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第百六十六話 冒険者ギルドから街近くの森にて


「なあご主人。それってどういう⋯」

(『エ、エエエエエエエエエニカ様ぁ!!?

 それはどのような意味でございましょうかぁぁぁぁぁ!!!!?』)

「ピギャァァァ!!?」

「えなんだそれどういうことだいアーグと長く過ごすことが出来るからなんてまるでアーグとずぅっと一緒にいたいって言ってるようなもんじゃないか他の女に未練タラタラな奴なのに何で⋯」

「わっ!?みんなどうしたのっ!?」

 時が止まったかのように静まってから次の瞬間、念話によるコロの爆音での追及と、ソイルの信じられないと言わんばかりの絶叫と、ヒサメから早口かつノンブレスで垂れ流される狂気の呟きが一気に押し寄せてきた。

 ほんと急にどうしたのっ!?しかも今、アーグさんが何か言いかけていた気がするけど⋯

「⋯エニカ。アーグと長く過ごすことはアンタにとって利点か何かあるのかい?」

「え?私やこの子達は冒険者になってまだ日が浅くてベテ⋯熟練の冒険者であるアーグさんから教えてもらいたいことが沢山あるので、契約している内に色々吸収するためにも少しでも過ごす期間が長い方がありがたいなと思っていますが⋯」

「あ、ああ、そういうことかい。

 ⋯昔からアーグを知っている身としちゃあ、ダリアナよりもエニカの方がアーグを任せられそうだと思ったんだけどねぇ⋯」

 スカジさんからの質問に答えれば、スカジさんは得心がいったような表情を浮かべた後、小声で何か呟いていた。

 今のスカジさんの呟きもあまりよく聞こえなくて分からなかったな⋯

 それよりも今の質問はどういう意味で聞かれたんだろう?

 もしかして周りの人達が聞いたら、私が言いたかったこととは別の意味合いに聞こえてたってことかな?

 私としてはこの世界のことや冒険者の仕事のこととか、知らないといけないことも覚えないといけないことも沢山あるから、アーグさんに先輩や先生として長くいてもらえるのは心強くてありがたいって意味で言ってたつもりなんだけど⋯

(『ふう⋯みっともなく取り乱してしまい、申し訳ございませんエニカ様。

 アーグと長く過ごすことが出来るという言葉に、コロがいらぬ深読みをしてしまいました』)

 その言葉に深読みするところってあるの?コロ。

「ピギャピギャァ⋯」

「あれ?ソイル、どうし⋯」

「なんだ、勘違いしちゃってたよ。てっきり一緒に過ごす内にアーグのことを好きになっちゃったのかと思ったよ」

「えっ」

 足元でペちゃあ⋯と音が聞こえてきそうなほど脱力したようにとろけてしまったソイルに心配になって声を掛けようとした瞬間、ヒサメの発言に思わず目を剥いた。

「もう、何言ってるのヒサメ。アーグさんはダリアナさんっていう大切な人がいるんだよ。

 冒険者の先輩や先生として純粋に尊敬してるし、人として好きって思うことはあっても、ヒサメの思うような「好き」っていうことは全く思わないし思ってないよ」

(『アーグを「人として好き」とは具体的にどのような時に思われるのですか?

 後ほどで構いませんので教えて頂きたいと思います。ちなみにこの質問は別に深い意味はございませんのでご安心下さい。

 まかり間違ってアーグへの好意や恋愛感情を持つ可能性を少しでも無くしたいも思っている訳ではございませんので』)

「ピギャピギャァ?」

「「人として好き」⋯って何だい?やっぱりアーグのことを好意的に見ているってことで間違いないんじゃないのかい⋯?ボクの方がエニカ姉さまのことを従魔契約するぐらいにとっっっっっても大事に想っているのにいくら旅に必要でもポッと出のアーグにエニカ姉様を掻っ攫われるなんて⋯」

 うわっ!?アーグさんに恋愛感情は全くないってことを言いたいだけなのに、「好き」って言葉に過剰反応し過ぎだよこの子達!?

 ソイルもヒサメも一切の瞬きせずに私を真顔でガン見するの止めて!!怖いから!!

 コロは猫耳に擬態中だから今の表情が見えないのは安心⋯でもないな。

 見えないからこそ、どれぐらいヒートアップしてるか分からない不安を感じるよ!!

「おいご主人、お前ら。これ以上は時間が勿体ねぇ。無駄話している暇があったらもう行くぞ。

 スカジの⋯姉さんも用件は全部終わった筈だ。失礼させてもらうからな」

「ああ、構わないよ。事務仕事の前に良い気分転換させてもらったよ」

「あ⋯!お仕事の邪魔をしてしまい申し訳ありません」

「いいよ、アタシも呼び止めちまったしね。

 エニカ達もご苦労さん。アタシとリーナも此処で失礼させてもらうよ」

「はい、失礼致します。さ、みんなも行こう!」

 アーグさんの一声でこれ以上の滞在はスカジさん達の業務の邪魔になることに気付き、頭を下げて謝罪してから足早に執務室から退出した。

 執務室を出てすぐ、いつの間にか横にいたアーグさんを見てみた。

 ちらりと覗いた横顔はいつも通り無愛想で、やたらと不機嫌そうとか変わった様子は見られない。

 何も言ってこないところを見ると、私の発言をあまり気にしてないみたいだ。

 三人のように勘違いやら深読みやらはしてなさそうで、内心ホッと胸を撫で下ろした。



「アーグの奴、相手をエニカにしろとは言わないけど、ダリアナのことはなるべく早く踏ん切りをつけてもらいたいもんだねぇ⋯」

「スカジ様がそのようにお気に掛けられるのは珍しいことですね」

「そうかい?」

「ええ。確かファレスタのリヴォーク様もアーグ様だけでなく、エニカ様方を心配されておりましたね」

「まあ、アタシもだけどこの辺りのギルマスや古株の冒険者なんかはアイアンランクの時からのアーグを知っているのが多いからね。当時はアーグもフォリエンス地方を中心に活動していたからさ。何かと目にかける奴はいるみたいだね。

 リーナが入職した頃には中央都に行っちまってたけど」

「まあ、そうでしたか」

「⋯⋯⋯実力もあるし、悪い奴じゃないんだけど、女運というか伴侶になりそうな相手との巡り合わせはとことん悪いのも知ってるから、会う度に余計な節介を焼きそうになるんだよ」



(『エニカ様はアーグの性格や人格、価値観などどのようなところに好意を持たれたのですか?

 ああ、決してエニカ様が好意を持たれた部分を抹消出来ないかと考えている訳ではございませんよ。決して』)

「ピギャピギャピギャピギャピギャ⋯」

「ボク知ってるんだ生き物が(つがい)になる時って初めはお互いにそんな気持ちが無くたってほんの些細なことがきっかけで関係性が進展していくこともあるんだってことをねだからとてもじゃないけど見逃せないんだエニカ姉様とアーグの仲が変わる可能性なんてさ」

「もうみんな、今日はやけにアーグさんのことでつっかかるね⋯ちょっと落ち着こう⋯?」




「人として好き、ねぇ⋯初めて言われたな。んな言葉」




 退室後もコロ達からの怒涛の質問攻めに応じていたから、スカジさん達の会話やアーグさんの小さな呟きに気付くことはなかった。


―――――


 冒険者ギルドを出てから暫くして。

 私達は今、キャノンドの街近くの森に来ていた。理由は私の体力作りと魔力操作のトレーニングのためだ。

 宿屋で話し合った内容の一つに、バテない程度の私のトレーニングの習慣化がある。

 それはコロとアーグさんが同時に議題に上げ、ソイルとヒサメが必要性を力強く頷いて、即満場一致で決まったものだった。

 今回受けた街道の調査の途中で私が崖から落ちたり、グリフォンさん達のことで見送りを終える前に気を失ってしまったりしたから、全員私の体力や対応力などの無さに思うところがあったんだと思う。

 ⋯私自身、なるべくみんなの足を引っ張らないようにしたいから、せめて自衛は出来るようになりたいと思ってる。

 だから、短い期間でもキャノンドの滞在中やリムネーゼの街へ向かう最中であっても、コロやアーグさんの考えたメニューを取り組むつもりで、街や街道から少し離れた森にみんなで訪れているのだけど⋯


『ああっ!!やはり大自然の中で聴くエニカ様のせせらぎは心を照らし、癒し、浄化する聖属性の魔力のような力をお持ちですねぇ!!』

「ピッギャァァァ!!!」

「ああ⋯エニカ姉様からの音色はいつだってボク達の心を満たしてくれる⋯いつまでも聴いていたいよ⋯」

「みんな、私よりスッキリした顔してるね⋯」


 トレーニングを始める前にトイレを済ましてから、なんて考えた結果がこれだ。

 私のトイレにアーグさん以外の三人がついてきているのだ。

 百歩譲ってコロとソイルは分かる。コロは擬態に必要な猫耳モードになってもらうために、ソイルはソイル自身の魔核の安定とトイレ後の浄化のため、という目的がそれぞれある。

 じゃあヒサメは何でついてきてるのかって?それは⋯

「ふう⋯エニカ姉様の清らかな聖水の音色を聴いている内に荒んでいた心が癒されたよ。さっきはアーグのことで感情的になっていてごめんね。

 いつアーグがエニカ姉様の心を奪ったのかと思ったら気が気で無くなっちゃって⋯」

『私からも再び取り乱すような醜態を晒して申し訳ございません。少々冷静さを失っておりました』

「ピギャァ⋯」

「ううん。みんなが落ち着いて本当に良かったよ」

 此処に来ても三人の質問攻めが止まらなかったからだ。

 ずっと質問攻めが続いたことで街でトイレに寄る暇が無くなっちゃって、やっとトイレに行きたいと言えたのは森に到着してからだった。

 本当なら私が一人になったり一人しか仲間が側にいない時などを想定して、私がトイレする時の見張りとなる付き添いは一人か二人までって決めていた。

 けど、私がトイレに行きたいと言った瞬間、三人の表情が一気に明るくなったのを見たからか、アーグさんは特に何も言わずに送り出してくれた。

 あれは多分、手っ取り早く三人の機嫌を取るためにタイミングを見計らってたんじゃないかと思う。

 公衆浴場の時も思ったけどコロ達関係でトラブルがあった時、さりげなく私に丸投げするよね、アーグさんて。

 それよりも仲間の大半が人のトイレの排泄音に心底喜ぶなんてやっぱりおか⋯いや、深く考えるのは止めよう。

 ひとまずは丸く収まったことを素直に喜ぶことが大事だよね。

「よしっ!用事は済んだし、アーグさんのところへ戻ろ⋯」

 そう言いかけた時だった。


  パサッ⋯


 用を足し終えたばかりの木陰から軽いものが倒れるような、乾いた小さな音が聞こえた。

次回更新日は5/4の予定です。

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