第九話:警察はキャラが濃い
今日山田悠介先生の『種のキモチ』という作品を読みました。この作者様の書くこういう系の作品は独特な世界観があって面白いです。
この作品を読んだら新しいキャラ像が浮かんだ・・。まあ、多分出しませんが。
警官達の視線に居心地の悪さを感じつつも、俺たちはカワちゃんに案内されるまま警察庁内を進んでいった。・・とは言っても、居心地の悪さを感じているのは俺だけで、神経が図太い晴明と"ご隠居"の二人は呆れた表情こそ浮かべているものの堂々と歩いていた。
「着いたっス!ここがオイラの働いている部署、『怪奇事件対策部』っスよ!」
カワちゃんがそう言って指差す先には、この建物内に置いて異色の鋼鉄のドアがあった。
・・なんだろう、このいかにも怪しい見た目といい、謎の部署名といい、嫌な予感しかしない!
そう思ったのは俺だけではないようで、晴明も若干顔をひきつらせて「おい、なんだこのいかにも怪しいドアは。本当にここ警察庁か?」と尋ねていた。
「晴明せんぱい、何を可笑しなことを言ってるんスか?ここが警察庁じゃなかったらどこが警察庁だって言うんですか~。」
カワちゃんは晴明の問いに軽い調子でそう返しつつ、ドアの電子ロックを解除していた。ドアの横に取り付けられたモノに暗証番号らしきものを打ち込み、飛び出してきた装置に指紋を押し付け、装置の蓋が開いたらそこにカードキーを差し込み・・という一連の動作を終えた結果現れた鍵穴にポケットから取り出した奇妙な形状の鍵を差し込む。
・・警備厳重過ぎない!?こんなセキュリティシステム映画でも見たことないよ!しかし、そんな厳重過ぎる警備にビビる俺とは対照的に、晴明と"ご隠居"は「あのドアを開けたらゾンビが飛び出してくるに1ペリカ。」「それなら儂はドアを開けた瞬間爆発するに銀貨一枚賭けようかのう。」などとこの状況を楽しんでいる。今だけはその図太さが羨ましいです・・。
『「・・いや、賭ける通貨違ったら賭けにならないだろ。」』
ん!?なんか今ここにいないはずのサトリちゃんの声が聞こえたような気がしたぞ!?後ろから声が聞こえた気がして慌てて振り向くが、そこには当然サトリちゃんの姿はない。・・疲れているのかな?
俺が幻のサトリちゃんに気をとられている間に、カワちゃんはようやくあの怪しいドアのロックの解除を完了していた。(ちなみに、鍵穴に鍵を差し込んだ後も二重ドアになっていて隠されていた方のドアの鍵はダイアル式だった)
「開けー、ゴマ!」
ロックを解除したことで無駄にテンションの上がったカワちゃんが、お決まりの掛け声と共にドアを開けたその瞬間・・
‐ドゴォン!!
という爆音が聞こえてきた。そして、呆然とする俺の目の前に、モクモクの上がる煙に咳き込む痩せ細った男が立っていた。先ほどの爆発のせいか、髪はボサボサで纏っている白衣もボロボロになっている。その姿はまるでゾンビのようだった。
「ゾンビだ!」
「爆発じゃ!」
自らの予想が当たり、歓喜の声をあげる二人。そして、カワちゃんはというと、その謎の男性に呆れた目線を向けていた。
「・・たっくん、また変な実験してたんスか?いい加減にしないと長官に怒られるっスよ?」
「カラカラカラ!怒られるのにはもう慣れっこでござるよカワちゃん殿!・・おや、その後ろの方々はいったい?」
カワちゃんから"たっくん"と呼ばれたその男は、ようやくこちらに気づいたようで独特の口調でそう聞いてきた。
「この人達は、前話したオイラの大学時代の先輩っスよ。今日は仕事でここまで来て貰ったんス!」
カワちゃんがなぜか得意気に胸を張って俺たちのことをそう紹介した。俺だけカワちゃんの先輩ではないんだけれどね・・。
すると、その男は「おおっ!」と驚きの声をあげた後、慌てて俺たちに敬礼をした。
「先ほどはカワちゃん殿の先輩方がいらっしゃるとは思わず、不甲斐ない姿を見せてしまい申し訳ないでござる!申し遅れましたが、拙者の名は日下部匠。カワちゃん殿の同僚でござる!以後よしなに!・・それにしても、カワちゃん殿の先輩方は変わった方が多いようでござるな。」
(((お前が言うな!!)))
恐らく"ご隠居"や晴明を見てそう言ったのであろうが、こちらからしたら見事なブーメランである。もしここにサトリがいたら、三人の思考が見事にシンクロしたのを感じ取っていただろう。またしても『「ナイスシンクロ!演技点満点!」』という幻聴が聞こえてきた。
「何を言ってるんスか!晴明先輩も"ご隠居"先輩もたっくんに変と呼ばれるような人ではないっスよ!」
「いや、パッと見カワちゃん殿の先輩には見えなかったもので・・むむ、やはり眼鏡がないとよく顔が見えませぬな。カワちゃん殿、拙者の眼鏡がどこにあるか知らぬか?」
いや、貴方さっきちゃんと見えてなかったのに人のこと変とか言ったんですか・・。
あと、つっこむべきなのだろうか。彼の眼鏡は頭の上にしっかりかかっていることを・・。漫画のキャラでもあるまいし、なぜあれで気付かないのだろうか。
しかし、俺がそのことを指摘するより先に、日下部に声をかける人物がいた。
「てめえの眼鏡ならそのお粗末な頭の上にあるぜ?」
「おお!こんなところにあったとは!まさに灯台モト冬樹でござるな!」
「灯台元暗しな。確かにあのオッサンの頭は灯台みてえだがよ。」
「おお!そうでござった!失敬失敬!いや、誰かは知らぬが教えていただきどうもありが・・」
そう言いかけて振り返った日下部はその動きを止めた。そして、その目線の先にはグラサンをかけた強面の巨漢が仁王立ちして日下部を睨み付けている。日下部は、震える声でその強面男に話しかけた。
「ちょちょちょ、長官!?なんでここに・・。」
「なんでも糞も、あんな爆発起きて気づかねえ訳ねえだろうがこのボケ!俺の部屋この部屋の奥にあるの忘れたのか!?」
その顔面に負けず劣らずの迫力で長官が日下部を怒鳴り付ける。そんな長官の迫力にその怒りを直接向けられている訳ではないのにも関わらず俺は震えが止まらなくなっていた。
なんだこの人!?本当に警察庁長官なの!?日下部さんが眼鏡探し始めた辺りから部屋に入って来てたけれど、その迫力に晴明でさえもちょっとビビってたよ!?ヤクザかなんなの間違いじゃないの?
しかし、そんな長官の迫力をもろともしない強者がいた。
「あ、ちょうかーん!ちゃんと先輩たち連れてきたっスよー!えへへー、誉めてほしいっス!」
カワちゃんはそう言って笑顔で長官へと近づいていく。その上司に接するとはとても思えないフレンドリーな態度に、俺たちは凍りつくが、予想に反して長官からの雷は落ちなかった。それどころか、
「おお!流石カワちゃん!可愛いだけじゃなく偉いな!ほら、ヨーシヨシヨシ!!」
と、その凶悪な顔に笑みを浮かべカワちゃんの頭をわしゃわしゃと豪快に撫でるという思いもよらない行為に出た。
そして、この事態についていけない俺たちに、カワちゃんに向けたのと同じ凶悪スマイルを向け、長官は日下部と同様に自己紹介をした。
「名乗るのが遅れたな。俺の名前は豪徳寺勲だ。こう見えて警察庁長官をしている。シクヨロ!」
警察・・キャラ濃いなー。
強面だけどお茶目なおじさんってよくないですか?
次回、警察庁長官からの依頼です。