3-3.王都への旅Ⅱ
昨日は更新が出来ず、すみませんでした。王都への旅の続きです。
シャルルは灰色の石でできた建物が多く、近づくにつれて、その積み上げた岩のブロックがその輪郭をはっきりとさせていく。
交通の要衝というだけあり、町に近づくにつれて人々が増えて――
いや、敵が増えていく。え、これまずいよね。町にモンスターが普通にいるけど。しかもさっきまでのモンスターより遥かに強そうなやつが。すこし悪そうな目つきのつり目に、長いとがった鼻をしているモンスターが町を歩き回っている。
「ねえ、引き返した方が良くない? この町、モンスターに襲われてるじゃん!」
やばいって、バイオハザードだよ。
「あ、そうか、サトルは魔族に出会うのは初めてなのね」
「ん、魔族?」
「二界には低級生物、つまり、モンスターのことだな。それから、知性のある魔物がいる。知性のある魔物のことを魔族と呼ぶのだ。慣れないと同じ敵のように見えるかもしれないが、その中身は全く異なる。魔族とはコミュニケーションが取れるのが決定的な違いだな」
え、そうなの? そんな話は今まで聞いていなかった。
「魔族はそれぞれが独自の文化を持っているわ。それは服装だったり、食だったり、慣習だったりするけれど、それぞれが全く異なる生活を送っているの。二界では人種の差程度の違いとして認識されているわ」
「そもそも現在となっては魔族という呼び方も形骸化したものだ。転生したばかりの人間には差別的に聞こえるかもしれないが、決して差別的な意味はない」
確かに、今の俺が 「さては、お前は魔族だな?」 って言われたら何となく嫌だと思う気がする。 「さては、お前は人だな?」 とは明らかに違うもんね。いや、それはそれで嫌か。
てっきり人間と違う見た目のモンスターは魔王とかの人間にあだなすものが人に向けて放っている存在だとばかり思っていた。でも、人間じゃない姿という意味では、ハルも人間だったのにカッパに転生しているわけだし――
「あ、もしかして、魔族も転生者なの?」
「そうよ。ちなみに、他の州に行くと様々な魔族が支配しているわ。州によって住んでいる種族が異なっているのよ」
「人間以外に転生するのってすごくショックな気がするんだけどみんな平気なのかな?」
「そうかもしれないわね。でも、人間よりも魔物の方が、腕力や知性が高い傾向にあるから、二界で人間に生まれることは必ずしも有利とは言えないのよ。周りも同じような種族に囲まれているし、すぐに慣れることが多いんじゃないかしら?」
「ちなみに、もともとは人間と魔族の間には差別があり、対立もあったのだが時の指導者が同じ転生者として平等に扱うことを宣言した、という伝説が残っている」
「へえ~」
なんだか歴史の教科書みたいな話しだな。
「ちなみに、このヴェリトス州はゴブリンが支配しているわ。ゴブリンは利にさとい種族よ。金融・貿易を生業にしているわね」
そんな話をしていると街の中央まで来ていたようだ。
「さて、そろそろ第7ギルドの支部に到着するぞ。さすがに、第12ギルドのメンバーとして州境をまたいできている以上、面会しないわけにはいかないからな」
前世のゴブリンのイメージは醜悪な見た目というイメージがある。一部のファンタジーでは必ずしもそうではなかったけれど。しかし、この世界では利にさといということで、見た目も心なしか狡猾そうな姿に見える。
「さて、ギルド支部はあの建物だ」
イトウが指さす建物を見ると、周囲の建物よりも少し高さのある建物があった。しかし、造りは他の建物と同じで、灰色の岩のブロックでできている。なんというか、この町は味気ないな。どうも、ギルド支部は町の中央にあるようで、ここに来るまでに途中で一度城壁を超えていた。城壁では検問があったのだが、ナオとイトウの顔を見ると優先して通過させてくれた。そこは、さすがギルド長と参謀長というところか。ついつい忘れてしまうけれど、この2人はとても地位が高いのだ。サミュエル州の知事と副知事といったところだと聞いている。
その建物の前で馬車を止め、第7ギルド支部の扉を跨ぐと、途端に、ナオが言っていた言葉の意味が良く分かった。なぜって? ゴブリンがこんな会話をしていたからだ。
「最近は、鉄の値段が高騰しすぎだ。今鉄を買うのは得策ではない」
「いや、このトレンドがあと2か月は続くはずだ。ラニストル州が軍備拡張を進めるという情報がある。したがって、今は鉄を買い占めておくべきだ」
「馬鹿な、中央がそのようなことを認めるわけがないだろう。そのようなリスクテイクは無謀と呼ぶのだ」
「いや、そもそも最近のギルドの投資はリスク回避的すぎる。投資先のポートフォリオをボラティリティの高い投資先にも振り分け、高いリターンを狙うべきだ。また、ラニストル州の動きは、私が王都に派遣した部下が――」
あなたたちはトレーダーですか? 何人かはナオとイトウのことに気づいたようすだったが、目の前の議論が大事だと言わんばかりに、すぐに目を背けた。
そんな会話が繰り広げられるギルド支部の中を抜け、建物の奥にある階段を上がっていく。
「ラニストル州が軍備拡張というのは、私にも信じられないな」
イトウがその言葉を受けて呟いていた。それに対してナオも頷いてる様子だった。モンスターを除けば平和な世界だと思っていただけに、軍という概念があるということに驚いたが、その疑問をぶつけるタイミングは逃してしまった。
「サトル、この階よ。この廊下の奥にギルド長のパイロンがいるわ」
「パイロンと、おそらくサマリネもいるでしょうね。ギルド長、大丈夫ですか?」
「サマリネとのことは忘れたことにしたの。掘り返さないでちょうだい」
「承知致しました」
何だか引っかかる会話をしている二人を見ていたら、気づくと廊下の奥まで来ている。そこには重厚な扉があった。イトウが扉をノックする。
「入りたまえ」
扉の内側から女性と思われる声が聞こえてくる。イトウは失礼する、と一言言うと扉を開けて中に入っていく。ナオと俺はそれに続く形で扉へと入る。
扉の向こう側は、社長室のようになっていた。奥には大きな木の机があり、その手前には応接用のソファと机が置かれている。奥の机には、切れ目のきれいな女性が座っている。狐顔というのだろうか。しかし、その美しさの中に怖さがあるタイプの女性だった。その目はまっすぐと扉に入っていった三人を捉え、品定めするように見た後に声をかけてくる。
「ナオ、久しぶりね。サミュエル地方の運営は順調かしら? 最近は農業従事者が減って大変だと聞いているわ」
はーい。ここに新米農家がいますよ!
「ご心配ありがとう。その点は問題ないわ。それより、ヴェリトス州は投資が上手くいっているようじゃない?」
「まあ、過去の失敗した投資が最近になって成功しただけだから、大したことではないわよ」
「お久しぶりです。パイロン様。ヴェリトス州では、食料調達に苦戦していると伺っておりますが、お元気そうで何よりです」
「イトウ、久しぶりね。その件は隠しても仕方ないわ。どの国も同じ状況だもの」
「して、パイロン様はどのように対処されますか?」
「それを聞くなら自分の意見を述べるべきね。良い意見があれば誰もが採用するような状況だから」
「確かにその通りですね。部下が失礼を致しました。もしご迷惑でなければ食料の供給は増やさせていただきますので、代わりに資源の供給を増やしていただくことは出来ないかしら?」
「あなたは相変わらずしっかりしているわね。その件は後ほどお話ししましょう。さて、珍しく王都に行く気になったようだけれど、何があったのかしら? そちらの御仁が関係しているのでしょうね」
その言葉に返事をしようとすると、それを制するように手を差し出してナオが答えた。
「あら、そこまでは言う必要は無いんじゃないかしら——」
その後も同じような会話が広げられていった。お互いが互いの腹を割らずに、相手が油断して情報を漏らすのを待つようなやり取りだった。お互いが必要以上の情報を出さず、当たり障りのない会話をしている様子が伝わってきた。
ところで、サマリネと呼ばれる人はいないようだ。そもそもその部屋にはギルド長のパイロンしかいなかったのだから。
まあ、個人的には農業従事者が減っていて、ヴェリトス州は食料調達に苦戦しているという情報を得られたので良かった。これは、ビジネスのチャンスかもしれない。ミナミちゃんに相談してみよう、と一瞬思ったが、あの道を女の子に歩かせるのはまずそうだな。でも、話したら勢いで動いてしまいそうだしな……
さて、ギルドで早馬を使う約束を取り付けるとナオは早々にギルドを離れた。その日はヴェリトス州の城下町に宿泊したのだが、町を出て街道をかなり進むまでは、ナオは一言も発さなかった。その表情は、明らかに分かるような不満を湛えていたので、イトウも声をかけられないようだった。もちろん俺も声をかけることができなかった。
しかし、彼女は周囲一面に人がいなくなるのを確認すると、一言、驚くほど大きな声を発した。
「あー! もう! ヴェリトス州は嫌いなのよ!」
馬車の中で、しかも急なことだったので、恥ずかしいことにビクッとしてしまった。うん、やっぱりね。あの会話の感じはナオが苦手そうだ。パイロンと話すときのナオがいつもの口調と違ったからね。ある意味で、ギルド長としての一面を見たとも言えるけれど。
そういえば、ナオの剣幕に押されて、鑑定板を借りるのを忘れてしまっていたな。旅は順調なようだし、王都に着いたら確認しようと思いながら、馬車に揺られる。
早馬の引く馬車は揺れがひどかった。




