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イザドラ・リベリーによる気高き悪戯への反応

 吸血鬼の館、バットホール。白と桃色に飾られたその一室で、美しき吸血鬼、イザドラ・リベリーが眠っている。


 透き通るような白い肌と細い体躯は、触れれば壊れてしまいそうな危うさがあるほど繊細である。長いまつ毛が閉じたまぶたと小さな口は、子供みたいに愛らしい。レースのついた寝間着を純白のシーツに沈めるその姿は、まるで精巧に造られた人形のようだった。


「う……ん……」


 その美しき吸血鬼が、愛らしいまぶたを細い指で擦って目を覚ます。


 おとぎ話の1ページのように、清楚で麗しい仕草だった。どこからともなく宮廷音楽の音色が聴こえてくるような雰囲気で、イザドラはその蝋のように白い足をベッドの下の床にゆっくりと降ろす。

 

 カチッ


 なにかの仕掛けが床で作動した音が鳴った。


 続いて爆発音。

 

 チュドーン!


 バットホールの一室の窓が吹っ飛び、爆炎が吹き出す。イザドラの寝室は炎に包まれ、全ての家具はこっぱみじんに破壊されている。


「よし! 成功だ!」


「今度こそ仕留めたか!?」


 二人の従者の歓喜に沸いた叫び声が響く。声の主はもちろんルカとデビッドだ。


「さすがだな、ルカ! ばっちり爆発した」

 

「ふっ、魔術のことなら任せてくれよ。まあ簡単に言えば非常に不安定な状態の魔力を床に溜めておいたんだ。ほんの少しの魔力の接触でそれが爆発するようにね」


 目元を指でおさえながら自らの設計を得意げにぺらぺらと喋るルカの言葉を、まるで耳に入れず(聞いても理解できない)デビッドは祈るような気持ちで室内に舞い上がった煙が収まるのを待った。

 

 しかし、そんな彼の願いをあざ笑うように、室内からずるり……ずるり……と何かを引きずるような不気味な音が聞こえて、墨だらけの顔のイザドラが優雅に歩いてきた。心なしかその肩はわなわなと震えている。


「あーくそ、やっぱりだめかあ」


「すごいな、本当に不死身なのか」


「な、だから言ったろ? 何しても死なないって」


 感心して会話をするデビッドとルカに向かってイザドラが口を開く。

 

「けほん、あら、おはよう、デビッド、ルカ。ずいぶんな起こし方じゃないかしら……げほっ、ごほっ、おかげさまでばっちり目がげほげほっ!」


 咳こむイザドラを見かねてデビッドが声をかける。


「おいおい、そんな煙だらけの場所で喋ると肺をやられちまうぞ……大丈夫か? 水飲むか?」


 背中をさすりながら心配するデビッドに、イザドラも言葉を返そうとする。


「煙だらけにしたのはげほっ、げほっ」


 しかし咳こんでしまって上手く喋れない。吸血鬼は目尻に涙を浮かべて「み……ず……」と途切れ途切れにつぶやいた。


「ん?」とデビッドが訊ねる。


「水を、持ってきてくださるかしら」


 ひゅーひゅー喉を鳴らしながらやっと言い切った言葉を受けて、デビッドは水を取りに走っていったのだった。


「しかし、部屋を吹っ飛ばしても死なないとは」


「どういう仕組みで蘇ったんだろうなあ。 ……あんま想像したくねーけど。なあルカ、どうやったら殺せるか、思いつかないか?」


「うーむ……」


 デビッドとルカは滅茶苦茶になったイザドラの寝室を二人で片づけながら、不死身の吸血鬼を殺す方法を考えていた。理知的なルカが目元を指でおさえながら暫く考え込んでいたが、ふと思いついて口を開いた。


「イザドラが開く扉の上にギロチンを仕掛けるというのはどうだろう?」


「それはもうやった」


「え、失敗したのか?」


「いや、成功して首をはねても復活した」


「えぇ……」


 デビッドの返答にルカは露骨に顔をしかめる。


「ドン引きするよな……そりゃ……」


「爆殺と斬首でもだめとなると、もうあとは煮えたぎった鉄の中に落として全身を溶かすくらいしか」


 そこへ様子を見に帰ってきたイザドラが口を挟む。


「ずいぶん熱心に私を殺す方法を考えているのね」


「お、イザドラ。咳はもう大丈夫か?」


「おかげさまで良くなったわ。それよりデビッド、ルカに先輩下僕としてこの館の作法を教えるようにと、伝えておいたわよね?」


「ああ、きちんと伝えたぜ。イザドラが不死身ってことと、この森から出ずにきちんと仕えている限り何かされる心配もないってことをな。な、ルカ?」


「シンアイナルイザドラサマニ、ワタクシハチュウセイヲチカイマス」


 片言で適当に忠誠を誓われた主の吸血鬼は、思案げに片手で頭を押さえた。


「この愚かな下僕たちに、親指程度の作法を覚えさせるにはどうすればいいかしら……」


 主人の殺し方を考える従者二人と、従者の教育法を思い悩む主人の三人が、それぞれ真剣な顔で頭を捻っていると、天使のようなレクリスの声が響いてきた。


「おはようございます、みなさん、おいしい朝食の支度ができましたよ」


 三人は顔をパッと輝かせて、リビングルームへ歩いていった。


「今朝はハチミツのトーストとクランベリーね。悪くないチョイスよ、レクリス」


 レクリスの方を向いて声をかけるイザドラの隙をついて、デビッドがイザドラのトーストへ手を伸ばす。


(へっ、隙を見せた方が悪いんだ。悪いがこのトーストはいただくぜ)

 

 そのデビッドのクランベリーを、横にいたルカがひょいっと口に運ぶ。

 

「あっ、ルカてめえ! 卑怯だぞ!」


「隙を見せた方が悪いんだ。うん、相変わらずこの館のデザートは美味しいな」


「……そうか、なら俺は力ずくで手に入れて見せる!」


「わ、バカ! たかがクランベリーで本気になるんじゃない! いたたたた、この馬鹿力!」


「あらあら、十二英雄ってずいぶん仲がいいのね。でも、食事の作法はなっていないわ。やれやれ、この二人が作法を学ぶのはいつになるかしら」


 二人のやり取りを見てイザドラが軽口を叩く。レクリスも笑いながら声をかける。


「まあまあデビッドさん、ルカさん、クランベリーはまだまだありますから、仲良く食べましょう、ね?」


 爆発から始まったバットホールの朝は、いつの間にか穏やかな雰囲気に包まれているのだった。

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