能力の足りないものは嫡男と言えども
「自分の息子には親のひいき目がありますから・・・。でも、サーケ様は、嫡男であるだけではなく、文武ともに問題はない方です。その方を追放というのは、あまりにも酷い仕打ちではないか、と世間は言うのではないでしょうか?」
とスジコ公爵に訴えるのは、どういうわけか第二夫人ホッケだった。彼の息子の、サーケの異母弟ということになるが、ザンギを次期公爵とするという夫の決定に対して、彼女は異議を唱えたのである。半分はポーズとも言えるが、半分は本心からだった。剣神というスキルを持ち、士官学校の成績も抜群だった。とはいえ、嫡男ではなく、母親、自分の身分が低いことでの、反発がくることを心配していたのである。あと、ほんの少しばかり、サーケへの同情もあった。
「う~ん。」
「我が家は、代々国の守り手として活躍していた家です。その当主たる者はそれに相応しい能力があるものでなればなりません。あなたのお心には感謝しますが、ここは能力による選択が必要不可欠です。ご心配の点については、私がザンギ殿を養子とすれば問題はありません。」
迷いが出てしまう公爵に変わって、第一夫人のニシーナが凛とした態度で割って入った。これには、第二夫人のホッケが唖然とし、惚れ惚れとするようにニシーナを見た。
「お父様。いくら何でもひどすぎます。母上も、あまりにも冷たすぎます。」
とサーケの妹のジャーガは抗議した。
「姉上の言う通りです。兄上のスキルは素晴らしいですよ。」
と同調したのは、末弟のイーモだった。
彼女は大魔導士、彼は開拓者のスキルが与えられていた。二人とも、両親譲りの金髪の美男美女だった。ジャーガは、スリムで女としては長身だったから、やや小柄な弟のイーモとはほとんど同じ背丈のように見えた。19歳と18歳である。
「お嬢様。お坊ちゃま。閣下も、奥様も、正しいご判断です。若様は・・・スジコ公爵家のご当主にはふさわしくはありません。」
と言い出したのは家令でもある中年の騎士団長だった。いつの間にか入ってきた。2人も子供の頃から世話になった、主に怒られた、男である。
「あ、あなたまで・・・見損なったわ、裏切り者。」
「あ、姉上。落ち着いて。」
「あのスキルは、常在戦場を旨にする我がスジコ公爵家には、堕落させることはあっても、力にはなりません。ふさわしくないとしか言えないのです。」
苦しそうに、呟くように言った。彼にとっても苦しい選択だということが伝わった。
「兄上と一カ月間生活した結果の結論なのですか?」
ジャガの言葉に彼は小さく頷いた。
「仕方がないですね。」
「お姉さま。」
「彼が、本心からそう思うのであればしかたがないわよ。ところで、お兄様は何をしたの?」
サーケは、実はひと月少し前に、
「試したいことがあるので、1カ月ほど出てきます。」
と言ってでていったのである。
「それは・・・、若から直接お聞きになった方がいいでしょう。」
「そうね。久しぶりに、お兄様の楽園部屋にいくのもいいわね。イーモもいらっしゃい。」
「はい。姉さま。」
「というわけでここに来た?私の話とここで寛ぎたいのとどちらだい?お嬢様?」
「もちろん、お兄様がどうして嫡男の地位を捨てることを決意したのか、聞きに来たのよ。ねえ、イーモ。」
「は、はい。姉上。」
「まあ、そういうことにしておこう。」
「でも、お兄様が家を出て8年間、その前から古ぼけた小屋でしかなかったけど、一昨日見た時には、すっかり朽ちかけているようにしか見えなかったのが、大理石の壁の建物になって、中身も本宅より新しく、清潔で、しかも、この応接間だけでも、この建物には入らないのよね。全く恐ろしいスキルよね。」
と豪華なソファに深々と座り、テーブルに置かれたTカップを手に取って、口へと運んでいた。
「自分スキルの限界を、どこまで広げられるか、どのくらいのことができるのか、あらためて確認していたんだよ。」
やはり深々とソファに座るサーケは答えた。
行程は、スジコ公爵邸から3日の時間がかかる、ラベンダ山に馬車でおもむいたのである。
そこで、自分のスキルの限界をサーケは試したのである。今までの経験、少しづつ試してきたことの集大成のようなことを試みたのである。天幕を設営したり、穴を少し掘ったり、見つけた洞穴の入り口に、一応入口だというように布を張ったり、模型の家などを置いたり、種を少し撒いて開墾の真似事をしたり、木の枝を地面に刺したりと色々やってみた。
「範囲は、この屋敷の敷地程度かな?、家庭菜園というか畑なども含めてもな。天幕の中はとてつもなく広い豪華な部屋になって、必要なものが揃っていたし、ちょっと掘った穴はでかい空間、色々なものがある立派な地下室に、洞穴も同様だった。模型の家などもかなりの大きさになって、中に入ると・・・同様だったし、樽とか千蒲や箱は、それぞれ中身の入った実物大のものになったいた。こんこんとわく泉も井戸も現れてくれた。温泉もな。ただ、そこまでだ。この屋敷はかなり広いけれど、小さな村にもならなかった。今後、まあ多少大きくできてもたかが知れているからな。」
「お兄様も、一応は嫡男の地位を守りたかったわけね?確かに、一つの都市くらい、その範囲を広げることができれば・・・う~ん、それでも我が家としては難しいかも・・・。」
「やっぱり仕方がないことですか?」
「そういうことだ。私だって公爵の座に未練や雌雄着がないわけではないさ。だから、スキルなしでも軍人として頑張ってみた、可能性をかけてね。まあ、その成果は美味ようでしかなかった。私が公爵になって、あいつにそれなりの立場を、としても多分文句を言い出す親戚がいる。その逆も同じだ。だから、辺境の小さな領地を貰って、それで我慢して、あいつが名実ともに当主になるというのが一番だ。母上の判断が正しいということだ。」
彼は最後に小さく寂しげに笑った。母親が自分を非常にも見捨てたという気持ちは、他仕様ともある、と言うことを妹は理解した。小さいため息をついてから、顔を上げて、いかにも上から目線で、
「お兄様の言う通りだと思いますし、お兄様がそう言うならしかたがありませんね。というわけで、お兄様がここを去るまで、ここに泊まらせてもらって、お兄様の楽園を堪能させてもらいます。」
「いりびたるつもりか?」
と苦笑すると、
「失礼なことを言わないで下さい。一日中慰めてあげるのですよ、可哀想なお兄様を。」
と小悪魔風な笑顔を浮べる妹の顔を見ながら、その脇で呆れてついていけません、という顔の弟を見ながら、こいつはそれなりに自分ことを思ってくれていると考える妹に甘いサーケだった。




