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炎の魔女ボーメラ その3

「青白い……炎?」


 瞳に映った青白い輝きを見て、メイドのレクリスが呟く。

 

 それまで空中を飛び回り、イザドラに迫っていたのはオレンジ色の炎だった。しかし今、両目を吊り上げ険しい形相となったボーメラの両手からは、青白い炎が渦を巻いて吹き上がっている。魔女は苛ただしげな憎悪を目元に浮かべつつ、口元には笑みを浮かべながら、炎を纏った両手を踊らせる。青白い火の粉が辺りに飛び散り、離れて立っているデビッドとルカでさえ、肌を焦がすような熱を感じた。


 渦を巻いた炎は、やがて細長い竜のような形になり、魔女は笑みを浮かべた唇を一層ひきつらせると、片腕を振りかぶる。そうして真っすぐイザドラの顔に狙いをつけ——


「灼熱の(あぎと)で噛み砕いてあげるわあ~」


 楽し気に言って、青白い炎を振り放った。炎の竜は、空気を溶け落としながら一直線にイザドラへ襲い掛かる。思わず飛び避けたイザドラの下で、ジュ~ッ、と嫌な音が鳴って、木の横っ腹に次々と穴が開き、何本もの木が炭となって崩れ落ちた。焦げ臭い匂いが周囲に漂ったのも束の間、炎の竜は上昇しながら引き返し、今度は上空からイザドラめがけて牙を叩きつけようとした。


 吸血鬼は、空中を蹴って素早くまた飛び避ける。地面に炎の竜が激突し、衝撃音が鳴って煙が上がる。しかしそれは土煙ではなく、水蒸気と化した地面の成れの果てだった。周囲によりいっそう焦げ臭い匂いが漂う。炎の竜は何事もなかったかのように、ボーメラの手に纏っている。逃げ続ける吸血鬼の姿を見て、魔女は「クククッ」と愉悦の息を漏らす。


 イザドラはパタパタと羽を動かして空中に留まりながら、鋭い目つきで溶けた地面を睨み、小声で呟いた。


「あまり森を荒らされても困るわね……」


「あらぁ~、お嬢ちゃん、そんな空の片隅で縮こまってどうしたの~? あたしの炎が怖いのかしら~。大丈夫よぉ、呪炎の鎖で縛りつけて王城に引き渡すだけだから、心配しないで、降りてきて~。んふっ、地獄のように痛いけど、あなた燃えてもすぐ再生するから平気よね~?」


 魔女の挑発に吸血鬼は答えず、両目を閉じて胸元に神経を集中させた。キイイン、と静かな音が鳴って、辺り一帯に青色の魔力が漂い始める。


 イザドラが本気を出し始めたことを察知したボーメラが、片手を振りかぶって炎の竜を振り放った。


 しかし炎の竜は青色の魔力に包まれると、だんだん勢いを失って小さくなり、やがて消滅してしまう。


 ボーメラが憎々しげに相手を睨む。その視線の先にあったのは、吸血鬼の、氷のように冷めた顔と、宝石のように美しく感情のない瞳だった。


 ゾクッ、と魔女の背筋に悪寒がはしる。気付けばボーメラの足は震えていた。


 本能的な恐怖を感じながら、いつもの余裕を失った魔女は、冷静で理知的な頭を素早く回転させる。


(足が、震えている……これは……恐怖……いや、冷気……。寒さを感じているというのぉ? この、あたしが?)


 予想外の状況に面食らいながらも、魔女は素早く思考を続ける。イザドラから放出される青色の魔力……灼熱の炎を上回る周囲に満ちた冷気……。


「チッ」


 魔女は舌打ちし、両手を横に広げると、掌から放たれる炎を分散させて空気中にまき散らした。炎は赤い魔力となってボーメラの周囲を満たし、イザドラの方へ少しずつ広がっていく。しかし——


 青色の魔力に触れた赤色の魔力は、シュ~ッと音を立てながら消滅していき、やがて青色の魔力はボーメラの身体をも包み込んだ。


 激しい冷気に触れ、魔女は全身に強い寒気を感じた。歯がカチカチと音を立てて震える。思わず両手で自らの肩を抱いて縮こまった姿は、まるで何かに恐怖しているようだった。


「くすっ、怯えているの?」


 地面に降り立って歩き寄る吸血鬼が、ゆっくりと笑った。

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― 新着の感想 ―
強そうなボーメラさんの負けフラグが積みあがっていて、とても安心して読めて嬉しいですね。 それと自然や景色の描写が綺麗で、情景が分かりやすくて目に浮かぶようです。 更新お疲れさまでした。次回も楽しみにし…
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