10.襲撃〜街路
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待機していた御者に暫く待つように言ってから馬車に乗り込むと、デュランが奥に座っていた。
「やぁ。さっきは爽快だったな」
夜会で悪玉トリオを返り討ちにしたから陽気そうだ。
「実はその後に、王宮内で刺客に襲われた」
「はっ?」
デュランは一瞬エリオットの言葉が飲み込めないようだったが、すぐに冷静さを取り戻した。
「狙われたのはエリオットか?」
「いや、おそらくロージー」
「どう言う事だ?
エリオットの婚約者になったからか?
それともあの糞どもの仕業か?
まさか、」
「わからない」
「わからないって、どういう事だ」
「どうしてロージーが狙われたのかは今のところわからない、わからないが、実はロージーがこの一連の事件を夢に見た。
そして実際に夢の通り、偽近衛騎士が現れた」
エリオットがロージーの夢の内容を詳しく説明すると、デュランが唸り始めた。
「うーん、うーん。
俄には信じられないが、絶対無いとは言えないな。ロージーだし」
何だ、そのロージーなら何でも有りみたいなの。
実際は前世の小説「永遠の星の下に」のストーリーだ。
但し、今となっては小説との乖離が至る所で出ており、安易にストーリー通りとは言えない状況である。
「夢ではこの後、襲撃して来た偽近衛騎士ともう一人の刺客によって、御者共々ロージーは惨殺されるらしい」
「何だよ!それ」
「そういう訳で俺とデュランが最強の護衛として乗り込んでいる」
「それなら実行犯はもちろん、どんな事をしても黒幕を突き止めないとロージーが危険だな」
最強の二人がタッグを組んだら怖いもの無し、と言いたいところだけど、得体の知れない敵は不気味だ。
「何故わたしを狙うのかしら」
デュランは眉間に皺を寄せ唸る。
「うーん、そりゃ、まず考えられるのは超優良物件エリオットと婚約したからな。
令嬢たちのエリオットへの執心ぶりもさる事ながら、次期公爵夫人の座やジェンキンス公爵の権威と財力をどんな事をしても手に入れたい下衆な輩は少なくないからな」
「俺のせいか」
ポツリとエリオットが溢す。
「あと考えられるのはあの好色伯爵だな。
あいつがロージーを見る目には虫唾が走った。それもこれもロージーがいろいろと可愛すぎるからどうしても手に入れたくなってしまうんだろうな」
そう言ってデュランがエリオットに笑いかけると、何故かエリオットは気まずそうに顔を背けた。
珍しい。
「まぁ、他にもいろいろあるけど...
兎に角危険なのは間違いない。
気を引き締めて帰ろう」
他にもいろいろって、何にも悪い事してないと思うけど。
何か悲しい。
エリオットは剣の柄の部分で馬車の屋根を突き御者に出発の合図をした。
「御者の方は大丈夫でしょうか」
小説だと真っ先に殺されるのは御者なので心配だ。
「大丈夫。
あれは俺の手の者だ」
そうでした。
エリオットに抜かりなし、でした。
月も隠れた闇夜の中、馬車はガタゴトと王宮前広場を走り抜け、やがて突き当たると左に曲がる。
街中なので規制があり速度はゆっくりだ。
窓には外から見えないよう覆いがしてあるが、デュランとエリオットは左右それぞれで少しだけ隙間を開けて様子を窺う。
夜中なので暗闇で辺りは窺い知れない。
当然わたしはふたりに挟まれて座っている。
いくら公爵家の豪奢な馬車だからと言って
ガタイの良い二人に挟まれると結構膝や腿が密着してしまい、こんな時なのに心臓が高鳴ってしまう。
バカ、しっかりしないと。
生きるか死ぬかの瀬戸際の上、大切なエリオットとデュラン、そして関係ない御者役の人まで巻き込んでしまった。
勝手でごめんね。
でもこんなところで無惨に殺されるのだけは嫌だから。
前世みたいに何も出来ないわけじゃない。
生き延びられたら、助けてくれたエリオット、デュラン、力を貸してくださった王太子殿下に必ず恩を返しますから。
ふと、デュランが外を窺う隙間に視線を向けると物陰に立つ人影を見つけた。
暴漢の一味かと僅かな街灯りに目を凝らすと年若い女性だ。
すっぽりとフード付きの外套を纏い、わたしたちの馬車を見ているようだ。
こんな時間に?
思わずデュランの袖を引っ張ると、デュランも気付いた様子で頷く。
チカッ
女性の手元が明るく光って一瞬だけ顔が闇夜に照らし出された。
あれは、あの人は。
ガクンと揺れたかと思うと馬車が急停止し、刹那、剣を打ち合う音が響く。
「敵襲だ!ロージーはエリオットから絶対に離れるなよ」
デュランは馬車から飛び出して行く。
「馬車の中だとかえって危険かもしれない。
一旦、外に出るぞ。
絶対俺から離れるな」
エリオットと共に馬車から飛び出すと、十数人の暴漢、いや刺客が取り囲んでいた。
御者役さんとデュランはバッサバッサと刺客を切り倒している。
強い。
かたやエリオットはおもむろに手を挙げると雷魔法をお見舞いした。
バタバタと倒れる刺客たち。
ハイ、終了。
早っ。
エリオット、チートすぎ。
何処からか憲兵が現れて刺客たちを捕縛している。
エリオットが事前に手配していたのだろう。
「そうだ。あの手引きの合図を送った女は何処だ!あの女を捕まえないと」
デュランが幾人かの憲兵を引き連れ先程女性が立っていた場所へ駆けていく。
デュランの言葉で思い出した。
さっきの光はやはり刺客に合図を送っていた?
タイミング的には怪し過ぎる。
怪し過ぎるけどあの人は、
あの見覚えのある、あのうら若き女性は
小説「永遠の星の下に」の挿絵に何度も登場した主人公
ヴィーことヴィクトリア・パターソン男爵令嬢にそっくりだった。
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