救いようのないバカか⁉」
「あれぇ⁉」
結木三春、まさかのブチキレ全開春祭りモードである。
ついさっきまで佳香に説教たれてたところなのに、そんなのもうお構いなしだ。日誌を机に叩きつけ、私を睨みつけている。ひえええ。
そんな風にビビりまくっている私をよそに、佳香は三春にツッコんだ。
「おいお前、私に言ってたのはなんだったんだよ⁉ 自分もキレまくってんじゃん!」
「うるさい! あんたには言われたくない!」
「私もお前に言われたくなかったわ!」
「何⁉ 私に文句あんの⁉」
「ありありだわ! んだてめぇ久しぶりやっか⁉ おお⁉」
ダメだ。二人とも全然丸くなってない。一触即発である。
「まあまあ落ち着きなよ、二人とも」
私がどうどう言うと、二人はぎろりと鋭い視線を私に向けてきた。
「もとはと言えば――」
「お前のせいだろっ!」
「うはー、二人とも息ぴったりだ~……」
私は気圧されながら、しおしお萎れていく。この二人を敵に回したときの怖さを思い知っていた。




