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魔工博士サンドラ その3

「くっ!」

 

 レイラはふたたび地面を蹴って、突っ込んでくるゴーレムを避けると、両手を前に掲げて魔力を放出し始めた。


 バチバチ、とオレンジ色の魔力がレイラの手の先に集まっていく。


(魔力の放出は得意じゃないんだが……)


 しかしダメージを反射される以上、直接殴るわけにはいかない。そう判断したレイラは、ふだん身体能力に変換している魔力を直接放出し、魔力の塊を作って、


 ゴウッ


 ゴーレムに向けて撃ち放った。オレンジ色の閃光がゴーレムめがけて飛んで行く。


 しかし——


 キィン


 ゴーレムの装甲に接触したレイラの魔力は、角度を180度変えてレイラの元へ返ってくる。


「なっ⁉」


 ジャンプして避けたレイラの立っていた地面に、大きな穴が開く。戦闘を観測しているサンドラが、ゴーレムに取り付けられた拡声器を通して、レイラに向かって叫ぶ。


「無駄よ! リフレクター・ゴーレムが反射するのは物理的な衝撃だけじゃない。この子に魔力の放出は効かないわ」


「……みたいだな」


 サンドラの言葉を受けて、レイラが呟く。言葉は冷静だが、状況は追い詰められている。サンドラもそれを分かっているので、レイラに向かって諭すように言った。


「これ以上戦っても無駄だとわかったでしょう。大人しく降参しなさい。アダムを返せば、別に殺したりはしないから」


「……」


 しかし、それでも黙っているレイラを見かねてサンドラは言葉を継いだ。


「エルミュルの森に現れた吸血鬼と違って、あなたが人間に害を与えた情報はない。だから罰したりしないって言ってるの。魔力を封じて牢屋には入ってもらうけど、あなたを街へ送ったら、私たちはすぐ吸血鬼の退治に行く。吸血鬼には死んでもらうけど、あなたを殺すつもりはないのよ」

 

 顔を伏せて聞いていたレイラは、ギロリ、と険しく鋭い目をサンドラに向けた。バチバチ……バチバチ……とオレンジ色の魔力がレイラの周りに漂う。


「そこを、どけ!」


 ゴオオ、と魔力が渦となってレイラの身体を取り巻く。サンドラはため息をついた。


「そう、言っても無駄みたいね。なら、ゴーレムに叩き潰されなさい」


 ズシン、ズシンとリフレクター・ゴーレムがレイラに向かって歩き出す。レイラは一度深呼吸をして意識を統一した。それから何かを決心した目でゴーレムを見据え、渾身の力を右足に込めて、ゴーレムへ飛び掛かる。殴られても反射することがわかっているゴーレムは、もはや迎撃や回避をしない。否、迎撃や回避をする余地もないほどのスピードで、レイラはゴーレムの頭部に渾身の一撃を叩きこんだ。


「おおお!」


 ズドオオオオオン!


 すさまじい衝撃音が鳴り響く。衝撃を受けたゴーレムの身体が宙へ浮く。そして、頭部の装甲にヒビが入り、ゴーレムの頭が粉々に砕け散った。そして——


 ズドオオオオオン!


 レイラの全身にも恐ろしい衝撃が跳ね返り、真後ろへ吹き飛んで行く。木々をなぎ倒し、地面を抉り、レイラの身体は数百メートル先でようやく止まった。



 

 ズシン、ズシンとサンドラの乗っている操縦型ゴーレムがレイラへ近づいていく。


 レイラは崖に背中をもたせて頭を下げた状態で、座り込んだままぴくりとも動かない。


「信じられないほどの筋肉思考ね……まさか、反射されることがわかっていて全力で殴るなんて。ゴーレムが一基ダメになってしまったわ」


「……」


 無言で固まっているレイラの様子を見て、サンドラはまたため息をついた。


「抵抗しなければ、ここまで痛めつけることはなかったのに……バカね」


 操縦型ゴーレムの右手がレイラに向かって伸ばされる。そうしてその身体を捕捉しようとした瞬間、ガシッと何かに掴まれて、サンドラの乗るゴーレムはバランスを崩した。


「え? わっ!」


 すてん、と転んだゴーレムの操縦席から、サンドラの身体が掴まれて、吊り下げられる。ジタバタと足を動かしながら、魔工博士の少女は叫んだ。


「そ、そんな! ありえない! 自分の全力の一撃をくらってどうして立ち上がるのよ!」


 レイラは片手でサンドラを吊り下げたまま、もう片方の手で口元をぐい、と拭って呟くように答えた。


「根性ぉ~……!」

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