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農園の王~チキンな青年が農業で王と呼ばれるまでの物語~  作者: 東宮 春人
第3章 『新米農家 王都へ行く』
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3-2.王都への旅Ⅰ

 明日は更新できないと思います。気長にお待ちください。


 慌ただしく始まった王都への旅だが、街道を進みながらイトウが旅の流れを説明してくれた。


「王都はバーニャの町の北北西にある。バーニャから王都エルディアへは直線距離だと150~200キロといったところか。しかし、直線上にはエルジン山脈があるため、直線距離で移動することができない。したがって、今いるサミュエル州から西に位置するヴェリトス州を抜けて、王都エルディアのあるポスティン州に入る。西に一度迂回し、ヴェリトス州を抜けて向かうということだ。途中ではシャルルの町を通過するが、シャルルまでは2日~3日はかかる。そこで、一度、サミュエル州を出る前に宿場で一泊することになる。今日はそこまでの移動だ。その宿場からシャルルまでは1日~1.5日ほど要するが、途中に宿場が無いのでスピードを上げて移動しなければならない。シャルルは、交通の要衝と呼ばれ、二界の南部の商人や旅人が王都に向かう際に通過する町だ。シャルルで一泊した後に、王都エルディアに向けて旅立つ。シャルルから王都エルディアまでは、2日もあれば余裕で行けるだろう。シャルルから早馬に乗り換えられることが一番の理由だが、それに加えて、シャルルから王都への街道がポスティン州とヴェリトス州のギルドによって厳重に警備されているから、というのも大きい。そのお陰で、モンスターの出現も少ないのだ。そのルートを全て通じて、王都までの距離はおよそ300~400キロといったところだ。遠回りにはなるが、この道が最も安全で早いと言える」 うん、何を言っているか分からない。地図があれば分かるんだろうけどね。


「まっすぐ行くと山脈があるから、山を避けて西側から回るということよ」

「ナオ、ありがとう」


 本当にありがとう。良く分かった。


 その日はサミュエル州の宿場までスムーズに進み、初日の旅は安全に終わった。



 さて、王都への旅が二日目に入ったわけだが、引き続き、王都への旅路は順調……とはいかなかった。

 いや、正確に言えば、サミュエル州にいるときは良かった。スライムや小さなゴブリンしか出なかったから。俺も戦闘を手伝っていたくらいだ。ばっさばっさと切り倒していた。


 しかし、それが、ヴェリトス州との州境を超えた辺りで変わりはじめた。まず、モンスターのサイズが大きくなったのだ。ゴブリンも人の大きさになり、人の半分くらいの高さの巨大なクモなども現れていた。しかし、そこはギルドのナンバー1と2だ。息のあったコンビネーションで順当に切り抜けていった。馬車を遮るモンスターは討伐し、馬車を静観するモンスターは無視する。この調子であれば問題なさそうだと安心し、馬車に揺られる。


 再び馬車が止まる。道をふさぐモンスターが現れたということだろう。馬車の前には、キメラというのだろうか。ライオンの頭にヤギの体、蛇の尻尾という姿のモンスターがいる。

 

 俺も手伝おうと馬車を降りようとしたが、ナオから馬車の中に隠れているように言われる。そして、鑑定板を持たされる。


「私たちのHPとMPを確認して! 半分以下になったら報告!」


 ナオとイトウは、馬車を急いでおり、そのモンスターに対峙する。緊迫した様子から強敵であることが伺える。


「こんな奴に出くわすなんて、運が悪いわね。ヴェリトス州のギルドはちゃんと警備しているのかしら?」

「同感です」

「本来なら4人がかりのモンスターよ。イトウ、右側から攻撃を。十分に距離を取ってね。私はキメラの火炎を防ぐ」

「承知しました」


 そういうと同時にイトウはキメラの右方に駆け出し、その後ものすごい跳躍を見せた。7メートルほどは飛んだんじゃ無いだろうか。走り高跳びの代表選手が飛ぶ距離を、わずか2歩の助走で飛んだ状況だ。自分に重力操作をかけているらしい。


 キメラは離れていったイトウには興味を示さず、ナオに狙いを定めたようだ。口を開けて火炎を吐く。うわ、こいつ本当に火を噴くのか。「危ない」 と思ったが、火炎はナオの手前で消えた。鑑定版を見ているとMPがかなり減ったので、魔法を使ったようだ。


 そのタイミングで距離を取ったイトウが弓でキメラの目を射る。キメラの咆哮が辺りに響く。その一矢で右側の視界を奪った。


「イトウ、ナイス!」

 

 ナオは右側へと回り込みながら、地面を隆起させ、キメラの右腹部に攻撃を仕掛けた。キメラはその勢いに飛ばされて宙を舞う。そこにイトウが弓を浴びせる。すごいコンビネーションだった。


 猛攻を受けたキメラは地面に倒れて動かなくなった。


「すぐに移動するわよ。キメラは回復が早い」

「いや、倒さないの?」 


 馬車の中から顔を出して声をかける。この世界ではモンスターをたおすと消える。消えていないということは倒してないということだ。


「HPが高いから倒し切るのは大変なのよ。気絶しているうちに逃げた方が良いわ」

「なるほど」


 ナオは馬車に向かって歩いて来る。イトウもこちらに向かってくるが、イトウの目は途中で異変をとらえた。イトウの表情が変わる。


「ギルド長! 危ない!」


 先ほど気絶したキメラが意識を取り戻し、ナオに向けて駆け出す。距離を詰めたところで大きな跳躍を見せ、右前脚を高く上げる。その鋭い爪でナオを襲うつもりだ。


 危ない! 止まってくれ! と目を瞑る――




「何これ? サトルがやってるの?」


 あれ、ナオの声がする。ってことは、避けられたのかな? そう思って目を開くと、先ほどのキメラが宙で静止していた。


 どうも止まるというイメージがキメラに作用したようだ。そのまま、キメラが宙高くまで上がっていく姿をイメージする。キメラは足をバタつかせるが、浮力に逆らえず空を泳いでいるように見える。


 そして、次にキメラがものすごい勢いで落下する姿を想像する。クレーターが出来るくらいの勢いで。


 結果は……


 いや、やり過ぎましたよ。一帯の地面が揺れたからね。周辺の森にいた鳥が慌てて飛び立っていく。キメラが落下した地面は大きくへこんでいた。落下するまでは雄叫びを上げていたキメラだったが、落下の瞬間、叫び声が止んだ。あまりのことに絶句したようだ。当然キメラは消滅していた。


 魔法の使い方、ちゃんと検証しておかないといけないな。いつ発動できるのかも分からないし、何より加減が分からないからね。


 そして、気づくとものすごい倦怠感が全身を襲う。身体的な疲れというより、単純作業を長い時間させられた時のような疲れ。これってMPを使いすぎたということかな?


「キメラは簡単には重力操作を受け付けないモンスターなのに」

「サトルの魔力が優ったということだ。しかし、特筆すべきはその行使範囲の広さだな。こればかりはMPや知性といったステータスでは測れない。しかし、今の戦い方はMPを消費しすぎるからなかなか取れない戦略だ」

「そうね、馬車の中からの距離を考えると相当に素養があるわね。私も出来ないことはないけど、連続して襲われた場合には対処できなくなってしまうから。でも、サトル! 今回ばかりは感謝しないとね。ありがとう」

「いやいや、偶然だったからね。あと、ものすごく疲れたよ」

「それはあれだけの魔法を行使すればMPが無くなるわよ」


 やっぱりMP切れということか。いつかのスキンヘッズの表情を思い出す。


「だけど、常人が行使できる魔法の域は超えていたわね。やはり有望株だわ。ぜひギルドに所属してほしい! どうかしら?」

「いや、農園が一番だからさ。今も早く帰りたいし。あとものすごく疲れたから、今は戦うことは考えたくない」

「君が戦力になるのであれば、旅も順調に進むだろう」


 いや、疲れたって言ったの聞いてた?


 さて、その後も同じように馬車に乗って移動しては、馬車が襲われるたびにナオとイトウが外に出て行って対処していった。俺は馬車の中にいて、二人の視界の外からモンスターが襲い掛かったときに重力操作で補助をしていた。パワープレー、一辺倒なので、ものすごく疲れたが役に立てているようだったので止めるに止められなくなってしまった。MPは徐々に回復するので、少し経つと使えるようになったが、徐々にその使える総量が減っているようで、疲れるペースが速くなっていった。これ、思った以上にハードワークだぞ。頭がボーっとしていくのが分かる。


 とは言え、二人の命がかかっているので、試験前のラストスパートの徹夜勉強をしているときのような倦怠感に襲われながらもサポートを続ける。はやく、はやく町についてくれ


「サトル、ありがとう。おかげで予想よりも早くシャルルの町に着けたわ」


 良かった。助かったー、と安心感に包まれる。


「何も、攻撃を受けないようにすべてに対処しなくても良かったのだがな」

「え、何て言った?」


 聞き捨てならない言葉が聞こえた。


「攻撃を受けてもすぐに回復するって説明したの覚えているかしら?」

「え……ああ、なるほど」


 そうか、別にHPを削られても大丈夫なんだった。


「全く、合理的でない戦い方だったな」 


 悔しいけど、こればかりは反省しないといけないな。


 これからは多少戦闘の訓練もしないとダメかもしれない。二界には意外と強いモンスターもいるようだし、これから農園を拡大して、別の州に野菜を販売するようになったら、移動する機会も増えるだろうしね。


「まあ、おかげで楽に来れらたから良かったわ。ありがとう、サトル!」


 まあ、そう言ってくれているし、良かったことにしよう。この旅でも何度かピロロンの音が聞こえていたし、結構レベルが上がったんじゃないだろうか。しかし、レベルが上がるペースが速いような気がするんだけど……あとで、鑑定版で確かめてみよう。


「前を見て、森を抜けた先の草原の真ん中にシャルルの町が見えるわ」


 ここまで丸2日かかっていた。二日目は地獄のような旅だったけど。森を抜けた先には、確かにシャルルの町が見える。バーニャの町に比べるとかなり大きな町のようだ。町の中央は城壁に囲まれていて、警備も厳重なことが伺える。よく考えて見ると、バーニャの町以外の町に入るのは初めてだ。わくわくした気持ちで馬車に揺られ、シャルルの町へと向かう。


◆◆◆


 サトルがいなくなった後の農園で――


 ハルは覗いてしまったのだ。農園の主のメモ書きを。


 ハルはこっそりと決意した「戦闘訓練をしよう」 と。


◆◆◆


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