幕間6
予定していたお見合いの期限は、今日が最後である。
しかし、結局ユーリは最終日になっても自分が結婚したいと思える相手を見つけることが出来なかった。
そもそも、ドラゴンがやってきた騒ぎで一日の後半はてんてこまいであったのだが。
それでも期日が終わってしまうのは避けられない。
「うう、結婚って、魔王を倒す冒険より難しいかも……もう諦めようかな……きっと僕には向いてないんだ……」
かつての仲間はひどい行動に走るわ、幼馴染は大暴れするわ、三十路女の執念を見せられるわ、憧れていた女性に心中を持ち掛けられるわ、呪術師を名乗る詐欺師に騙されそうになるわ、吟遊詩人に呪歌で虜にされそうになるわ、あげくに王都の結界を破ってドラゴンまでやって来るわで。
かいつまんで挙げるだけでもこれだけのことが起きていた。ユーリが不貞腐れるのも無理はないと言えよう。
そういったわけで、食事を終え、お茶での一服も済ませたユーリは、少しだらしない姿勢で大きめのソファーに背をあずけている。
そんなユーリの隣に、アンナも腰掛けた。
ややあって座った体勢から腰を浮かし、ユーリと肌が触れ合うほどの距離にまで近づいて、改めて腰を下ろす。
今までとは明らかに違う距離感に、ユーリは慌てて上体を起こし、アンナをまじまじと見た。
アンナがユーリを見返す瞳は、何かを訴えかけているのか、艶やかに揺れていた。
「ユーリさま……ここに、まだお見合いに参加していない者がいることを、お忘れですか?」
頬を赤く染めたアンナが、ユーリの間近でそう囁く。
さすがのユーリもアンナが何を言いたいか分からないほど鈍感ではなかった。
たちまち、ユーリの顔も真っ赤になる。
「あ、えっと、その……」
ついいつものように視線をそらしてしまいそうになるユーリだったが、勇気を振り絞ってアンナを見た。
魔竜エルドラと向かいあう時よりも、勇気が必要だったかもしれない。それは、アンナも同じだった。
アンナがいつも以上に魅力的に見える。
ユーリの心臓がどくん、どくんと大きく脈動しはじめる。
「ア、アンナさん……」
「ユーリさま……」
お見合いの期限は今日まで。
まだ、終わりを知らせる鐘は鳴っていない。
二人はどちらからともなく、お互いの手を取り、そっと口づけを交わした。
ユーリとアンナはしばらく初めての感触に戸惑い、やがて二人の唇は名残惜し気に離れていく。
「なんだか、おとぎ話に出てくる青い鳥みたいだね」
ユーリが夢見心地でつぶやく。
「僕が求める人は、ずっと僕の近くにいたんだ……」




