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白百合の烙印  作者: 吹雪やよい
飛蛾赴火篇

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14/14

襲撃


パーティーも終盤に差し掛かった頃。


烙は頃合いかと、ネクタイを僅かに緩めた。


会場は人で溢れ返っている。

狙うなら、今だ。


そう判断して周囲を見渡したとき、ふと違和感を覚えた。


乾杯の時には見なかった顔が、いくつも増えている。


しかも、妙だった。


彼らは誰一人として料理や会話に興味を示さず、絶えず周囲へ視線を走らせている。


――間違いない。


刺客だ。


「白百合、多分……殺し屋がいる」


烙が小声で告げると、白百合はすぐに察したのか、小さく頷いた。


その顔には、隠しきれない焦りが滲んでいる。


それに気付いた鷹野が、そっと白百合の手を握った。


おそらく、彼も気付いている。


そして次の瞬間。


一人の刺客が白百合を捉えた。


仲間と目を合わせ、僅かに頷く。


――合図だ。


烙は即座に白百合の手を引いた。


「白百合、走るよ!」


「えっ――」


戸惑う白百合を連れ、そのまま出口へ駆け出す。


背後では、鷹野が刺客たちの前に立ちはだかっていた。


足止め役か。


だが、それだけではない。


白百合を捕らえるための人員は、おそらくこのホテルのどこかに潜んでいる。


……まあ、見当はついているが。


烙は視界の先にエレベーターを捉えると、そのまま白百合を連れて飛び込んだ。


奴らは上にいる。


ならば、こちらから潰しに行けばいい。


そして――


白百合に、自分の必要性を思い知らせる。


エレベーターが十階で止まった。


扉が開く。


烙は白百合を連れて降りると、壁際に置かれた荷物へ目を向けた。


ここには、シンに頼んで武器を用意してある。


このホテルは二十階建て。


最上階にも敵が集まっている可能性は高い。


だが、その前に目の前の連中を片付けなければならない。


烙は白百合の手を一度離した。


そして、彼女の身体を引き寄せる。


「白百合」


耳元で、静かに囁く。


「これから敵が襲ってくるかもしれない。だから、絶対に僕から離れないでね」


白百合は一瞬だけ目を見開いた。


けれどすぐに表情を引き締める。


「……分かった。お願いします」


その言葉を聞いた烙は、僅かに口角を上げた。


――その瞬間だった。


轟音とともに、天井が崩れる。


「――!」


降り注ぐ瓦礫。


その向こうから、次々と男たちが姿を現した。


数は、およそ五十。


たった一人の少女を捕らえるために、よくもまあこれだけの人数を揃えたものだ。


烙はため息を吐きながら、用意してあった荷物を開く。


中から取り出したのは、大型のナイフと銃。


白百合と初めて出会ったあの日にも使っていた武器だった。


手にした瞬間、身体が勝手に馴染んでいく。


「もしかして、この子を狙ってるのかな?」


烙は銃を構え、目の前の男たちを見渡した。


「それなら――僕が相手してあげるよ」


次の瞬間。


一人の男が飛び掛かってきた。


烙は身体を僅かに逸らして刃を躱す。


そのまま懐へ潜り込み、ナイフを振るった。


一人。


二人。


三人。


次々と敵が倒れていく。


背後から白百合へ迫った男には、振り返りざまに銃口を向けた。


乾いた発砲音。


一発。


正確な一撃が敵を捉える。


――眉間。


あの日と、同じように。


だが、今回は数が違う。


倒しても、倒しても、次々と敵が押し寄せてくる。


「白百合!」


烙は彼女を抱き上げると、ワイヤーを天井へ撃ち込んだ。


身体が一気に宙へ舞う。


そのまま敵を引き付けるように階段へ着地した。


「……こっちだ」


敵が一斉に追ってくる。


烙は白百合を抱え直すと、階段を駆け上がった。


その瞬間。


上から銃声が響く。


銃弾が頬を掠めた。


「……っ!」


烙は身体を捻りながら銃を抜く。


階段の上にいる男へ向けて、迷いなく引き金を引いた。


一発。


二発。


三発。


敵が次々と倒れていく。


しかし、白百合を抱えたまま四方八方から襲い掛かる敵を相手にするのは、さすがの烙でも容易ではなかった。


ふと、腕の中へ視線を落とす。


「白百合、大丈夫?」


「……うん」


返事はした。


だが、その身体は小刻みに震えている。


怖いのだろう。


どれだけ危険な目に遭ってきたとしても、恐怖そのものが消えるわけではない。


烙は何も言わず、彼女の手を強く握った。


大丈夫だ。


こんな連中に負けるほど、自分は落ちぶれていない。


やがて下の階にいた敵を片付けると、烙は上から迫ってくる刺客を退けながらエレベーターへ向かった。


もちろん、白百合を抱えたまま。


幸い、エレベーターはまだ動く。


二人が乗り込むと、扉が閉まり始めた。


烙は白百合を背後へ庇い、僅かに開いた扉の隙間から銃を構える。


発砲。


また一人。


扉が完全に閉じた。


これで、この階までの敵はほとんど片付いた。


現在地は、おそらく十六階。


残る敵も、そう多くはない。


烙は小さく息を吐き、二十階のボタンを押した。


そして弾を装填しながら、途中で敵が乗ってこないことを祈る。


――だが。


その願いは、あっさりと裏切られた。


エレベーターが十八階で停止する。


「……!」


扉が開く。


その隙間から、ゆっくりと銃口が現れた。


まずい。


このままでは、白百合に当たる。


烙は即座に白百合の前へ立ちはだかり、銃を構えた。


そして――引き金を引く。


しかし。


避けられた。


「……何?」


烙の表情が僅かに変わる。


今まで、こんなことはなかった。


自分の狙撃を避けられる人間など、並の殺し屋にできる芸当ではない。


これは――少々まずい。


烙はもう一度、銃口を向けた。


その瞬間だった。


「烙! 撃たないで!!」


今まで黙っていた白百合が、突然叫んだ。


「……白百合?」


烙は戸惑いながら、銃口の向こうへ視線を向ける。


そして――


男の足元が目に入った。


汚れ一つない、黒塗りのオックスフォードシューズ。


その靴を、烙は知っていた。


いや。


忘れるはずがない。


「……まさか」


ゆっくりと、視線を上げる。


そこに立っていたのは――



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