魔工博士サンドラ その1
晴れた昼下がり、レイラたち一行は、王国南西部に位置するカーミハールの森を歩いていた。
レイラの後ろを歩きながら、子牛の獣人ポッカが呟く。
「しかし便利な身体だなあ。おいらてっきり、あの巨体で連れ立って行くのかと思って心配してたよ」
ポッカのポケットから、手のひらサイズになった褐色竜アダムが、首だけ出して返答する。
「人間と旅をするのは初めてではないからな。我とて、この身体をいたずらにひけらかして進むことは本意ではない。人と共に歩むなら、相応の形態となって進まねばなるまい」
相変わらず回りくどい言い方をする生き物だなあ、とポッカはまた思った。
先導して歩くレイラが笑って声をかける。
「いくらポッカの足腰が強くても、あの大きさのアダムを背負って歩くのは難しいだろうからな」
負けず嫌いのポッカはふくれっ面をしてレイラに言い返す。
「むー、おいらも成長して大人になればアダムだって運べるようになるよ。そう言うレイラだって――」
シュンッ。
最後まで言い切らないうちに、子牛の獣人はポケットのアダムごと背後に吹き飛んで行く。いや、正確にはレイラが、恐ろしい速さでポッカを抱えて背後へと移動したのだ。
ピュンピュンピュン
今までポッカが立っていた場所に様々な色の光弾が降り注ぎ、地面に穴をあけた。ポッカは驚いて叫んだ。
「レイラ⁉」
「ちっ!」
シュバッ
キュイン
レイラはポッカを抱えたまま、さらに横へジャンプする。今度は赤色の光線が立っていた場所を横切って木に穴を開けた。
キュイン、キュイン、と赤色の光線が続けて放たれる。レイラはポッカを抱えたままその全てを躱してみせた。
地面に着地し、レイラの睨んだ先から、ズシン、ズシン、と地面を揺らす何かの音が聞こえてくる。
やがてそれは木々の間から姿を現し、ゴーレムの頭部に乗った少女が口を開いた。
「まったく、すばしこいわね。照射位置は変えてるのに、こんな視界の悪いところで全部避けるなんて」
「何者だ……?」とレイラが問いかける。少女はわざとらしく、はん、と笑い、逆に問い返した。
「こっちのセリフよ。アダムを連れ出して歩いてるあんたたちはいったい何者?」
「ああ、アダムの知り合いか?」
知り合いなら仲間を心配して襲ってきたのかもしれない、そう考えたレイラの警戒心が少し緩む。
「俺とポッカは別に悪さして歩いてるわけじゃない。ただ強いやつを探しながら旅してるだけだ」
少女はゴーレムに取り付けられた計測機器を覗き込みながら、ふうん、と相槌を打った。
「つまり善良な冒険者だって言いたいわけ?」
「ああいや……冒険者っていうわけでもないけどな……別に魔族を見つけて倒そうとしてるわけじゃ――」
ピュン
光線がレイラの頭部目掛けて放射される。レイラは咄嗟に片手で魔力の塊を、顔の前に放出し光線を相殺した。
「くっ……どうやら話は通じないみてえだな」
苦々しく呟いたレイラに向かって、少女は計測機器を覗きながらすまし顔で答える。
「当たり前よ……だってあなた、魔族じゃない」
「え……」
ポッカが思わず呟く。アダムは目をつぶったまま押し黙っている。
「魔族であるあなたが『善良な冒険者』であるわけがない。褐色竜アダムを連れ去って歩く本当の目的は何? それとも、エルミュルの森で村に災厄をふりまいている吸血鬼と、なにか関係があるの?」
少女の言葉を聞いたレイラの目が、はっと見開かれる。
「吸血鬼が村に災厄をふりまいている……?」
「そうよ。討伐に向かった12英雄も消息を絶った。魔王が斃れたこの世界で、あなたたちまた人間に戦いを挑もうとしているの?」
バチバチ……とレイラの周りがオレンジ色の魔力で包まれていく。
「悪いが急用ができた。そこ、通してもらうぜ」
険しい顔で言い放ったレイラの言葉に、少女はやはりすまし顔で応える。
「あら、戦う気になったみたいね。それなら私も準備させてもらうわ。あんたみたいな身体能力お化けには、このゴーレムがお似合いよ」
少女が呪文を唱えると紫色の魔力が周囲に漂い、地面に描かれた魔法陣から巨大なゴーレムが浮かび上がってきた。
「私は12英雄、魔工博士サンドラ。あなたがここを通ると言うのなら、私は容赦しない」
パキパキと拳を鳴らしながらレイラはゆっくりとゴーレムに向かって歩いていく。ゴーレムは両手を大きく上に振りかぶり、次の瞬間、レイラめがけて叩きつけた。




