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6話 大好き

寝て起きて、食べて。


その繰り返しばかりだった。


心人君へのスッキリしないこの気持ちをどこへ向ければいいか分からなかった。


けれど、それは唐突に訪れた。


「桜さん、今までごめんね」


電話越しの彼は、そう語る。


わたしの全身が震えだした。


嫌な想像を何度も振り払って、ただ一心不乱に走り出した。


病院へ、もう一度病院へ。


ただ走り、病室へ飛び込む。


彼は呼吸器を付けていた。


浅い息と深い息を交互に繰り返し、苦しそうにしながらベッドに寝ていた。


一体何が起きているのか分からなかった。


眼の前の光景がただ信じられない。


それでもわたしは、必死に彼の手をそっと握った。


ただ胸が張り裂けそうだった。


信じたくない現実がここにある。


嫌な想像が現実になってしまった。


「さく……ら、さん」


心人君が霞んだ声をひねり出す。


「心人君、どうしちゃったの……、一体何が!」


「もう僕、駄目みたいだ」


そう告げた彼の息は段々と短くなっていく。


それがより怖くなって、わたしは彼の手をぎゅっと握りしめた。


「僕ね、病気が、あってさ」


心人君は途切れ途切れそう伝える。


わたしはそれに頷き続けた。


「もう長くないことは分かっていたんだ、けれどね」


彼は悔しそうに、涙を流し始めた。


「君のことが大好きでさ、いっぱい思い出もできてさ。僕、君を悲しませるのが、嫌で、ああやって、嘘をつこうとしたんだ」


「え……?」


何を言ってるの。


なんで、どうして無理をしたの?


そんな嘘、つこうとしないでくれよ。


そんなわたしの問いを口に出させる間もなく、彼は天井を見上げた。


「どうせなら、もっと長生きしたかったなぁ……。ごめんよ、こんな無責任な男でさ」


乾いた笑いを出して、彼は悲しそうな表情を浮かべる。


胸がきしめき、わたしはそのどうしようもない感情にただ苦しくなった。


心人君は徐々に息を詰まらせながら話す。


「最後に一つ、良いかな……?」


「心人君……?」


嫌だ、そんな。


最期だなんて言葉を、お願いだから使わないで。


やめて、やめて。


お願い、嘘だと言って。


そんな思いと相反する、彼の答え。


「君は僕の初恋の人。そして一番愛している。これは嘘じゃない。大好きだよ、桜。いままでありがとう」


「そんな……」


ピーーー。


心電図が止まる音。


そのうちに、彼の目の色は灰色に移り変わる。


「心人君っ!」


彼の手は力をなくし、ベッドの上にとんと落ちた。


目を閉じ、心人君は眠りについた。


そう、永遠の眠りに。


彼は、わたしの眼の前で亡くなった。


「……なんでっ、どうしてっ!」


後悔の混じった涙が頬を伝う。


病室のカーテンが揺らいだ。


夏の陽射しと蝉の声。


青い静寂に包まれ、涙が頬を伝う。


ただ、夏空にわたしの泣き叫ぶ声が響く。

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