第百六十八話 街近くの森の中にて2
「これって使うことは出来ないかな⋯?」
「エニカ姉様、それはボクがあの時渡したっ⋯!?」
「ピギャァッ!?」
『フルポーション⋯!?まだ残っていたのですねっ⋯!?』
私が肩掛けバッグから取り出したもの。
それはグリフォンさんが護っていた洞窟で見つけた、謎の木箱に入っていたフルポーションだ。
あの洞窟で瀕死の状態で見つかったルヴィンさんを助けるためにヒサメに頼んでフルポーションを使った当時、全部使い切ったと思っていた。
だけど、アンデッドになってしまったグリフォンさんの仲間達を順番に眠らせていた時、ヒサメから「この瓶が残っていたけど、どうしたらいいかな?」と聞かれて返してもらっていたのを取っておいていたのだ。
本当ならポーションは全部中身を使い切ると、ポーションの瓶に掛けられた特殊な魔法の効果で瓶自体が魔力の粒子となって消えてしまうのが通常だ。
けれど瓶底にほんの数滴程、中身が残っていたみたいでポーションの瓶ごと消えることなく、何かの時に使えるかもしれないと思って今の今までバッグの中で眠らせていた。
その何かの時はまさに今じゃないかと思って取り出してみたけれど⋯
『エニカ様⋯大変申し上げにくいことではありますが、例えフルポーションであれど、このガーディアン・ガーデナーの幼体を回復させるための量が足りません。
せめてこの瓶の三分の一程の量が無ければ効果は期待できないでしょう』
私の手元にあるフルポーションの瓶を見ながら、コロは言いにくそうにしながらも答えた。
「そんな⋯とりあえず振りかけてみるのは⋯」
「エニカ姉様。姉様のこの魔物をどうにかして助られないかって思って焦っているのは分かるよ。
でも量が足りてなければ効果を発揮しないって分かっているのに、とても貴重な薬を使い切ろうとするのはどうなんだろうって正直ボクは思ったよ」
「ピィ⋯」
「でも⋯そしたらどうしたら⋯」
『エニカ様。命の尽きかけた魔物の幼体を前にして動揺しているかと思います。
ですが少しだけ心を落ち着かせてみて下さい。
此処には心身を賭してエニカ様の御心に添い、お力となりたいと思う者達が私含めおります。
エニカ様が望み続ける限り、私達も尽力したいと思いますので出来る限りのことしてみましょう』
コロから諭すように言われて気付いた。
心配そうに見つめながらも冷静さを失いかけていたはっきりと意見を言ってくれたヒサメ。
ずっと足元で見捨てず寄り添ってくれているソイル。
そして、本当なら助けられない可能性があることを分かっていながらも、今も私の意思を尊重しようとしてくれるコロ。
この子達が側にいるのに、自分でどうにかしないといけないという考えばかりが先立っていた。
そうだった。この子達はいつだって私の意思を尊重しようとしてくれているのに、自分だけで考えて実行しようとしていた。
⋯目の前に倒れている子の状態を考えれば悠長にはいられない。
でもみんながこうやって側にいて、意見や助言をくれたり力になってもらえるのなら、こんなに心強いことは無い。
そう思って三人の顔を見た途端、とあるアイデアを思いつくことが出来た。
そう言えばソイルとヒサメはアレで助けることが出来たんだったっけ⋯
「⋯ありがとう。コロ、ソイル、ヒサメ。みんなのお陰でやっと冷静になれたよ。
たった今、フルポーションを掛ける以外の方法を思いついたんだけど、みんな協力してくれるかな?」
「ピギャッ!」
「勿論だよ!」
『勿論でございます!して、その方法とは?』
「前にソイルとヒサメが私のその⋯おしっことか⋯涙で回復したことがあったから、それをひとまず試してみようと思って⋯」
「ピギャギャギャギャッ!」
「死に体の魔物の子を舐め回そうと思う/日が来るなんてね⋯」
『エニカ様の聖なる体液をわざと一滴でも必要とする事態となるならば協力は出来ませんよ。
憐れではありますが、その幼体を見届けることしか最早方法がありませ⋯』
「いたけど、なんか別の方法が思いつきそうだからちょっと待って!!」
私の体液を使う、という方法は一瞬にして取りやめることになった。
駄目元で言ってみたけど、三人の様子を見るとやっぱり無理だった。
もし実際に私の体液を使うなんてことになったら、下手すると三人とも発狂して協力すらしてもらえなくなりそうな予感がする⋯
そう思って、もう少し慎重になって考え直してみることにした。
でも、フルポーションと私の体液以外の方法はさっぱり思いつかないのが正直なところだ。
何となく手に持っていたフルポーションの瓶を眺め見る。
せめてフルポーションの量がもう少し多ければ⋯
いや待って⋯!!この方法なら、フルポーションの量を増やせるかもしれないっ⋯!!
「ねえみんな!この方法はどうかな?」
思いついた方法を早速三人に話してみる。三人の反応はというと⋯
「エニカ姉様の尊く香しい聖水が一滴足りとも流されないのであれば、ボクはその方法を試してみていいんじゃないかと思うよ」
「ピギャピギャ!」
『そのような方法を思いつかれるとは⋯ですが実行してみる価値はあります。私も全力でご支援させて頂きますね!』
思いついた勢いで提案してみたけれど、みんなからの肯定的な返事に心からホッとした。
でもその方法は思いついたものの、成功するどころか何かしらの効果が出るのかもやってみなきゃ分からない、という代物だ。
失敗した場合はとても貴重なポーションを無駄にする上に、この子の命を助けることも出来ないんじゃないか。
今にも命が尽きかけそうな魔物の子を前にして、心の奥底でずっとこの子の命を取り零してしまうかもしれない不安と恐怖が渦巻いている。
それでも。
(この子を助けたいって気持ちがあって、ほんの少しでも助けられる可能性があるのなら、私は全力で自分に出来る全てのことをしたいっ⋯!!)
「コロ、ソイル、ヒサメ⋯早速、力を貸して貰っていい?」
『「勿論です(さっ)!」』
「ピギャッ!」
三人共、笑顔で私の言葉に応えてくれた。
―――――
その方法は準備をし終えるまでに、あまり時間を必要としなかった。
「ソイル。周りの見張りをお願いね」
「ギィッ!」
ソイルには元の大きさになってもらって周囲の見張りをお願いして。
「ヒサメ。フルポーションはもう持ってる?」
「安心して。ここにあるよ」
ヒサメには私の代わりにフルポーションを持ってもらって。
「コロ。この子の状態を見てもらうのと、私のサポートをお願いするね」
『承知致しました!ガーディアン・ガーデナーはまだ生きておりますが⋯時間の問題でしょう。
もう取り掛かった方がよろしいかと』
「分かった」
コロの言葉を合図に、枯れ草色の小さい子の上でそっと両手を重ね合わせる。
少しだけ開いた両手の中に収まる範囲ギリギリまで綺麗な水を掬い取るイメージを想像しながら水魔法を展開する。
何も無かった両手の中に透き通った水がなみなみと溜まっていくのはあっという間だった。
『水魔法を使用しましたね。今度は水魔法で出した水に出来る限り魔属性の魔力を流して浸透させましょう。
魔属性の魔力が浸透しきった時に私が声をかけますので、ヒサメはフルポーションを全て投入して下さい。
成功すればエニカ様の魔属性の魔力によって、エニカ様のお手の中にあります水をフルポーションへと変質させることが出来るでしょう』
真剣な面持ちでコロは私の両手に溜まる水を眺めていた。
私が思いついた方法。それは水魔法でフルポーションを出す、というものであった。
次回更新日は5/18の予定です。




