冬将軍と鍋奉行
マリアとジョセフはある時トマン村に行きました。冬将軍のパウロが治めている土地です。
「何かパッとしない土地ですね。すっかり寂れているよ。」
「そうだなぁ。何かあったんだろうか。おい!そこの若いの。何でこんなに寂しい街なんだ?ここは。」
「あなたはもしかしてジョセフ・フラットパイン様ですか?」
「ああいかにも。私がジョセフだ。知っておるのか?ワシのこと。」
「ええ。新聞が来ましてね。実は、この村は閉ざされた村なので新聞から近隣の状況をうかがっているんです。もう戦争は終わったんですか?」
「戦争?あー。俺が生まれる少し前に終わったよ。」
「そうですか。申し遅れました。私は、門番のロザリオと申します。ここの主はもう150年ほど生きております。なので私達は、何が起こっているのか分かりません。」
「150年?奴はヴァンパイアか何かか?」
「いや、人間ですが、冷凍人間というものなのでしょうか。凄く体温が低いです。巷では冬将軍と呼ばれています。」
「冷凍人間ねぇ。きっとここには温かいものを感じない。鍋をやろう!」
「な、鍋ですか?村王パウロ様がお怒りになりましょう。」
「心配無い。冷凍人間ならパフォーマンスが低下するはずだ。よし、こうなったら美味しい鍋を作ろう。」
「わ、分かりました。」
「怯えなくていいよ。お父さんは美味しい鍋を作るからね。」
「じゃあ、釣りにでも行くとしよう。ロザリオ!周りから野菜とか集めて来てもらえないか?」
「分かりました。集めてきますよ。」
「マリア。今回は狩猟ではない。釣りだよ。ここは寒いからな。獣達は、冬眠しているに違いない。釣りなら何とか出来ると思う。」
「父上。川の場所は分かっているのか?迷ったら危ないよ。」
「馬鹿だな。川があるから人々は住む。この近くに流れていたことを俺は見てきた。安心しろ。」
そうして、暫くした後、川に行き魚を釣り始めました。
一時間もしないうちに大きな魚が沢山釣れました。
「おお。大漁だ。大漁。恐ろしいなぁ。有難う御座います。山の神様、川の神様。」
二人はトマン村に戻りました。取った魚はマス類が大半だったので大鍋でシチューを作りました。農民達が冬の間仕舞っておいた野菜を使って美味しいシチューを邸の前で堂々と煮込んだのです。
邸にいたパウロはその冷凍した身体故に、シチューの熱を感じて気持ち悪くなりました。しかし、次第に美味しい匂いとその熱気で、苛立ちながらも食べたいと思うようになり外に出ようとしました。身体はあまり動きませんでした。
「何の匂いじゃ?俺の前で……何をする?殺すつもりか。絶対に!釜茹での刑にはされん……ぞ。」
邸の前で、大きな鍋をグツグツと煮立てているロザリオとマリア、ジョセフを見てその目は赤く充血していました。
「パウロ様。これまでです。長い人生もこれで終わりです。安心して永久の眠りについてください。」ロザリオはそのように言いました。
パウロはその場で動かなくなりました。死んでしまったかと思った時、炎のような赤い光が彼を包みました。パウロは生き返ったのです。
「おお。そなたは誰じゃ。私は戦をしておったのだが。」フランシーヌの呪いは、150年の歳月を経てようやく終わったのでした。パウロの記憶にトマン村の150年間は全く残っていませんでした。呪われた肉体が村を治めていただけでした。
「私は、マリア・フラットパインです。通りすがりのハンターの娘です。」
「そうか。この魚を釣ったのもお2人か?」
「左様に御座います。パウロ様。」ジョセフは返事しました。
「私は未だ独身である。マリアを我が妃に迎え入れたい。どうであろうか。父上様。」
「我が娘を娶りたいというのは有難きお言葉であります。本当に宜しいのでしょうか。」
「我が病を治してくれた者に最高の敬意を表するのは当たり前である。そなたは何という名前か?」
「ジョセフです。私は、そこまで腕の立つハンターだとは思えません。あくまで食事を得る為の手段。人助けの為に狩っているわけではありませんので。心持ちが違います。プロは治安維持の為に狩っているのですから。」
「その心意気気に入った。いかなる称号でも与えよう。何が良いか?」
ジョセフは答えました。「鍋奉行の称号を与えて下さい。」と。
その後、パウロとマリアは結ばれて、村では定期的に「鍋奉行」ジョセフが執り行う鍋祭が行われるようになったようです。めでたしめでたし。
最後のお話です。お楽しみいただけたでしょうか。




