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鋼鉄の血 ― 異世界のWar Thunder ―  作者: PGGG1214
第2部:Velindiaの地における対決
20/20

第15章:ZARATHEN ― 機械の町(2)

長い間お待ちいただき、ありがとうございます。


本作は素人の手による作品ですが、私自身も仕事に追われる日々の中、少しずつ完成度を高められるよう努力を続けています。


いくつか小さな問題があるため、新しい章の更新はこれまで以上に遅くなってしまいそうです。また、各章を地域ごとに分類する方法も試し始めました。これによって、物語の始まりから現在の展開まで、皆さんが全体像を把握しやすくなればと思っています。


体調は少しずつ回復してきましたが、Snailへの貢献にますます時間を取られるようになり、新章の更新ペースはさらに遅くなってしまっています(笑ってごまかす)。


執筆に使える時間がわずかしかない中でも、皆さんからの応援は、作品をより良いものへと仕上げていくための大きな励みになります。


いつも応援してくださり、本当にありがとうございます。

第3部:Zarathen――機械の町(1)

携帯電話の時計は、午後六時を示していた。

三つ目の分かれ道を通り抜け、小川を渡り、赤土の林道に沿って進む。荷馬車の一団が洞窟の入口へ到着した頃には、雪もすっかり止んでいた。

しかし、肌を刺すような冷気は容赦なく吹きつけてくる。危険な森の奥深くに、一分一秒でも長く留まっていたいと思う者などいなかった。

「到着しました。洞窟の入口です、Stepanovichの旦那!」

先頭を進んでいた者から報告を受け、BrenとMiraは前方へ視線を向けた。

そこには、まるで二つの世界を隔てる巨大な壁のようにそびえ立つ、切り立った崖があった。

その岩壁には、幅およそ四十五メートル、高さは百メートルを優に超えるほどの巨大な洞窟が口を開けていた。

まるで、正体不明のダンジョンへと続く巨大な門のような裂け目だった。

夕暮れが次第に夜の闇へと覆われていく中、BrenとMiraは目の前の光景に圧倒されていた。

「いつもどおりだ。入口のすぐそばにある荷物置き場へ、荷物を順番に並べてくれ」

Stepanovichは、洞窟の外側にある、粗末な柵で囲まれた倉庫用地を指差した。

「それから、追加の荷物を受け取りに行く。今回は君たちのおかげで、積み荷を無事にここまで運ぶことができた。あとで、少しばかり上乗せして渡そう」

「ありがとうございます、旦那。いつも俺たちのことを気にかけてくれるのは、あんたくらいですよ。へへへ……」

雇われた作業員の一人が鼻をこすりながら、嬉しそうに笑った。

一方、Brenは荷物を持ち上げようとして、すぐに苦戦し始めた。

「こ、この木箱……なんでこんなに重いんだ……!」

三、四個ほどの箱を持ち上げたところで、Brenは息を切らし始めた。

それに対して、Miraは三箱もの荷物を軽々と抱えていた。まるで、中身の入っていない段ボール箱でも運んでいるかのようだった。

「ハハハハハ! 若いの、なかなか頑張るじゃないか。だが、どうやらStepanovichの旦那のように、マナを扱えるわけじゃなさそうだな」

二つの重い箱を抱えた運搬作業員が、歩きながら声をかけてきた。

「俺たちみたいに、マナで身体を鍛えられる者ならな。四人がかりでこの荷馬車一台分の荷物を担いだって、子猫を抱えるようなものさ」

「なるほど、そういうことか……」

Brenは一歩ずつ、慎重に足を進めながら答えた。

「それなら、もっと早く言ってくれればよかったのに……」

その間、Stepanovichは荷物置き場の周囲に、目印となる石油ランプをいくつか灯していた。夜間の作業を照らし、荷物を並べる人々が迷わないようにするためだ。

夜の訪れとともに、洞窟の内部から冷たい風が吹き出し始めた。

その風には、息苦しい闇がまとわりついているようだった。

恐怖を知らない者でさえ、長く留まることをためらうような、不気味な空気。

とても、内部に町が存在しているとは思えなかった。

「Stepanovichの旦那、荷物の積み下ろしが終わりました!」

「よし、全部そろっているな? なら、馬車のところで待っていてくれ。今回の運賃に加えて、特別報酬も支払おう」

一時間も経たないうちに、荷物はすべて倉庫へ運び込まれた。

BrenとMiraも、空き地へ荷物を下ろす作業を手伝った。

木箱には封印の印が残っており、中にはごく普通の物資が詰められていた。

石炭が入った箱。

肥料用の鉱石。

そして、季節外れの果物。

どれも特別な品物ではない。

しかし、Zarathenの住民たちにとって、これらは冬を越すための生命線ともいえる重要な物資だった。

冬が訪れるたび、この補給が町の生存を左右するのだ。

「ありがとうございます、旦那。次に何か用があったら、いつでも俺たちに声をかけてください」

「Suka……。あの爺さん、次もまだ働ける体力が残っているといいんだがな。ハッハッハ!」

ヒヒーン!

ヒュッ――。

カタカタ、カタカタ……。

空になった荷馬車の一団は、そのまま夜の闇の中へと走り去っていった。

薄く積もった雪の上には、車輪の轍と馬の足跡がくっきりと刻まれていく。

作業員たちは、すぐに中継都市へと引き返していった。

これ以上ここに留まれば、城門が閉じられる時間に間に合わなくなることを知っていたからだ。

街道には、依然として盗賊たちの脅威が残っている。特に夜間は危険だった。

それに、洞窟の入口へ荷物を届けるたび、彼らはいつも言いようのない不安を覚えていた。

「はぁ……。またここまで荷物を届けることになっちまったな。

今日は本当に運が悪かった。まさか、この地域の盗賊どもとやり合う羽目になるとは……。

まあ、報酬は多かったし、第二級のルーン石まで手に入った。これで、あと何回かは酒盛りができそうだな」

荷馬車隊の先頭を務めていた男は、重荷を下ろしたかのような深いため息をついた。

空になった荷馬車の一団は、そのまま何事もなくGrenmarkへ向かっていった。

「行っちまったな、Stepanovichの旦那。さて、ここから先は……この大量の荷物を、俺たちだけで中へ運び込むのか?」

Brenが尋ねた。

「いやいや、運搬を担当する者が別にいる。ついてきなさい。すぐ近くにある見張り所へ向かおう。そこから町の者たちに連絡を入れる。

それと……町へ入る前に、君と少し話しておきたいことがある」

「わかった」

Brenは短く答えた。

「それで、私はどうすればいいの?」

Miraも二人についていこうとしたが、Stepanovichは彼女を制止した。

「待ちなさい、お嬢さん。しばらく、ここで荷物を見張っていてくれないか。Brenと二人で、少し用事を済ませてくる。

もう少しすれば、洞窟の内部から運搬隊がやってくるはずだ。……まあ、驚かないでいてくれると助かる」

そう言うと、BrenとStepanovichは山へ続く小道を歩き始めた。

Miraは、石油ランプの光が届く荷物置き場に残り、木箱を見張ることになった。

山道を百メートルほど登ったところに、苔むした壁の内側へ巧妙に隠された見張り所があった。

Stepanovichは石油ランプを手に持ち、Brenを先導していく。

やがて、老人は苔に覆われた壁をゆっくりと押し開いた。

その奥には、固く閉ざされた木製の扉が現れた。

Stepanovichは鍵を取り出し、錠前へ差し込む。

ガチャガチャ……。

何度か鍵を回す音が響き、扉が開いた。

中には、壁に掛けられたモノクロ写真が何枚もあり、古い型式の電話ボックスならぬ、昔ながらの電話機が置かれていた。

「着いたぞ。ここなら十分に秘密を守れる。わしら以外に、話を聞く者もいないだろう。

少し話し合えるといいのだが……その前に、荷物を取りに来る部隊へ連絡しておこう」

StepanovichはBrenを室内へ招き入れた。

歩みはゆっくりとしていたが、その足取りには確かな力強さがあった。

部屋は小さな見張り所ほどの広さしかなかった。黄ばんだメモ用紙が壁に貼られ、長年掃除されていない埃が、ちらつく石油ランプの光を浴びて浮かび上がっている。

老人は、長い間埃をかぶっていたMosin-Nagantを机の上に置いた。

その衝撃で、積もっていた埃が舞い上がる。

「ゴホッ、ゴホッ……!」

Brenは思わず咳き込んだ。

Stepanovichは気にすることなく受話器を取り上げ、ダイヤルを回し始めた。

その間、Brenは壁に掲げられた町の古い写真を眺め、静かに考えを巡らせていた。

カチッ……カチッ……カチッ……。

リンリン……ジジジ……。

「こちらはStepanovichだ。今回の町への物資輸送は無事に終わった。

Kharovの部隊に連絡してくれ。わしが洞窟の入口へ戻ったとな。それから、今回、新たに町へ加わる住民が二人いることも伝えておいてくれ」

『Stepanovichの旦那ですか? こちらはKhrusです』

暗い洞窟の内部を二十キロメートル以上隔てた先で、電話を受けた男が応答した。

Stepanovichが無事に帰還したことに、声の主は隠しきれない喜びをにじませていた。

『よかった……! 今回は戻ってこられないんじゃないかと心配していたんですよ。

これで、火薬や薬品を作るための原料も、ようやく届きましたね。すぐに迎えを出します。

ここ数日は町もかなり緊迫していました。骨の姿をした軍勢による攻撃を、何度も防がなければならなかったんです』

「町の状況はどうなっている、Khrus?」

『旦那のほうが苦労しているのと同じように、こちらも厳しい状況ですよ。

あの化け物どもは、日に日に強くなっています。ここ数日だけでも、骨の魔物たちに見張り塔をもう一つ破壊されてしまいました。

それでも、Ivanovicのおかげで、まだ町は持ちこたえています。あいつが機転を利かせて、東門に対戦車壕を追加で掘り、罠を仕掛けるよう住民たちに指示したんです。

そのおかげで、敵の車両をさらに五両破壊できました。

それに、敵が残していった車両も何両か回収できています。BT-5やBT-7の型ですね。

ほかにも何種類かありましたが、正体を確認する前に破壊されてしまいました。

残念ながら、こちらに一両しかなかったT-28も、この前の攻撃で大破してしまいました。今、残っているのは、それより古い型の車両ばかりです。

……今回の戦闘でも、帰らぬ者となった住民が何人かいました』

再び、沈黙が訪れた。

Stepanovichは、その言葉の意味を十分に理解していた。

老人は短く答えた。

「わかった。町に戻ってから、詳しい話をしよう。

それと……今回、新たに加わる住民のうち一人は、あの脅威を打ち倒す手段を知っているかもしれん」

カチッ。

電話は短く切り上げられた。

ひとまず、町が直ちにさらなる危険にさらされているわけではない。それを確認すると、Stepanovichは古い写真を見つめていたBrenの肩を軽く叩いた。

「君には、この写真から何か見えるかね?」

Brenは首を横に振った。

「古い時代の面影が残っているのはわかります。それに、二つの世界の技術が混ざり合ったような印象もありますね。

現代から見れば、博物館に飾られているような写真ばかりです。

……この地下の町は、ずっとこんな姿だったんですか?」

Stepanovichは答えた。

その声はしゃがれていたが、決して重苦しいものではなかった。

「君のような人間なら、ここにある機械は、もう過去の思い出にすぎない時代を生きているのだろうな。

それも当然だ。君には君自身の人生がある。

わしらは、祖国防衛戦争の記憶とともに生きている。

そして、地球から持ち込まれた機械と、この世界の住民たちが捨てた物を組み合わせ、それを頼りに暮らしてきたんだ」

老人は、壁に掛けられた写真を一枚ずつ指し示していった。

そこには、小さな店が軒を連ねる街並みが写っていた。

水道管の修理店。

粗末なベルトを売る店。

そして、手回し式の弾薬プレス機が一台だけ置かれた、小さな弾薬製造工場。

酒場もあった。

照明には油を入れたランプが使われ、テーブルや椅子には、廃棄された装甲車両から取り外された車体の骨組みが再利用されていた。

子供たちは木製の車を走らせて遊び、大人たちは機械油で汚れた厚手の綿服を身につけている。

魔道具も、魔力による補助も存在しない。

この土地で生き残るためにあるのは、無骨な機械と、人間の知恵だけだった。

それでも、写真に写る住民たちの目は明るかった。

まるで、石油ランプの炎のように。

彼らから、生きる力が失われることはなかったのだ。

「ここ、Zarathenはそういう町なんだ。

わしらが生き延びてこられたのは、誰にも注目されなかったからだよ。

誰も気に留めなかったからこそ、わしらは今日まで、こうして存在し続けることができた」

「……これまでに、元の世界へ帰る方法を探したことはないんですか?」

Brenが尋ねた。

「もし帰れるものなら、わしは今、ここで君と出会ってはいないだろうな」

Stepanovichは、静かに答えた。

「町を築き上げる過程で、わしの仲間たちは皆、この土地に倒れていった。

彼らは、見捨てられた人々を守るために戦い、命を捧げたんだ。

理由は、君も知っているはずだ。君自身も、よくわかっているだろう。

この町に暮らしている者の大半は、魔力と呼ばれるものを感じ取ることができない。マナも、それに類する力も持っていないんだ。

この世界の社会では、彼らは『劣った存在』と見なされている。

だからこそ、彼らは別の生き方を探すしかなかった。

異世界の人間たちが蔑んでいるもの――機械と知恵を頼りにしてな」

老人は一度言葉を切り、古びた写真へ視線を戻した。

「今から六十年ほど前のことだ。

わしと仲間たちは、虚空に生じた裂け目に引きずり込まれ、この異世界へやってきた。

後になって、ある奇妙な博士から、それが『空間裂孔』と呼ばれるものだと教えられた。

当時、わしらは祖国防衛戦争が終わりに近づいていた頃、前線にいたんだ。

そして、この山林地帯へ迷い込んだ。食料もなく、もう死ぬしかないと思っていた。

だが、そこで彼らに出会ったんだ。

わしらと同じように、この世界から見捨てられた者たちに。

彼らもまた、その裂け目へ落ちてきた者たちだった。あるいは、何らかの事情で偶然ここへ流れ着いたのかもしれない。

彼らは、この洞窟の中に仮の避難場所を築いていた。

中には学者や技術者もいたし、戦いを終えたばかりの兵士もいた。

皆で力を合わせ、まずは鍛冶場を造り、道を掘り進め、エンジンを製造した。

洞窟の内部にある油田から石油を採取し、精製して燃料を作ることも始めた。

そうして、少しずつエネルギー供給網を整備し、町を発展させていった。

……その積み重ねが、今のZarathenを築き上げたんだ」

「……それは、本当に長い道のりだったんですね」

Brenは思わず呟いた。

「そんな困難な状況に直面しながら、この世界で町を存続させてきたなんて……本当にすごいと思います。

魔力も魔法も使えない人々が、機械だけを頼りにして、この世界の中で一世紀以上もの間、生き延びてきた。

……心から、尊敬します」

Stepanovichは、子供たちが無邪気に遊んでいる様子を写したモノクロ写真に、そっと手を触れた。

そして、Brenへ語りかけた。

「なあ、君は知っているか?

この町では、子供たちは九歳になると、エンジンの組み立てを学び始める。

十三歳にもなれば、金属の溶接や鋳造ができるようになる。十五歳になれば、簡単な石油精製設備の保守まで任せられるんだ。

すべて自分たちで学び、自分たちで知識を伝えていく。

先輩の職人たちから技術を受け継ぎ、それを次の世代へと手渡していくんだ。

勉強も同じだよ。すべて紙の手帳やノートに書き残している。

本一冊でさえ、わしらにとっては貴重なものなんだ。

なにしろ、子供たちにこの世界の外のことを教えてくれる者がいないのだから。

この大陸の帝国社会は、ひどく厳しい。

たとえ高性能な翻訳石を持っていたとしても、魔力を持たない『劣等者』が本を買うことは禁じられているんだ。

多くの者が勉強に励み、外の世界へ出て、近隣の学校へ入学しようと努力してきた。

だが、結局は拒絶されるだけだった。

……中には、そのまま帰ってこられなかった者もいる」

Stepanovichは深いため息をついた。

彼はMosin-Nagantを手に取り、背中に銃のスリングを回した。それから壁の掲示板から手を離し、空いている椅子へ腰を下ろした。

Brenは何も言わなかった。

胸の内には、奇妙な感情が広がっていた。

自分自身もまた、この異世界に馴染めず、居場所を失った人間なのだという思い。

そして、本来なら平和な生活を送っていたはずの人々が、突然この土地へ引きずり込まれ、過酷な現実を生き抜かなければならなくなったことへの共感。

二つの感情が、彼の中で静かに交錯していた。

「……さて、ここからが本題だ。Suka」

Stepanovichは、部屋の奥に広がる暗闇を見つめながら口を開いた。

「この町には魔術師がいない。それに、最近は物資の不足も深刻になってきている。

そして何より……わしらは、あの連中が『ダンジョン』と呼んでいるものを恐れているんだ」

「それが……俺たちをこの町へ連れてきた、本当の目的ですか?

中継都市では外部の人間に対する検査が厳しくなっています。俺たちに一時的な居場所を与えること以外にも、理由があるというわけですね」

Brenが尋ねた。

「そのとおりだ」

Stepanovichは頷いた。

「君は未来の世界から来た人間だ。

ならば、きっと何か方法があるはずだ。あの機械どもを倒す方法がな。

かつて、あれらはわしのような赤軍兵士にとって誇りだった。

だが、今となっては……町を無差別に殺戮する、死んだ機械にすぎない。

あのダンジョンは、もはや前線と変わらんのだ」

老人は一枚の地図を取り出した。

そこには、町全体の簡単な見取り図が描かれていた。

彼は地図の東側を指差した。

そこには、三本の大きな通路が伸びており、その先には赤錆に覆われた鉄製の扉が並んでいる。

扉の上には、鋸歯状の記号とともに、次の番号が記されていた。

01、03、04。

「命を落とした冒険者たちが残した情報によれば、この三つが町へ通じる主要なダンジョンだ」

Stepanovichは、順番に説明していった。

・ダンジョン識別番号01――低危険度。比較的安全。

内部には、主に石角を持つ魔物や、弱い火サソリが生息している。また、食用にできる草食動物も存在する。

いわば、自然の庭園のような場所だ。

危険性は低いが、油断は禁物。

危険ランク:I

・ダンジョン識別番号03――中危険度。

内部は湿気が多く、石壁には吸盤状の器官を持つ魔物が張りついている。

この場所は、町全体へ水を供給する水源でもある。

ウナギのような姿をした水棲生物も生息している。

水中へ入らなければ、比較的安全だ。

危険ランク:I~II

・ダンジョン識別番号04――高危険度。

ここには、古代の残兵騎士と呼ばれる魔物がいる。

金属鎧を身にまとった兵士のような姿をしており、魔法まで使用できる。

壁を蹴って飛び出し、錆びた鉄剣を振るう。その一撃だけで、荷馬車を両断するほどの力を持っている。

そして、この場所には町の生命線である石油を採掘できる鉱床が存在している。

危険ランク:II~III

「この分類方法……冒険者ギルドのものですね」

Brenはすぐに気づいた。

「そのとおりだ。君はなかなか情報に詳しいようだな」

Stepanovichは感心したように頷いた。

「だが、この三つのダンジョンなら、町の住民たちはすでに攻略を終えている。

本当の問題は……わしらが直面している、もう一つの脅威だ」

老人は、人差し指で地図上の閉ざされた鉄扉の記号を指し示した。

「隠された通路がある。

この三つのダンジョンのさらに下に位置する、未知の通路だ。

発見されたのは、今から七年ほど前のことだった。

識別番号04のダンジョンで採掘を行っていた作業班が、油田の採掘規模を拡大しようとした際、奇妙な岩の天井を見つけたんだ。

その下にあったのは……普通のダンジョンとはまったく異なるものだった。

古い軍事施設だ。

しかも、その広さは……まるで、どこまでも果てしなく続いているかのようだった」

Stepanovichの眼差しが、次第に暗くなっていった。

「わしが率いる調査隊が、初めてその奥へ足を踏み入れたときのことだ……。

そこには、巨大な倉庫があった。

倉庫の中には、戦車がぎっしりと並んでいたんだ。

赤軍の車両だった。

T-26、BT-7。そして、一度も砲弾を撃つことなく眠りについていた、IS-1の車体まであった。

燃料は残っていたし、弾薬も十分に積まれていた。

車体の緑色の塗装も、まるで新品のようだった。

だが、いったい誰が、何のためにあれほどの車両を残していったのかは、誰にもわからなかった。

しかも、それはほんの一部にすぎなかったんだ。

さらに奥には、訓練場まであった。

そこには、錆びついた戦車が数多く放置されていた。

何もかもが厚い埃に覆われ、まるで長い間、封印されていたかのようだった。

わしらは、どうにかして動かそうとした。

だが、どれほど試しても、一台たりとも始動させることができなかった。

そして……最初の調査を終え、わしらが施設から戻ろうとした、そのときだ。

あの鋼鉄の機械どもが……まるで、息を吹き返したかのように動き始めたんだ」

「生き返った……?

いったい、どういう意味ですか?

まさか……誰かが戦車を操縦しているんですか!」

Brenは目を見開き、地図に記された問題の場所を凝視した。

Stepanovichは拳を強く握りしめた。

まるで、かつて信じていた何かに裏切られたかのように。

「違う。あれは、ただの無機物じゃない。

最初から何らかの意思を持ち、わしらが失敗する瞬間を待ち構えていたんだ。

Blyat!」

老人は、低く唸るような声で続けた。

「当時、調査隊の最後尾にいたのは……一両のIS-2だった。

わしの記憶が正しければ、1944年に生産された新型車両だ。

だが、そいつを操っていたのは……祖国を裏切った指揮官だった」

Stepanovichの顔には、怒りと苦悩が浮かんでいた。

「今でも、あいつの姿を覚えている。

Zekan……。

かつて、わしらが暮らしていた町で誇りとされていた男だ。

だが、あいつは祖国を裏切った。

敵に情報を流し、爆撃機を後方へ差し向けたんだ。

そこには、無実の子供たちと、その家族が避難していた工場の施設があった。

爆撃によって施設は破壊され、多くの人々が瓦礫の下に埋もれた。

この町の住民の中にも、あの爆撃から生き延びた者が何人かいる。

そしてZekanは、あの事件の後、軍法会議で銃殺刑に処されたはずだった。

……ところが、あいつは死んでいなかった。

いや、この場所で、死体となって蘇っていたんだ。

あいつは今も士官用のコートを着込み、士官帽をかぶっていた。

指揮官用のハッチに立ち、DShK機関銃を構えていたんだ」

老人は、奥歯を噛みしめた。

「わしは、あいつを撃った。

あのとき処刑されたときと同じように、眉間を狙って一発。

だが……まったく効かなかった。

弾丸が命中した瞬間、あいつの目が光り始めたんだ。

そして、わしらの調査隊を執拗に追いかけてきた。

わしらは、逃げながら一日以上も戦い続けた。

犠牲になった仲間は十人近くにのぼった。

それでも、どうにかして、あの鉄扉で施設を封印することができたんだ。

だが、あいつはもはや、ただの人間ではなかった。

際限のない殺戮への欲望に取り憑かれた、悪魔そのものだった。

そして、ほんの数か月前……封印していた扉が破られた。

あいつの率いる部隊が、再び地上へ這い上がってきたんだ」

StepanovichはBrenの目をまっすぐに見つめた。

そこには、長い年月を生き延びてきた老兵の、切実な願いが込められていた。

「だからこそ、わしは君に頼みたい。

未来から来た君なら、きっと何か方法があるはずだ。

どうか……このZarathenを救ってくれ」

Brenは、地図に記された赤い円を見つめた。

その中央には、死を意味する記号が描かれていた。

そして、紫色のルーン石が自動的に翻訳した名称が、彼の頭の中に浮かび上がった。

Z-K5――立入禁止区域。

……また、戦争か。

Edhenでの戦いが終わってから、まだそれほど時間も経っていないというのに。

Brenは、しばらくその記号から目を離せなかった。

(本当に……この世界での生活には疲れてきたな)

彼は胸の内で、静かに呟いた。

(ここは天国なんかじゃない。

むしろ、生き残るための戦場だ。

まだ八か月しか経っていないのに……どうして、これほど多くの出来事を経験しなきゃならないんだ……)


第4部:Zarathen――機械の町(2)

それからしばらくして、時計の針が午後九時を回った頃。

グルルルル……。

ピッ……ピッ……。

「……魔物なの?」Miraは洞窟の入口へ視線を向けた。

洞窟の奥から漏れ出す光と、地鳴りのようなエンジン音に、彼女は驚いていた。腰に差した剣の柄を強く握りしめ、周囲の様子をうかがう。

ヒュンッ……ブロロロロ……!

「おや……どうやら、Stepanovichの旦那が連れてきた新しい住民のようだな」

年配の運転手が、隣に座る副運転手へそう告げた。

先頭を走って、一台のGAZが空の荷台を揺らしながら飛び出してきた。

その後ろからも、次々と車両が姿を現す。

荷台には、荷物を積み込むために待機していた人々が乗っていた。そして、隊列の最後尾には、四挺のMaxim機関銃を搭載したGAZが護衛として続いていた。

機関銃の銃身はまだ熱を帯びていた。どうやら、道中で遭遇した低級の魔物を、つい先ほど仕留めてきたらしい。

「おお、来たか。ちょうどBren君との話も終わったところだ」

StepanovichとBrenも、見張り所から山を下りてきたところだった。

二人が簡単な説明と紹介を済ませると、Miraもようやく剣を鞘へ戻した。

「……ここが地下の町の住人たちなのね? 二人と同じように見えるわ。彼らからは魔力を感じない……」

Miraは運搬隊の人々を見渡した。

彼らは馬も、魔力で動く乗り物も、荷物を運ぶ獣も使っていなかった。

代わりに、機械油の匂いを漂わせ、荒々しい排気音を響かせる機械を操っている。

Miraは以前、BrenのT-34に乗った経験があった。それでも、魔力にまったく頼らず動く機械を目にするたび、その驚きが薄れることはなかった。

ましてや、魔力を使えない人々が、この危険な世界で今も生き続けているという事実は、彼女にとって新たな発見だった。

「みんな、急いで荷物を積み込んでくれ! 町では、この物資をずっと待っているんだ!」

先頭車両の運転手が、町から来た運搬隊へ指示を出した。

Stepanovichは、すでに四号車へ乗り込み、休んでいた。

荷物の積み込みを手伝おうとしたBrenとMiraに気づくと、運転手は二人へ声をかけた。

「Miraさん、Bren君。二人は新しく町に加わる住民だ。まずは休息を取るといい。荷物も三号車に置いておけばいいからな。

二人とも、長い一日でかなり疲れているはずだ。それに、この洞窟の道は険しい。町の中も空気が少しこもっているから、慣れていない人間には辛いだろう。

荷物の積み込みは、残りを俺たちに任せてくれ」

運搬隊の人々が、木箱を次々と荷台へ積み上げていくのを、二人は眺めていた。

一日中、急いで移動したうえ、盗賊たちとの戦闘まで経験したのだ。二人とも疲労が蓄積していたため、運転手の申し出を断ることはなかった。

「ありがとうございます」

Miraはそう答え、自分の荷物を持ち上げると、Brenのあとについていった。

Brenも全身の力を抜き、一歩ずつ三号車へ近づいていく。

そこには、古びた姿を残しながらも、いくらか改造された屋根のないトラックが待っていた。

Brenは荷物を荷台へ置き、持ち歩いていた荷物と、倉庫で手にした銃を包み込んだ布を、片隅へきちんとまとめた。

それから、ようやく背中を預けて休む。

この世界をさまよい続けた数か月の間で、初めて心から力を抜けたような気がした。

彼は革製の水袋を取り出し、少しずつ水を飲んだ。

その隣では、Miraがこれから向かう町について考えを巡らせていた。

「荷物はしっかり固定しておいてくれよ。落っことしたら、こっちでも拾いに戻れないからな」

「注意してくれてありがとうございます」

Miraはそう答えた。

「はぁ……ようやく、少しだけ落ち着けた気がする……」

Brenの口から、深いため息が漏れた。

こうして、新たな町へ向かう旅が始まった。

三十分以上が経過した頃、ようやく荷物の積み込みが完了した。

「みんな、乗車してくれ! 隊列を見失わないように注意するんだ!」

Stepanovichが声を張り上げた。

人々は急いで荷物を整理し、それぞれの車両へ乗り込んでいった。

ガチャガチャ……グルルルル……。

カチッ……。

「さあ、出発だ! 町へ帰るぞ!」

およそ十二台の車両が列を作り、再び洞窟の入口へと進んでいった。

ヘッドライトの光と石油ランプの明かりが交錯する。外では、再び雪が降り始めていた。

車列は、そのまま暗闇に包まれた洞窟内の道へと入っていった。

洞窟の入口を抜けた先に広がっていたのは、自然が生み出した壮大な傑作だった。

「こ、この内部……広すぎるだろ……」

Miraはヘッドライトに照らされた景色を眺めながら、思わず呟いた。

入口そのものも十分に広いと思っていたが、その内部はさらに広大だった。

ここは、冒険者たちが発見し、探検し、攻略することを夢見る場所でもある。

しかし、道は決して快適ではなかった。

土と砂が入り混じった、起伏の激しい路面。

GAZのエンジンが唸りを上げ、岩だらけの道を進むたび、車体全体が激しく揺れた。

尖った岩がいくつも突き出し、深い窪みが連続している。

車輪がそれらを乗り越えるたび、強烈な衝撃が車内へ伝わってきた。

まるで、乗員たちの背骨から魂まで引き剥がそうとしているかのようだった。

「道が酷すぎるだろ……。本当に、このまま進めるのか?」

Brenは顔をしかめ、体勢を保つために荷台の縁を強く握りしめた。

すると、車内にいた運転手が後方の窓を開け、二人へ声をかけた。

「この車両は、かなり改良してあるんだ。心配しなくていい。

それに、俺はこの道を十年も走っているんだからな」

三号車の運転手は、そう答えながら巧みにハンドルを操った。

副運転手は案内用の標識を一つずつ確認している。

その眼差しには、遠い記憶を思い返すような、物憂げな色が浮かんでいた。それでも、ハンドルを握る手は落ち着いており、車両を巧みに障害物の間へ導いていた。

荷台の後方に座るMiraは、車体の側面に取り付けられた手すりをしっかりと握っていた。

灰色がかった瞳がわずかに細められる。

激しい揺れのたび、橙がかった金色の髪がふわりと舞い上がった。髪を束ねる紐も、頭にかぶった帽子も、今にも吹き飛ばされそうだった。

「ここは……外ほど寒くないのね。

でも、こんなに広いのに、少し息苦しいわ。呼吸もしづらい気がする」

Miraは、次の険しい道へ差しかかったところで、副運転手に尋ねた。

「おっしゃるとおりです。

この洞窟の中では風が流れませんから、空気がこもりやすいんですよ。特に、こうした道ではその傾向が強いんです。

外から来た冒険者たちが道に迷う原因の一つも、それですね。

俺たちは『洞窟内の酸素不足』と呼んでいます。調査員や科学者たちが発見した、よくある現象なんです。

ですが、心配はいりません。町ではずっと前から、地下水脈を利用した通気路を掘ったり、山の薄い岩層を貫通させたりして、外部の空気を取り込むための設備を整えてきました」

副運転手はそう答えた。

一方、Miraの隣に座っていたBrenは、この場所特有の、忘れがたい匂いを感じ取っていた。

濃厚な岩の埃の匂い。

機械油の臭気。

そして、湿った土が放つ、かび臭さを含んだ空気。

それらが奇妙に混ざり合っていた。

まるで、何百万平方メートルにもわたって広がる、黄色い壁紙を貼った空間のようだった。

毛足の長い絨毯と、どこか湿っぽい匂い。

そして、見慣れた蛍光灯の明かり。

準備もなく足を踏み入れた流れ者なら、二度と戻ってこられないような、ひっそりと隠された世界。

自然は、この場所に生きる人々へ、息を呑むほど美しい景色を与えることもある。

だが同時に、道に迷った者の命を、あまりにも無慈悲に奪い去ることもあるのだった。

車列は大きな窪みの続く道を抜けると、少しずつ速度を落とした。

広大な洞窟の天井の下を走っていた車両は、やがて狭い分岐路へ進んでいく。

道は徐々に細くなり、天井も次第に低くなっていった。

そして、さらに地下深くへと続く、低い天井の通路が現れた。

「しっかりつかまっていてくれ! この先は下り坂だ。距離は、およそ二キロメートル!」

運転手が後方へ声を張り上げた。

BrenとMiraは、慌てて車体にしがみついた。

それまで比較的平坦だった道が、次第に傾斜し始める。

彼らが乗っているトラックには屋根がない。注意を怠れば、下り坂の衝撃で荷台から放り出されかねなかった。

前方には、地の底へ向かって長く伸びる急斜面が広がっていた。

まるで、あらゆるものを飲み込む巨大な喉のようだった。

岩盤の斜面には古びた鉄骨の補強材が組まれ、減速用の障壁がいくつも設置されている。

鉄骨は錆びつき、そこかしこに溶接の跡が残っていた。

さらに、二百から三百メートルほどの間隔で、小さな電灯が岩壁に取り付けられていた。

それらは、進むべき道を示す黄色い光を放っている。

明かりは頼りなく揺らめき、車輪は相変わらず激しく跳ね続けた。

この道そのものが、車両に乗るすべての人間の耐久力を試しているかのようだった。

「Stepanovichの旦那から聞いたことがある。Zarathenは、地上のどの町とも異なる建築様式を持っているそうだ」

運転手は確かな手つきでハンドルを握り、隊列に続きながら話し始めた。

声は低く、落ち着いていた。その言葉は洞窟内に反響し、車列が平坦な道へ戻ろうとする頃まで響いていた。

すると、副運転手も話を引き継いだ。

「Zarathenは、地下深くに埋もれた記憶の断片のような町です。

分厚い岩盤と、長い年月の浸食に耐えながら、何十年もの間、ここに残り続けてきました。

俺たちは、この町が自分たちのような、魔力を持たない者たちを受け入れてくれたことを誇りに思っています。

十年以上前のことですが、俺はほかの移民たちと一緒に、村を追われたことがありました。

変異した魔獣が村を襲ったんです。命からがら逃げ出したところで、今度は街道の盗賊たちに襲われました。

そのとき、俺たちを助けてくれたのがStepanovichの旦那だったんです。

そして、この紫色の石こそ、俺たちの間にあった隔たりを取り払い、町の住民に平等をもたらしてくれた証なんですよ。

俺たちよりも、もっと運に恵まれなかった人々もいます。

そう考えると、俺たちに希望を与え、少しでも良い暮らしを目指す機会をくれた人たちには、本当に感謝しています」

短い会話が終わる頃、車列は次第に平坦になっていく土の道へ差しかかっていた。

岩と砂の入り混じる道は、やがて地下の地層へと続く、比較的平らな土道へと変わっていく。

その先に、町が広がっていた。

Zarathenは、地下およそ二百五十メートルに位置する地層の中に存在していた。

地形は、巨大な自然の洞窟が崩落して生まれた、広大な空洞から成り立っている。

高さはおよそ二百メートルにも達し、天井付近には山頂まで抜けるような巨大な陥没口があった。

しかし、そこから十分な太陽光が差し込むことはない。

この地に流れ着いた人々は、最初の頃、石油ランプや自然発光する石によって闇を照らしていた。

空洞の周辺にある低い土地は、住民たちが何十年もかけて補強し、少しずつ拡張してきた場所だった。

地図の上から見ると、町とその周辺地域は、およそ縦横六キロメートルずつの正方形に収まるほどの広さを持っている。

中央にある陥没穴は、その区域全体の約十二分の一ほどの面積しかなかった。

一年を通して、南側の高い山脈が日光を遮っている。そのため、太陽の光が差し込むのは、昼頃のわずかな時間に限られていた。

それ以外の時間、町の大部分は闇に包まれている。

北側の一角は、過去に発生した大規模な地殻変動によって深刻な崩落を起こしており、区域全体のおよそ六分の一に相当する空間が埋没してしまっていた。

それでも、崩落を免れた場所には、独立した一つの世界とも呼べる閉ざされた環境が残されていた。

そこには、巨大なルーン石の光を利用して整備された、半人工的な原生林が広がっていた。

それらの光るルーン石は、この世界へ人々が転移してくる以前から存在していたものもあれば、転移後に発見されたものもあった。

小さな丘には森林が広がり、貴重な薬草が育っている。

麦畑が広がる平原には、奇妙な鉄分を含んだ赤い岩の露頭が点在していた。

そして東側には、魔物が出現する深い坑道へと続く、鉱物の採掘区域が存在していた。

車列の運転手が、二人に説明を続けた。

「今、俺たちはZarathenの南側から町へ入ろうとしている。

ここは、トラックが通れる唯一の入口だ。徒歩で入ることは、あまり勧められない。

空気のよどむ場所が多いし、休憩所からも遠いからな」

運転手は、土道で速度を上げながら話を続けた。

「この場所では、天井の陥没口から太陽の光が差し込む。

だが、南側の山脈が遮っているせいで、昼の真ん中あたりに、ほんの一時間にも満たない時間しか日光が届かないんだ。

ここに来たばかりの俺たちが、最初に頼りにしていたのは闇と、ルーン石が放つ人工的な光だった。

幸運なことに、流れ着いた発明家たちと、町を気にかけてくれていた数人の魔法学者が力を合わせてくれた。

それで三十年近く前、昼間の光を再現する装置が造られたんだ。

おかげで、外の世界と同じように、昼と夜のある生活を維持できるようになった。

今は冬だ。上の陥没口から降り積もった雪が、下の区域にも溜まっている。

それでも、この装置のおかげで、地下の住民たちは外の環境に近い状態で生活できるんだ」

運転手の説明が終わると、副運転手も口を開いた。

「町へ入る前に、二人とも覚えておいてください。

町へ通じる道は、大きく二つに分かれています。

一つは、住宅地と工場区域へ向かう道です。そこには住民の大半が暮らしていて、経済活動の中心となる施設や学校、病院、商店なども集まっています。

もう一つは採掘区域へ向かう道で、その先には、封印された深いダンジョンの入口があります。

もし、封鎖された道へ誤って入り込んでしまったら……。

それも、遠距離武器を持たずに迷い込んだりすれば、どこから現れるかわからない、あの緑色の機械どもに襲われるかもしれません」

「忠告してくれてありがとう」

Miraが礼を述べた。

一方、Brenは運転手たちの説明を黙って聞きながら、ときおり鉛筆を走らせ、素早くメモを取っていた。

それは、単なる走り書きではなかった。

新たに得た情報を整理し、自分なりの推測地図を組み立てるための重要な記録だった。

そうすることで、Brenはようやく、この町の全体像を少しずつ思い描き始めていた。

道の先には、巨大な二つのルーン石が輝きながら、彼らの到着を待ち受けていた。

その光が、暗闇を貫く。

四号車に乗っていたStepanovichが、前方へ向かって声を張り上げた。

「着いたぞ!

Zarathen――機械の町へようこそ!」

ヒュンッ……。

ブロロロロ……。

光が一瞬、強く輝き、それから元の明るさへ戻った。

そして、その先に広がっていたのは、中部Arkenham地方の昔話に登場する、おとぎ話の世界のような光景だった。

百年前、一人の冒険者がこの場所を「妖精の庭園」として記録に残したことがあった。

しかし、それ以降、誰一人として再びこの場所を見つけることはできなかったという。

もし、Grenmarkの冒険者や、周辺の村々から来た冒険者たちがこの場所を発見し、帝国へ報告していたならば……。

Zarathenは、Velindiaの三大奇観の一つに数えられていたかもしれない。

北方の帝国領にそびえる大聖堂。

そして、西方に広がるKan湖。

その二つに肩を並べるほどの場所として。

「……なんてことだ。

こんなに美しく、夢のような場所が本当に存在するのか……!」

Brenは驚きの声を上げた。

彼が想像していたのは、狭くて息苦しく、かび臭い空気と工場の排煙に包まれた地下の町だった。

しかし、目の前に広がっていたのは、まったく異なる光景だった。

そこは広大で、天井も高かった。

白と黄金色の光が混ざり合い、ルーン石によって町全体を照らしている。

外が夜になっても、この町が暗闇に沈むことはなかった。

道沿いには多様な植物が生い茂っている。

松によく似た、長い年月を生きてきた森林の木々。

そして、道端を埋め尽くすように咲く、色鮮やかな草花。

町へ入ってすぐの場所には、地底を流れる小川が地表へと姿を現し、澄んだ水をたたえていた。

「こんなに美しい場所で……本当に、町として長い間暮らしていけるものなのね」

Miraは、車窓の外を流れていく不思議な景色から目を離せずにいた。

その瞳には、忘れがたい印象が刻まれていた。

「もう六十年近くになるな。

この中だけで暮らしていても、十分に生活できる。それが、わしらにとって何より幸運だった」

Stepanovichは、車両の前方から振り返り、二人に聞こえるように答えた。

その声には、長い年月を生きてきた者だけが持つ、深い経験がにじんでいた。

「Zarathen――機械の町は、少しずつ、今の姿に近づいていった。

一つずつ歯車を組み上げ、一つずつ石を積み重ね……。

ここに暮らす住民たちの血と汗によって、すべてが築き上げられたんだ」

車列はそのまま道を進み、住民たちが暮らす区域へ向かっていった。

先頭車両は、古びた案内板の前で左折した。

そこには、奇妙な混合文字体系によって、各施設の名前が記されていた。

古いロシア語と、Velindiaの言語を組み合わせた、独特の文字だった。

BrenとMiraは、翻訳石の助けを借りて、少しずつ現地の文字を理解できるようになっていた。

照明に照らされた案内板には、はっきりとこう記されていた。

Zarathen町中心部――1km

車列が町の中心部へ進んでいくと、目の前の景色は突如として大きく広がった。

そこにあったのは、壮大で、圧倒されるほどの規模を持つ町だった。

頑丈な構造をした立方体状の建築物。

生産区域を覆う、巨大な金属製のドーム。

澄んだ水をたたえる人工湖の上に架けられた鉄橋。

そして、蜘蛛の巣のように町のあちこちへ張り巡らされた電線。

町の入口では、住民たちがずっと帰還を待っていたかのように、道路の両側へ整然と並んでいた。

やがて、歓声が上がった。

「ついに……物資が届いたぞ、みんな!

これで、俺たちの工場もようやく操業を再開できる!」

「よかった……! 病院で使う薬の原料も、これで補充できるわ!」

「Stepanovichの旦那が、とうとう帰ってきた!

もし旦那が戻らなかったら、あの機械どもに対抗する方法なんて、見つけられなかったかもしれない……」

「Ivanovicも、この知らせを聞けば喜ぶだろうな。あいつは、将来この町を導いていく有望な人材なんだから」

歓声と拍手が、車列が町へ入っていく間、絶え間なく響き渡った。

その音に、夜通し稼働している工場からの喧騒が重なっていく。

金槌が釘を打つ、甲高い音。

蒸気ボイラーが噴き出す、耳をつんざくような音。

そして、短く鳴り響く汽笛。

それらすべてが混ざり合い、町全体に一つの混沌とした交響曲を奏でていた。

機械の町は、決して眠ることがないかのようだった。

車列が近くの車両置き場へ到着すると、そこで一度停止し、二手に分かれた。

Stepanovichは、BrenとMiraが乗る三号車へ移った。

三人はそこから住宅区域へと向かう。

一方、物資を積んだほかの車両は、それぞれの工場や、荷物を必要としている区域へ走り続けた。

ブロロロロ……。

「工場へ向かうんですか?」

Brenが尋ねた。

「そうだ。あの車両に積まれているのは、工場へ届ける品物だけじゃない。

怪我をして病院で治療を受けている住民たちに必要な、薬や医療物資も含まれているんだ。

町の西側には、砲弾や銃弾に使う火薬を製造する工場がある。今は、そこへの物資供給がとても重要になっている。

つい先日の戦闘で、町が保有していた火器と弾薬の備蓄は、ほとんど使い切ってしまったからな。

あちらには小規模な武器工場もある。

主に町の防衛部隊へ装備を供給するための工場で、製造しているのは小銃や、それに古い戦車の残骸から取り出した七十五ミリ砲や八十五ミリ砲が中心だ。

それらの砲は、東側の防衛を担っている。

ほかにも、町には軽装甲車が何両かある。どれも古い型だが、最近、魔物から回収したものを修理して、防衛部隊で運用しているんだ」

Stepanovichが説明した。

「装甲車……? それはいったい、どんな乗り物なんですか?」

Miraが尋ねた。

「そうだな……鎧を着せた馬みたいなものだ。しかも、たくさんの人間を乗せられる」

Brenが代わりに説明した。

「ああ、そういうことね……」

Miraは納得した様子で頷いた。

そして、ふと思い出したように口を開いた。

「そういえば、Stepanovichさん。一つ聞きたいことがあるの」

「何だね?」

「この町の住民は、みんな魔力を持たない人たちなの?」

「いや、全員というわけではない」

Stepanovichは手を振って答えた。

「道中、運転手たちが話していたのを聞いただろう?

中には魔術師もいれば、魔法学者もいる。外から迷い込んできた冒険者もいるんだ。

彼らはしばらくこの町で暮らすうちに、住民たちや、この町の景色に愛着を持つようになった。そして、外へ戻ろうとは思わなくなってしまったんだ。

要するに、この場所が気に入ったというわけだな。

今では、町を支える重要な人材として貢献してくれている。

君たちが持っている、その紫色の翻訳石も、そうした人々が力を合わせて生み出した成果の一つなんだよ」

「この町には、何か決まり事があるんですか?

住民の皆さんとうまく話せるか、少し心配で……」

Brenが尋ねた。

「ハッハッハ! そんなに先回りして心配する必要はないさ」

Stepanovichは、しゃがれた声で笑った。

その笑みには誇りがにじんでいたが、どこか寂しげな影もあった。

「ここでは、いつだって穏やかに暮らすことを大切にしている。新たに加わる住民も、きちんと認められれば歓迎するんだ。

わしらが守っているのは、単純な原則だよ。

魔法が足りないなら、筋肉を使え。

筋肉が足りないなら、歯車と機械を使え。

そして、その三つすべてが尽きてしまったときには……」

老人は一度、言葉を切った。

「それでも生き続けるために、何かしらの理想を探す。すがりつくための信念を見つけるんだ。

わしらにとって、それは……いつか祖国へ帰れるという希望だった」

Stepanovichの頬を、年老いた顔に似つかわしくない涙が、ぽつり、ぽつりと伝った。

「たとえ……わしらの祖国が、もう存在しなくなっていたとしてもな。

そして、わしら自身が孤立し、二度と帰ることができなかったとしても……。

先祖や父親たちが築き上げてきた、伝統と価値観だけは、これからも残り続けるはずだ」

しばらくの間、老人は遠い記憶に浸っていた。

やがて車両が住宅区域へ入ると、彼は悲しみを振り払うように顔を上げ、この町について説明を始めた。

「さて、ここについて少し紹介しておこう。

この町の人口は、およそ二万一千人だ。

大半は今いる中心区域に暮らしているが、周辺のいくつかの場所にも住民が分散している。

区域は、それぞれの職業や用途によって分けられているんだ。

機械工や工員たちが集まる、騒がしく活気のある工業区域。

静かで質素な住宅区域。

歴史を感じさせる、厳かな学校区域。

そして、小さな医療施設もある。規模こそ小さいが、町にとっては最も重要な場所の一つだ。

ここには、外の世界にあるような壮大な城も、豪華絢爛な宮殿もない。

代わりにあるのは、わしらが暮らしていた世界の様式を受け継いだ高層建築だ。

そして、町全体へエネルギーを供給する、ディーゼルエンジンや石炭ボイラー、採掘した魔力石の音が響いている。

食料についても説明しておこう。

ここでは、動物の肉はそれほど珍しいものではない。主な供給源は、ダンジョン01だ。

ダンジョンとはいっても、あそこで生息している動物は家畜として飼育できる。普通の動物と、それほど変わらないんだ。

住民たちは、それらの肉を野菜や果物と一緒に調理して食べている。

パンに使う麦や野菜などは、ダンジョン03にある地下温室や、君たちが見た外側の畑で栽培しているんだ。

熟した果物は乾燥させ、長期間保存できるようにしている。

食料そのものは十分にあるから、飢え死にする者は誰もいない。

ただし、外から持ち込まれる果物や木の実は、今も欠かせない物資だ。町での生産量だけでは、長期的に必要な量をまかなえないからな。

それが、この町に昔から付きまとっている問題なんだ」

Stepanovichは、町の重要な特徴を簡潔に説明し終えた。

キィ……。

三号車のGAZは、小さな宿屋の前で停止した。

そこは、ロシア語で「星」を意味する**Звезда(Zvezda)**という名前の宿だった。

異世界をさまよう冒険者や、新たに町へやってきた人々が、よく宿泊する場所でもある。

すでに夜が更けていたため、この道路を走っているのは、三人と運転手、それに副運転手だけだった。

「さあ、二人とも降りてくれ。荷物も忘れずにな。

この宿に部屋を用意しておいた。明日になったら、正式な住民登録の手続きを一緒に済ませよう。

どこの町でも、こうした手続きは必要なんだ。破壊活動を企てるような者が紛れ込んでこないようにするためだ。二人も、事情はわかるだろう?」

Stepanovichは、低くしゃがれた声で説明した。

その声には、長い道のりを移動してきた疲れが隠しきれずににじんでいた。

三号車の運転手と副運転手も、忘れずに自己紹介した。

「俺の名前も覚えておいてくれ。Fathだ。町の運転手をやっている」

「俺の名前はZazop。副運転手だ。

何か用があれば、西側の車両基地で俺たちを探してくれ」

三人が車両を降り、町の石混じりの地面へ足を下ろすと、三号車はすぐに車両基地へと引き返していった。

洞窟の天井にある陥没口から、冷たい風が吹き下ろしてくる。

その風に混じり、雪と雨が入り交じった小さな粒が、岩の隙間から舞い落ちていた。

冬特有の、どこか懐かしい匂いが漂っている。

三人は荷物を手に、宿屋の中へ入っていった。

「Stepanovichのおじいちゃんですか?

よかった……! 無事に帰ってきてくれたんですね!」

受付係の若い女性、Marieが声を上げた。

まるで事前に知らされていたかのように、彼女は駆け寄ると、Ste¬panovichを力いっぱい抱きしめた。

「ハッハッハ! 帰ってきたぞ。

ほら、お前が探していたテディベアを持ってきてやったぞ」

Stepanovichは布袋から、一体のテディベアを取り出した。

そして、若い受付係へと手渡した。

Marieはためらうことなく、そのぬいぐるみを抱きしめた。

それは、彼女が長い間、再び手にしたいと願っていたものだった。

何年もの間、彼女はこのぬいぐるみを探し続けていた。

魔獣に両親を奪われたとき、彼女のそばに残されたのは、まだ幼かった弟のIvanovicだけだった。

そんな二人を、Stepanovichが一人で世話してきたのだ。

そして、あのぬいぐるみも、両親を失った混乱の中で行方不明になってしまっていた。

「二人のお客さんの部屋は、もう準備できているかい? Marie」

「はい、すでに整えてあります」

Marieはぬいぐるみを一度テーブルの上へ置くと、部屋の鍵を取り出し、二人へ手渡した。

「お待たせいたしました。こちらが二名様用のお部屋の鍵です。203号室になります」

「ありがとうございます」

Miraが礼を述べた。

「わしもそろそろ休むとしよう。明日の朝、住民登録を済ませるときに、また会おう。

特に君だ、Bren。何か問題があれば、わしのところへ来なさい」

そう言い残し、Stepanovichはその場を離れた。

……

Miraが部屋へ運び込む荷物を整理している間、Brenは傍らで携帯電話を確認していた。

一日の疲れに加え、Stepanovichの意味深な話も、彼の頭から離れなかった。

時刻はすでに午前零時に近づいていた。

受信箱には、まだ読んでいない通知が一件残っている。

疲れ切ったBrenは、今すぐにでも眠りにつきたいと思っていた。

そのときだった。

宿屋の廊下から、古いレコードプレーヤーの音が流れてきた。

一九四〇年代のものと思われる、年代物の蓄音機が動いている。

廊下に置かれた古びた拡声器から、レコードの柔らかな旋律が響き始めた。

長い一日の終わりに聞こえてきたのは、懐かしく、聞き覚えのある歌だった。

Расцветали яблони и груши

(リンゴと梨の木々が、花を咲かせていた)

Поплыли туманы над рекой

(川の上を、霧がゆっくりと流れていった)

Выходила на берег Катюша

(カチューシャが、川岸へと歩み出た)

На высокий берег, на крутой

(高く、険しい岸辺へと)

Brenは、歌詞を小さく口ずさんだ。

Miraは、一日を締めくくるように流れてくる、その旋律へ静かに耳を傾けていた。

しかし、Brenの胸には、言葉にできないほどの感情が込み上げていた。

喉が詰まり、息をすることさえ難しくなる。

懐かしい歌声が耳に届いたことで、自分が完全に孤立してしまったわけではないのだと、改めて感じられたのだった。

まだ、帰る道は残されている。

そして、元の世界へ帰るという決意も、決して失われてはいない。

「これは……『Katyusha』……」

Brenは、震える声で呟いた。

曲が終わりを迎えると、最後の旋律は静寂の中へゆっくりと溶けていった。

部屋の石油ランプが揺らめき、遠くにある目標を見据える人影を壁へ映し出す。

地の底深くに築かれた機械の町では、今もなお、活気に満ちた営みが続いていた。

巨大な歯車は、休むことなく回り続けている。

そして、この奇妙な町の中で――。

Brenは再び、運命の歯車へと足を踏み入れた。

これから待ち受ける試練と、数々の変転に立ち向かうために。

第5部:料理人を隠れ蓑に

「何だと? 我々のアメ印の品物が露見し、正体を見破られただと? 音楽再生機の売値を二十金貨以上も不当に吊り上げ、法外な値段を要求してきただと? それに……先日、市場の様子を探らせていた者が、別の誰かに密告されて捕まったというのか? ならば、今日中に私のために街で一席用意しろ。我々の手駒をここまで潰せる勢力が、一体どこの何者なのか、この目で確かめてやる」

「承知いたしました……閣下」

「行くぞ。どうやら、この件は我々自身が動く必要がありそうだ」

ヒヒィィィン……。

パカッ、パカッ……。

東方帝国。

そこは、諸外国の製品を加工する工房が数多く存在する一方、厳格な規則と血塗られた関門で知られる過酷な監獄をも抱える土地だった。

雪がまだ地面に残る早朝、一人の女性が小さな馬車を操っていた。荷台には木製の屋台が積まれており、そこには見慣れない文字で「宝楚」と記されている。これは「包子」を意味する言葉なのか、それとも何らかの語句を音写したものなのか。

女性の装いには東方帝国独特の文化が色濃く表れていた。伝統的な意匠や模様を現代風にアレンジしたその姿は、ファンタジー小説に登場する華夏の国を彷彿とさせる。

彼女は獣人の亜人の相棒を連れ、目立たぬよう静かに移動していた。街への入城審査を待つ商人たちの列に紛れ込んでいる。傍目には、ただのフリーランスの料理人にしか見えない。周囲の者たちもそれぞれの仕事に追われており、彼女の存在を気に留める者はいなかった。

「ん? 料理人だと? 名前は……Lan Xueyin。東方から来たのか。それに亜人まで連れているとは。食糧すら不足しているこの状況で、料理人に一体どんな仕事があるというのだ……まあ、通っていいぞ。せいぜい仕事が見つかるといいな」

「ありがとうございます」

そう答えながら、彼女はこっそりと金貨を二枚、門番のポケットへ滑り込ませた。どちらもBrenの使う硬貨より大きく、厚みもあるものだった。

門番はそれ以上の検査をせず、手で通行を促した。

彼にとっても、さほど気にする理由はなかった。異国から来た者たちであり、しかも東方出身のただの料理人だという。おまけに、酒場で一杯やれるだけの金まで手に入ったのだ。

すでに大半のスパイが捕らえられている。今さら新たなスパイがGrenmarkに近づこうなどとは考えまい。

そんな単純な思い込みが、特別な人物を警備の門の向こうへと通してしまったのだった。

________________________________________

中継都市Grenmarkには、濡れたビロードの幕を垂らしたかのような、重苦しく沈んだ空気が漂っていた。灰色の瓦屋根は霧に濡れ、街並み全体がどこか陰鬱な雰囲気に包まれている。

先ほどの短い空中戦で目撃された、見慣れぬ竜たちの余韻はまだ消えていなかった。しかし、それも束の間のことだった。今や街では、Edhenから逃れてきたとされる移民や、各地から送り込まれたスパイたちの一斉摘発が始まっていたのだ。

火薬の煙と焼けた金属の生臭い匂いを運ぶ小さなつむじ風が城門を吹き抜け、古びた塔に掲げられたぼろぼろの旗を揺らしていく。

街を行き交う人々は、空を横切った奇妙な竜のこと、身分を偽って追われている者たちのこと、そして狡猾なスパイたちの噂を、声の大小を交えながら囁き合っていた。

何よりも不気味だったのは、正体のわからない不安が、しつこく空気の中にまとわりついていることだった。そのせいか、街路を歩く人々の足取りは、いつもよりほんの少しだけ遅く、慎重になっていた。

Erikaは、まだこの中立都市を離れていなかった。引き継ぎ作業が終わっていないためだ。

それだけではない。彼女の胸中には、強い衝動にも似た予感が渦巻いていた。Grenmarkには何か重要なものが隠されている。あるいは、何かが近づいているのかもしれない。

Edhenから逃れた生存者たち。追跡命令が出された後も、各地から送り込まれたスパイたちが、この周辺に潜伏している可能性もあった。

さらに、副隊長Clovis Arvenを通じて学園長から伝えられた情報も気がかりだった。機械を操るスケルトンの怪物が存在するというのだ。

Erikaはここを離れる前に、もう少し情報を集めておく必要があった。そのうえで、副隊長に残りの任務を引き継がせるつもりだった。

彼女は強力なLeopard 2A5*を所有し、海のように膨大な魔力を授かっている。自由自在に飛び回る機械を召喚できるうえ、この時代には存在しない技術の産物まで持ち合わせていた。

そんな彼女が今、ひっそりと腰を下ろしているのは、中央広場にほど近い静かな路地裏にある、小さな茶屋の二階だった。

彼女は陶器の茶碗を手に取り、温かい茶を何口かすすった。Velindiaでは、冬の寒い時期によく飲まれる茶だった。

灰色がかった瞳は、階下の様子を一つ残らず観察している。獲物を狙う豹のような眼差しだった。

最初は湯気を立てていた茶も、いつの間にか冷めきっていた。粗末な木のテーブルの上に置かれた茶碗には、もう目もくれない。

ジャスミン茶のほのかな香りと、砂糖をまぶした菓子の甘さをもってしても、Erikaの内側で渦巻く緊張を和らげることはできなかった。

「ん……下が、何やら騒がしいな」

階下では、奇妙な屋台を囲むように人々が集まり、ざわめいていた。見慣れない料理の数々と、食欲をそそる香りが、通りすがりの者たちの足を止めている。

「包子はいかがですか! 包子はいかがですか!」

黒髪を左右の高い位置でまとめた女性が、客を呼び込んでいた。

髪をまとめたことで、細く長い首筋と華奢な肩が露わになっている。茶色の瞳をした彼女は、流れるような手つきで、真っ白な包子を竹の盆に並べていた。

しなやかで優美な立ち姿。身体の曲線にぴったりと沿う赤いチャイナドレスが、女性らしい魅力を際立たせている。腰元には赤い結晶が一つ取り付けられていた。熱を保つためのルーン石らしい。

寒空の下でも、彼女は涼しげな顔で客を呼び込んでいた。

簡素な木製屋台の下では、小さなかまどが火を燃やしていた。腰にエプロンを巻いた獣人が火を吹き込み、勢いよく立ち上る蒸気の中から、ほのかな乳の香りを含んだ温かい料理の匂いが漂ってくる。

屋台の側面には、手書きの木札が掲げられていた。Velindiaで一般的に使われる言語で、料理名と値段が書かれている。

包子――一個9銅貨

麺料理――一杯30銅貨

蒸し餃子――四個10銅貨

「ただのフリーランスの料理人? それに、この見慣れない料理……。どう考えても、普通ではなさそうね。こんな雪の降る日に、どうして寒そうにしていないのかしら。やっぱり、腰のあのルーン石のおかげ?」

Erikaは目を細め、状況を見極めようとした。

あの女性には、不思議な魅力があった。遠い異国から来た者ならではの自信と優雅さがあり、思わず近づいてみたくなるような引力を感じさせる。

それ以上に気になったのは、彼女のコミュニケーション能力だった。

現地の言葉を正確に発音し、流暢に話している。言葉遣いには多少の違いがあるものの、地方特有の訛りはまったく感じられない。

客への呼びかけも絶妙だった。押しつけがましくなく、それでいて自然と人々の注意を引きつける。

蜂蜜のように甘い眼差し。しかし、媚びているわけではない。そこには品位があり、偽りや欺瞞を感じさせるものもなかった。

傍らにいる白黒の毛並みをした亜人も、ただの厨房係であるかのように、黙々と作業を続けていた。

「目立てば目立つほど、どこかに綻びが生まれるもの。でも、あの女にはそれが見当たらない……。私の勘が正しければ、彼女たちは絶対に普通の料理人じゃない。こんな冬の街に、遠方の料理を売り歩く屋台が現れるなんて……どうして、こんな妙な連中がいるの? あの家族もそうだったけれど……」

Erikaは、あの料理人についても警戒を解かなかった。

あの女もまた、前回の空中戦と同じように、Yilfenという男が仕掛けた罠の一つなのだろうか。それとも、本当に異国から来た普通の料理人にすぎないのか。

あの一件以来、Erikaには判断がつかなくなっていた。

あれは、彼女の理解を超えた出来事だったのだから。

________________________________________

地上では、賑やかな人だかりの中、Lan Xueyinが手際よく包子を竹の盆に並べていた。

白くふっくらとした包子からは、薄い湯気が立ち上り、柔らかく甘い香りが漂っている。雪のように白く滑らかな皮は、舌の上でほどけるほど柔らかく、上質な小麦粉と牛乳の甘みを感じさせた。

中継都市の片隅で見慣れない料理を目にした人々は、次々と足を止めていく。

「皆様、少々お時間をいただきます。本日ご紹介するのは、東方から伝わる独特な料理――包子でございます」

Lan Xueyinは盆の蓋を開けた。中には、白い包子が湯気を勢いよく立ち上らせながら並んでいた。

「この街に来たのは本日が初めてでございます。最初の一盆は、皆様に無料でお配りいたします。お気に召しましたら、どうか今後ともご贔屓に」

彼女は包子の載った盆を持ち上げ、物欲しそうに見つめる群衆へ差し出した。

人々の間にざわめきが広がる。誰もが、この異国の料理人が作った食べ物を一度は味わってみたいと思っていた。

何しろ、この季節は食糧不足に加えて移民も増え、商人たちの店も品切れのために一時休業を余儀なくされている。物価は日に日に上がり、普段なら30銅貨で買えた庶民向けのパンでさえ、今では2銀貨近くにまで値上がりしていた。

茶代を払い終えたErikaも、様子を確かめるために階下へ降りた。

屋台の前には、ますます多くの人々が押し寄せていた。

盆が差し出されるや否や、手のひらほどの大きさしかない包子を、人々は我先にと手に取っていく。どんな味がするのか、早く確かめたかったのだ。

「私にも……私にもください!」

「こっちにも! 私も食べてみたい!」

「いい匂いだな……これが包子ってやつか?」

先に受け取った者たちが包子にかぶりつくと、濃厚なミルクの風味が口いっぱいに広がった。

その味わいは、普段食べているパンとは比べものにならないほど新鮮だった。

パンよりも小さく、中身も入っていない。それでも、寒い日に温かな蒸しパンを頬張るという体験は、彼らにとって新鮮な驚きだった。

「もぐもぐ……こいつは……うまいぞ!」

「口の中に広がるミルクの味……悪くない。いや、かなりうまいな」

周囲からは称賛の声が次々と上がった。

Lan Xueyinは、現地の人々の好みに合うよう、味を巧みに調整していたのだ。最初に無料で配る包子は、客を呼び込むための商売の手段として、実に効果的だった。

「おい、料理人のお嬢さん! まだ残っているか? もっと買いたいんだが!」

毛皮の上着を着た男が、追加で購入しようと声を上げた。

Lan Xueyinは笑顔で看板を指し示した。

「お客様、こちらに表示しているお値段のとおりでございます。お代をごまかしたり、一銭たりとも余計にいただいたりはいたしません。いくつお求めになりますか?」

「一盆くれ!」

男はそう答え、銀貨の詰まった袋を彼女に差し出した。

Lan Xueyinは代金を受け取ると、すぐに包子を一盆渡した。

濃厚なミルクの香りに、砂糖のほのかな甘みが加わっている。男は盆の蓋を開けるなり、あっという間に半分を平らげてしまった。

その一方で、Lan Xueyinの忠実な相棒であるA-Paoは、ぐらぐらと煮立つ鍋の中で麺を手際よくほぐしていた。

彼はパンダの姿をした亜人であり、大柄で筋骨隆々とした体躯は、多くの人々の目を引いていた。それでも本人は一切口を開かず、ただ自分の仕事に集中している。

人々は珍しい料理に興味津々で、屋台の周囲に集まり始めた。城門を守る兵士たちの中にも、食欲をそそる香りに誘われて立ち寄り、腹ごしらえに料理を買う者がいた。

「皆様、本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます」

Lan Xueyinは、澄んだ甘い声で人々の注意を引きつけた。

「本日は、素朴ながらも特別な料理をいくつかご用意しております。包子、蒸し餃子、そして麺料理でございます」

「包子には二種類ございます。本日は、牛乳の風味を生かした具なしのものだけをご用意しておりますが、もう一つは上質な肉を使った逸品でございます。細かく刻んだ豚肉と新鮮な生姜を絶妙に組み合わせ、濃厚な旨味と甘辛さが調和した、五感を目覚めさせる味わいに仕上げております。店の準備が整い次第、皆様にもご提供いたしますので、どうか今しばらくお待ちくださいませ」

「麺料理には、黄金色の卵に、骨からじっくりと取った澄んだ旨味のスープ、そして芳しい椎茸を使用しております。こちらは、厨房を手伝っている亜人のA-Paoが調理しており、すぐにお召し上がりいただけます。どうぞ、ご注文くださいませ!」

「……流暢ね。まるで本物の現地人みたい。外国の言葉を覚えた料理人が、ここまで完璧な発音を身につける必要なんてないはずなのに」

Erikaは、Lan Xueyinには単なる料理人以上の目的があると判断した。彼女は何か重要なものを隠している。

Yilfenとはまったく別の種類の人物だが、だからこそ注意を払う必要があった。

灰色がかった瞳は、客たちが東方の料理を奪い合うように味わう光景の向こう側で、料理人の姿をじっと捉えていた。屋台の商品は、瞬く間に売り切れそうな勢いだった。

そして、Lan Xueyinもまた、自分が観察されていることに気づいていた。

Erikaは屋台へと歩み寄った。

何も言わず、銅貨を九枚取り出して、木製の台の上に置く。

「包子を一つ。具なしのものを」

店主は何も尋ねず、好奇心を示すこともなかった。ただ静かに頷き、礼儀正しく微笑むと、代金を受け取って包子を手渡した。

その沈黙と慎重な態度が、かえってErikaの疑念を深めることになった。

最初の一口をかじった瞬間、Erikaは思わず動きを止めた。

柔らかな皮は熱々で、舌の上でほどけるように溶けていく。口の中には、心地よい甘みが残った。

ミルクの風味と、後から追いかけてくるほのかな甘さ。その味わいに、彼女は先ほどまでの警戒心を一瞬忘れかけた。

季節の変わり目に、身体を優しく目覚めさせてくれるような料理だった。温かさは十分にあるが、決して刺激が強すぎるわけではない。

「この味……不思議ね……」

Erikaは小さく呟き、眉を寄せて考え込んだ。

これまで、似たような味の料理を口にしたことは一度もなかった。何かが違う。何かが奇妙だ。

しかし、それが何なのか、彼女には説明できなかった。

傍らに立つLan Xueyinは、胸の前で両手を合わせ、優しく微笑んだ。

「お嬢様、お口に合いましたでしょうか?」

その問いかけには、学生のような服装をした目の前の少女を探るような意図が感じられた。

「おいしい」

Erikaは短く答えた。

冷ややかな眼差しで店主の顔を見据えながら、さらに言葉を続ける。

「こんな料理を食べたのは初めてよ」

「お気に召したのでしたら、ぜひまたお越しくださいませ。近いうちに新しい料理もご用意する予定です。お嬢様にも、きっとご満足いただけるかと存じます」

Lan Xueyinは丁寧に勧めた。

「いいえ。まだ仕事があるの。縁があれば、また会うこともあるでしょう」

Erikaは冷淡かつ断固とした口調で答えた。

ここへ戻ってくるつもりはなかった。

必要な情報は十分に集まった。今は立ち去るべき時だ。

彼女は人混みを離れ、足早にその場を後にした。

「それでは……どうぞ、お気をつけてお帰りくださいませ」

店主は東方でよく使われる別れの挨拶を口にした。

Erikaは振り返らなかった。

しかし、その頭の中には、Lan Xueyinの謎めいた眼差しと、何かを企んでいるかのような雰囲気が残っていた。A-Paoが一言も発さずに働き続けていたことも気にかかる。

あの包子の独特な味わいに、一瞬だけ任務を忘れかけたことも含めて。

「後は任せたわ、副隊長。もう一人、注意すべき人物が増えたわね」

Erikaは手帳にその内容を書き留めると、駅へ向かい、副隊長に任務を引き継ぐことにした。

________________________________________

夜が訪れた。

Grenmarkの街は闇に包まれ、家々や宿屋の窓から漏れる、かすかな提灯の明かりだけが残されていた。

広場の東側にある小さな宿屋。そこは部下たちが手配した宿泊先だった。

Lan Xueyinは古びた木のテーブルの上に、音声伝達用のルーン結晶を備えた装置を慎重に置いた。

結晶から青白い霧が立ち上り、複雑なルーン文字が浮かび上がる。それらはきらめきながら、立体的な通信画面を形作っていった。

「どうだ? 何か新しい情報は入ったか?」

結晶から、低く落ち着いた男の声が響いた。

東方帝国の標準的な発音と、正確な言葉遣い。しかし、その声音には冷徹さと鋭さが宿っていた。

「一人、気になる人物に遭遇しました。どうやら帝国の学者のようです」

Lan Xueyinは、落ち着いた専門的な口調で報告した。

「この街にいる我々の協力者たちにとって、脅威となり得る人物です。激しい戦闘に参加した経験があるようで、Edhenから逃れた生存者たちも探している様子でした。私とA-Paoを何度も観察していましたから、友好的な相手ではないと思われます。幸い、長くこの街に留まることはありませんでしたが」

「名前は?」

「まだ特定できておりません、閣下。ただ、服装の色から判断するに、Velindia帝国の学園で何らかの指導的立場にある人物ではないかと。彼女は誰かを探しているようでした。もしかすると、機密情報を握るEdhenの生存者を追っているのかもしれません。ここ数日、密偵たちが彼女を監視しており、そのような動きが確認されています」

「なるほど。引き続き、彼女を監視させろ。来年の音楽祭には、我が国からも書生たちの一団が参加する予定だ。今回の件で、帝国の名に傷をつけるわけにはいかん」

男は命じた。

「それで、Edhenの街の状況については何かわかったか?」

「閣下、現時点では、現地の状況について明確な情報は得られておりません。Velindiaの調査評議会が我々よりも早く現地入りし、情報を遮断しているようです。街への潜入を試みた我が国の密偵も、移民に紛れ込んでいたところを数名捕らえられました」

Lan Xueyinは一度言葉を切り、報告を続けた。

「しかし……周辺の村々から得られる確かな情報は、以前よりもかなり増えております。いくつかの記録には、あの夜に発生した謎の爆発と、奇妙な音についての報告が残されていました。ただ、あの日Edhenに滞在していた商隊……Xiping隊が立ち寄った場所については、依然として消息がつかめておりません」

「よし。Xiping隊について何かわかれば、すぐに報告しろ」

男の声が一段と鋭くなった。

「陛下が遠方から取り寄せた、王女への贈り物となる宝物がある。それを運んでいたのがXiping隊だったが、Edhenで不測の事態に巻き込まれたのだ。そして……我々の本来の目的を忘れるな」

男は、一言一言を強調するように告げた。

「我々は陛下のために働く! 東方帝国のために!」

「承知いたしました、閣下!」

Lan Xueyinは深々と頭を下げ、厳粛かつ恭しい声で唱和した。

「陛下万歳! 万歳、万歳、万々歳!」

彼女は装置の電源を切った。

青白い霧は跡形もなく消え去り、部屋には再び、静寂と薄暗さが戻ってきた。

Lan Xueyinは闇の中に立ち尽くし、今しがた得た情報について思案した。

窓の外では、深夜の静まり返った通りに足音が響いていた。

湿った霧と風の匂いが漂う中、何かが変わり始めている。

それは小さな変化にすぎないのかもしれない。

しかし、確実に不穏な何かが、少しずつ広がり始めていた。

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Grenmark北方――街道

「そろそろ出発ね。引き継ぎは終わったわ。行きましょう、私の鋼鉄の亀さん。学園へ帰るわよ」

ブロロロロ……ガタガタガタ……グルルルル……。

(履帯が土の道を踏みしめながら進んでいく音)

「今はもう、駅を使えない……。それに、私の鉄の竜も……。残っているのは、あなただけね。Leopard」

ErikaはLeopard 2A5*に乗り、学園への帰路についた。

彼女の脳裏に最後まで残っていたのは、たった一つの光景だった。

若い男の姿。

何も言わずに、自分の横を通り過ぎていった男。

そして、その眼差し……。

ほんの一瞬だけ、互いの視線が交差した。

戦車が遠ざかっていく。

その場に取り残された尾行者は、恐怖に震えながら、言葉にならない声で呟いた。

「Lan Xueyin様の言ったとおりだ……。あの女は……普通の人間じゃない……怪物だ……。まるで、かつて監獄を蹂躙した、あの化け物のような……」

男は怯えきった様子で、街へと逃げ帰っていった。

________________________________________

【第15章・完】

彼がこの世界に来てから、8か月と8日が経過した。

総合ステータス

現在地: ZARATHEN――機械の町

Grenmarkから30km(街道10km+洞窟内の道20km)

所持金: 金貨2枚、銀貨20枚、銅貨40枚(Velindia)

車両: T-34 1942年型

•76mm砲弾:BR-350A(MD-5信管)30/100

•OF-350M:12/100

•D-350A:13/100(一時使用不能)

無料燃料: 200km

SL: 643,700

累積XP: 2,250

現在のSP: 0

GE: ?

GJN: ?

War Thunderのバージョン: NEW POWER

バックアップ*: 2

•BTR-152A(対空車両)

•全車両用バックアップ


*昔の人々はよくこう語っていた。ある時期が訪れると、人は遠い夢を見るようになり、不思議なことに、互いに同じ夢を共有することがあるのだと。


その夢は過去にまつわるものが多いが、ときには未来を予見することさえある。


この翻訳結晶もまた、同じような性質を持っている。紫色の結晶は安定性に優れ、古代の翻訳装置よりも高い効果を発揮する。


しかし同時に、人が経験する精神的な負荷を増幅させ、夢の中に沈んだときの不安や苦悩までも強めてしまうのだ。


もし、その力を抑える術を知っていれば、こうした現象は一度きりで終わる。だが、魔力が弱い者や、魔術を使うことのできない者にとっては、夢から抜け出せなくなったとき、終わりのない悪夢となるだろう。


そのことを決して忘れてはならない、Stepanovich。


いつか新たな住民たちにこれを渡すことがあれば、彼らを助けてやってほしい――ただし、自分自身が逃げ道を失わないよう、必ず備えを残しておくこと。私のようにはなるな。


なぜなら、あなた自身がその感覚を経験し、それを抑える方法を知っているからだ……永遠に……*


公開予定日:11月第3週の火曜日

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