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とある神様のおもてなし狂想曲  作者: 楽土 毅
よろず部部長の苦悩
20/70

これではまるで痴女だ

 そのことに気づくのに十数秒を要した。まず視線が異様に低いことに疑問を感じ、次に自分の体が毛むくじゃらで真っ黒であることに驚き、最後に目の前に佐々野沙良を見つけた。


 ようするに、私とサタケさんの体が入れ替わっていたのだ。


「ほら、これでいいのだろう? とってきて」

「その前にいろいろ言うことがあるでしょうが!」


当たり前のように告げるサタケさんに、私はにゃんにゃん憤慨した。声も見事に入れ替わっているのだ。しかし目の前の佐々野沙良(中身サタケさん)は私の体を抱え上げ、


「とりあえずとってきておくれ。話はそれからだ!」


 そしてサタケさんは私の体を木の枝に向かって投げ上げた。まだ入れ替わったばかりの体に慣れていないというのに、なんたる横暴か。


 しかし流石は神的な身のこなしを誇る猫の体。考える間もなく反射的に私の体は華麗(かれい)に身を(ひるがえ)し、枝の上に飛び乗っていた。


 しかし背筋が寒くなるようなあまりの高さに、私は身を縮こまらせた。けして太くない枝に、私は爪をめり込まさんばかりに必死にしがみつく。


「鬼――っ!」

「高い所は平気なのだろう?」

「だからって放り投げることないでしょ! しかも私の体で! 私が猫ちゃんいじめてるみたいじゃない!」


 (はた)から見れば(まぎ)れもなく、「佐々野沙良が子猫を木の上に投げ上げていじめている」の図である。誰かに見られでもしたらとんでもない。


「はいはい悪かった。いいから早くしておくれ」

「それが人にものを頼む態度なの⁉」

「ふん、沙良ちゃんこそそんな態度とってて良いのか? 僕は神だよ。早くしないとここで制服脱いじゃうよ?」

「はぁ⁉ ちょ……」


 私が顔を青くする様子を面白そうに見上げながら、サタケさんは私の姿で制服のボタンを一つ一つ外し始める。こんな視界の開けた場所で、これではまるで痴女だ。


「わかったわかったわかりましたからお願いだからやめてください! そんなことしたら佐々野沙良が社会的に死んじゃいます!」

「……わかればよい」


 サタケさんは頷くと、ボタンをまた閉じ始める。それを見てほっとしながらも、私は思わず悪態ついた。「サイッテー……」


「ん? なにか言ったか?」

「いいいい言ってません言ってません! 言ってませんから! そんなところでスカートまくり上げないでぇ!」


 私はもはや半泣きになりながら、サタケさんに懇願する。気にくわないが、ここはとりあえず、我が体を取り戻すまでは下手に出るしかあるまい。


 ――でもこの恨みは忘れないからっ!


 私は復讐の炎をめらめらと燃やしながら、こわごわ枝を伝って『遊楽』へと近づいて行く。一歩進むにつれ、徐々に枝がしなった。


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