3-4.王都エルディア
この話は少し短いので、今日はもう一話投稿します。
シャルルの町を出てから2日後、王都エルディアに到着した。シャルルから王都までの道はとてもスムーズだった。モンスターもほとんど発生しない上に、道が整備されていたからだ。
長い渓谷をずっと進んできたが、渓谷の端まで近づいているのだろう。徐々に、その両側に見える山までの距離が少しづつ離れてきたようだ。
「サトル、草原の先に見えるのが王都エルディアよ」
ナオの言葉に道の先を見ると遠くに町のようなものが見える。赤い塊が草原の中央に鎮座している。よく見るとその塊が無数の建物によって構成されていることが分かる。
「何だか拍子抜けしたよ。シャルルまでの道のりはあんなにハードだったのに」
「それは、ヴェリトス州のギルドとポティマス州のギルドが重点的に警備しているからよ」
「それは私が説明したはずだが」
「そうだっけ?」
いや、いつしたのよ?
さらに近づくと、遠くからでもその大きさが伺えるようになった。赤いレンガ造りの城壁が都を囲み、さらにその外側まで、町が広がっているようだ。城壁のさらに内側に高い城壁が築かれておりその内側は伺えない。
王都の周囲には広大な草原が広がっている。防衛的な観点でこの地を王都に選んだのか、草原の周囲には山岳地帯が広がっているようだ。この地を攻め落とすのは難しいだろうな。山脈のお陰で、ここまで入ってくる道は限られているし、そこを抑えられたら対抗できないもんね。
そもそも、二界では戦争はあるのかな? 魔法もあったり、超人的な回復もあったりするから、激しい戦いになりそうな気がするけど……魔法同士の戦いって、すごく迫力がありそうだな。少し見てみたい気もする。
「ねえ、そういえば、二界に戦争ってあるの?」
「戦争という言葉の意味にもよるが、国と国との総力戦のような戦争は原則として禁じられている。一方で決闘決議と呼ばれるものは存在する。州間の意見が対立し、両者が一定の合理性のある主張をしている場合、決闘の勝敗で採用する主張を決めるというものだ」
決闘という言葉が実際に存在していることに驚くが、同時に二界だったら普通にありそうだな、とも思う。魔法が使える世界だから決闘も迫力がありそうだ。
「その方法は各州の最も強い人間を代理人として立て、その両者が決闘を行い、その勝者の所属する国の意見が採用されるのだ。一見、不合理な制度に思われるが、この世界では個の力が与える影響が大きいため、結果的にその国の国力を計ることが可能だ。要は、議論が決別し、相手を滅ぼしてまでもその主張を通す、という結論が出された際に戦争が起こるわけだが、その勝敗を個の力で計るということだな。一種の代理戦争として、中央にも認められている」
「なるほどね」
確かに、イトウやナオを見ているとそのことが良く分かる。一人一人の能力が高い以上、全面戦争になっても、個人の力で大きく戦局が左右されるだろう。
「ただ、その決闘決議についても中央の許可が無ければ実施が出来ない。それゆえに、実質的にはほとんど実現しない」
つまり戦争は実質無いってことね。
ところで、この数日間、イトウの説明ばかり聞いている気がする。最近はナオもあまり口を挟まなくなってきたし、シャルルの町のこともあって疲れているのだろう。正直、ナオの補足が無いと授業を聞いているような気分になってくる。
「ようやく着いわ。長い旅だったわね」
ナオがそう言うのを聞いて、うん、本当にそうだね。ようやく着いた、と思う。
「久しぶりと言っていたけれど、どのくらいぶりなの?」
「この前のギルド長会議に参加したのが最後だから、4か月くらい前かしら?」
「え、そんなに久しぶりでも無いんじゃない?」
「ギルド長はヴェリトス州、いや、シャルルの町が嫌いだから、出来るだけ王都に行きたくないそうだ」
「そうね。あの国の、相手が自分に利益を与えるか、否かでしか人を見ない考え方は苦手ね」
「確かにね。俺もあの町には住めないと思う」
確かに、あそこにいると精神がすり減りそうだ。
「いつもは東側を回る道を行くのよ。10日くらい余計にかかるけれどね」
いや、それはやりすぎじゃないかな。そこまで嫌な街ではなかったと思うよ。
そんな会話をしながら、まずは城下町に入る。城下町に入るところでは検閲は無いようだ。この辺りはシャルルと同じだ。しかし、街並みや人々の装いに高級感があることと、シャルルに入ったときとは比べ物にならないほど、たくさんの種族がいることが違う。獣人というのだろうか、犬や猫を擬人化したような人がいたり、身長が小さく濃い体毛をした人もいたり、明らかにドラキュラっぽい格好をしている人もいる。
城下町には様々な店が立ち並び、街行く人が時には店に入り、時には店から出てきている。その中には、食品を扱っている店も多いようだ。
うん。正直、中央からの呼び出しとかはどうでもよくて、途中からは王都の美味しいものに思いを馳せていたのだ。バーニャの薄い味の野菜とは違って、美味しい野菜も売っているのかな? 召集までは時間があるし、絶対に探索せねば……!
あと、美味しいものをハルとミナミちゃんに買って帰らないとね。ミナミちゃんのしあわせ~という言葉とハルの嬉しそうな表情が頭に浮かぶ。
ところで、王都での宿泊については、招集日の前日だけは中央が用意してくれているとのことだった。実際には、4日目でここまでついてしまったから、召集の日まで、今日を除いて4日あることになる。ということで、ナオのなじみの宿に宿泊することになった。宿は王都の中では落ち着いた雰囲気で、家庭的な民宿のようなところだった。宿屋『ヤマネコ』という看板がかかっている。その宿に入ると——
「いらっしゃいませ。あ、ナオさん。4か月ぶりですね。ギルド長会議はもう少し先だと思いましたが、何か別件でいらっしゃったんですか?」
「そうなのよ。ちょっと野暮用があってね」
「イトウさんもご一緒でしたか、王都にいらっしゃるのは珍しいですね」
「ええ。3年ぶりくらいでしょうか。覚えていていただいて光栄です」
「いつもはあの体格の良い男の方と礼儀正しい女性と一緒ですよね。おっと、お久しぶりだとついつい話が長くなってしまいます。部屋にご案内しますね」
そういって、部屋に案内してくれた。部屋は必要なものがしっかりと用意してあるが余計な装飾品などは無く、とても落ち着ける空間だった。今日は遅いので夕食の時間までは各々部屋で休み、食堂で集まるということになっていた。
食事の時間になると宿のご主人が声をかけてくれたので、食堂に向かうことにする。
食事が終わり、雑談をしているとゴブリンと思われる女性が声をかけてきた。ギルド長のパイロンとは違い、少しかわいらしい顔をしていた。目つきがきつくない。
「ナオ……?」
「サマリネ……? シャルル以外で会うなんて思わなかったわ」
「久しぶりね。元気にしてた?」
「ええ。どうして王都にいるの?」
「色々と思うところがあって。それより、ナオ、ずっと言いたかったことがあるの」
「何かしら?」
「あの時は本当にごめん……」
ここから先は2人のプライベートの話だろうと思ったので、そっと席を外した。イトウも同じように席を立っていた。イトウって、意外と気を遣えるんだな。少し見直したわ。
帰り際にイトウにお願いして鑑定板を使ってみた。レベルも8くらいまで上がっていて、スキルもカーミンを超えるくらいになっていた。それを見て、イトウがこんなことを言ってきた。
「これは素晴らしい。すぐにギルドに入るべきだ」
いや、入りません。農家なので。
それと同時に、称号に中級農家というものも付いていた。称号のことは良く分からないが、成長を認められたようで、少しうれしくなる。
そんな成長の実感もあって、その日はゆっくり眠ることが出きた。たまった疲れもあったが、それ以上に宿屋『ヤマネコ』の落ち着ける雰囲気があってこそだ。
明日の王都巡りが楽しみだ。




