49.人格崩壊
ロイくんに寝台下へ隠れる様促していると、扉の向こうから慌ただしい足音が聞こえて来た。
『ロイくん、隠れて』
ロイくんはわたしの繋がれた手をぎゅっと握り締めてから寝台下へ隠れた。
ガチャっと扉が開き、入って来たのは、やはり予想通りの招かれざる客、マーフィー伯爵だった。
「いやはや、聖女様、貴女さまを捕らえるために8体もの私のコレクションが灰と化したのです。
大変な損害ですよ。
ですのでね、貴女にはこれから存分に役立って頂かないと」
「こんな事をしてタダで済むと思っているの?」
マーフィー伯爵はクックと笑う。
「貴女の四銃士が助けに来ると?
まぁ、何れは此処も探し当てるでしょうな。
だが、その時には聖女様は我々の傀儡になっているでしょうからな」
「わたしを人型魔物にしようとしているわけ?」
クックと馬鹿にした笑いを続けながらマーフィー伯爵はわたしに近づいて来る。
「その心配はありませんよ。
いかに貴女が素晴らしいコレクションになる素材とは言え、流石に彼の方に許して貰えない。
聖女様にはただ我々の言うがままに動くお人形になって頂くだけです」
精神をコントロールして傀儡にしようと言う事か。
マーフィー伯爵とその黒幕は聖女の本来の意味を知らないのだろう。
わたしを操ればこの国を手中に納める事が出来ると思っている。
わたしが不幸せになれば国が荒れる事をわかっていないのだ。
「わたしを闇魔法でコントロールしようと言うわけ?」
マーフィー伯爵は答えず忍び笑いをしている。
纏う黒いオーラは人型の魔物が放った靄と同じ。
既に伯爵自体の魔物化も進んでいる気がする。
人を魔物化するという禁忌の魔法は、自らの体内にも取り込まれ自身も気付かぬ内に魔物化し始めたのではないだろうか。
そもそも敵対する場合、闇魔法と聖魔法や光魔法は相性が悪い筈だ。
逆に協力するならその相乗効果は計り知れない。
相性以前の問題として魔封じの拘束具で縛られているが。
寝台下にロイくんもいる。
彼だけでも護らなければ。
「闇魔法にはね、精神の奥深くに作用してその人間を構成しているものを粉々にする魔法があるんです。人格の崩壊ですよ。
あの私のコレクションたちにも施しました。
後は私の思うままです、クックックッ」
「人格を崩壊させてから魔物化したと言うの?」
マーフィー伯爵はフンッと鼻を鳴らす。
「それでは面白くないでしょう?
見目麗しい令嬢は自分に自信がありますからな。魔物化させその醜い姿に気付くと、混乱し我を忘れ泣き叫ぶのです。
それは狂った様に。
あんな楽しい見せ物は無い。
だから、絶望し涙が枯れるまでは、傀儡の魔法はかけないのですよ」
狂っているのはこの目の前にいる男だ。
あまりの鬼畜さに怒りが沸々と湧いて来る。
「でも聖女様への魔物化の魔法は止められていましてね。残念だ。
貴女の泣き叫ぶ姿が見たかったのに!」
寝台下からロイくんの怒りのオーラが伝わってくる。
ダメだよ。
見つかったら殺される。
「それでは、さっさと人格崩壊して頂きますか。
ここもそんなに長居は出来ないでしょうからな」
マーフィー伯爵は寝台の横に立つと、わたしを覗き込んだ。
「チッ!つまらんな!
何故もっと怯えない?
人格崩壊とは即ち精神の死。
肉体は残ってもお前はこの世から消えて無くなるのだぞ!」
マーフィー伯爵は苛立ちの余り言葉遣いすら怪しい。
わたしが怯えないのは寝台下にロイくんが居るからだ。
どんな事をしてもロイくんの命は護らなければならない。
そして、側にロイくんが居てくれるから強くなれるのだ。
キッとマーフィー伯爵を睨み付けると、醜悪な形相となったマーフィー伯爵は闇魔法を練り始める。
マーフィー伯爵の体全体が黒い靄に包まれる。
「これで終わりです」
マーフィー伯爵から大量の靄がわたしに放たれた。
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