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ママの店で働く少女

「あっ」

 祝い町祭りの次の日、いつものようにママの店の暖簾をくぐると、あの以前ママの店で見たセーラー服の少女が、エプロンをつけてママの隣りで働いている。

「どうしたんですか」

「今、うちで住み込みで働いてんだよ」

 ママが僕を見て言った。

「えっ、住み込み?」

「そう、二階で一緒に住んでんだよ」

「一つ屋根の下に寝てるんですか」 

 僕は驚く。

「ママはオカマだから、大丈夫だよ」

 源さんが横から言った。

「オカマ言うな」

 ママが怒る。

「いや、あの、オカマはいいとして、大丈夫なんですか」

「何が」

「だって、他人の子でしょ。しかも中学生。確か中学生ってアルバイトとか雇っちゃダメなんじゃ」

「大丈夫なんだよ。この町は」

 ママは強気に言う。

「治外法権なんですか。この町は・・汗」

「いいからとにかく座れよ」

「はい」

 理屈はよく分からなかったが、僕はとりあえずいつもの真正面の席に座る。

「あっ、ももちゃん」

 ふと見ると、ももちゃんが隣りの席に座っていた。

「あれ?」

 なんか怒っている。

「どうしたの?」

 あの公園で二人きりの所から僕は酔いつぶれて寝てしまい、その前後の記憶がはっきりしない。

「もう、誠さん嫌いです」

「えっ?」

「ああ、嫌われちゃったな」

 源さんが指差すように言った。

「えっ」

 僕は訳が分からない。

「ついに愛想つかされたか」

 ママが言った。

「ええっ」

 何が悪かったのか僕には全く分からない。

「ももちゃんみたいないい子に嫌われるってよっぽどだぞ」

 ママが追い打ちをかけるように言った。

「僕何かした?」

 僕はももちゃんを見る。

「知りません」

 ももちゃんは、プイッと顔を背けてしまった。

「あ~あ」

 ママが言う。

「あ~あ」

 源さんが言う。

 その横でやっさんが笑っている。

「ええ?」

 僕は訳が分からなかった。

「僕がなんか悪いことしたのかな」

 まったく記憶になかった。

「お前が悪いことしたに決まってるだろ」

 ママがそこにぴしゃりと言う。

「ええっ、ママは原因を知ってるんですか」

「知らないよ。でも、絶対、お前が悪い。何があったかは知らないけどお前が悪い」

「そんなぁ」

「お前はいつも何かを間違えてるんだよ」

「酷いなぁ」

 僕はさすがにむくれた。

「まったく、こいつにビール出してやんな」 

 すると、そんな僕を見て、ママが呆れ顔で少女に言った。

「はい」

 少女は愛想よく素直にビールを冷蔵ケースに取りに行く。 

「はい、どうぞ」

 少女がビールを持ってきてくれた。そして、僕の前に、瓶ビールの瓶を置く。

「ありがとう」

「こいつはビール出してやるとすぐ機嫌がよくなるんだよ」

「またそういうこと言う」

 だが、本当のことだった。僕はもう機嫌が直っていた。

「コップ持ってきますね」

「うん」

「はい」

 すぐに少女はコップを持って来て僕に渡す。

「ありがとう」

「はい、どうぞ」

 少女がビール瓶を持つ。

「えっ?」

「お酌します」

「えっ」

 お酌までしくれる。

「サービスいいな」

「こいつにはしなくていいよ」

 ママが横から少女に言った。

「なんでですか」

 僕が怒る。

「こいつはねぇ、怠け者なの。人の善意で飲み食いしてるダメ男なのよ。甘やかすとよくないの。こういう男は」

「うううっ」

 その通りだけに何も言い返せない。

「こういう男にだけは引っかかっちゃだめよ」

 ママが眉根を寄せながら、少女に諭すように言う。

「どういう意味ですか」

「そのままの意味だよ」

「うううっ」

 そんな僕とママの掛け合いに少女は笑っている。笑うとやはりまだ幼さの残るあどけないかわいい顔をしていた。

「手を出すんじゃないぞ」

 ママが僕を鋭く睨む。

「出しませんよ」

「どうですかね」

 隣りからももちゃんが冷たく言う。

「ええっ」

 僕はももちゃんを見る。

「だから、なんで怒っているのよ」

「知りません」

 また顔を背けてしまう。

「あ~あ、本気で怒らせちゃったな」 

 ママが言う。

「うううっ」

 もう何が何やら分からない。しかし、ものすごい逆風が拭いていることだけは分かった。

「でも、ほんと大丈夫なんですか。あんな若い子働かせて」

 僕はママを見た。少女は愛想よく、他の客に酌をして回っている。

「あいつはまだ中学生だから、他ではアルバイト一つできないんだ」

「う~ん、でもだったら・・」

「いいんだよ。きれいごとじゃないの。女が一人生きていくためには金が要るんだ。それにああいう家出娘は、ほっといたら夜の世界に引っ張りこまれてヤクザな男に騙されて、いいように使われて無茶苦茶にされちまうって相場が決まってんだよ。だから、ここで働いた方が安全なんだよ」

「そうなのか・・」

 僕は少女を見た。

「やっぱ若くてかわいい子がいると、場が華やぐな」

 少女にお酌をしてもらって源さんがうれしそうに言った。

「悪かったな。年増のオカマで」

「いや、そこまでは言ってないでしょ・・」

 源さんが困惑顔で言い返す。

「いや~、かわいいね。ここの看板娘になれるよ」

 だが、他の客にも少女は評判がいい。

「名前はなんて言うの」

未来みくです」

「へぇ~、名前もかわいいね」

 未来ちゃんは、他のサラリーマン客に次々声をかけられる。

「なんかここにいた方が危なくないですか」

 僕がママを見る。

「まあ、確かにな・・汗」

 そこはママも同意した。


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