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10-3 嫉妬の始まり

 私の分身はクランツェフトの政務に追われていた。

 父は回復したが、もう表舞台に立つ気はないようだ。

 だから、皇帝の執務室にはいろんな人が出入りしている。


「お姉さま、肩を揉みます」


「うふふ、ありがとうアリアちゃん」


 私は対価を払い、現在お姉さまに皇帝代理をしてもらっている。

 対外的には皇帝がお父さまから変わってない事になっているが、皇城の中ではもう周知の事実だ。


「学院はどうかしら? 楽しい?」


 お姉さまは、グリダニアン学院の卒業生だ。

 卒業後は外国に外交官として派遣されていた。

 クランツェフトに帰ってきたと思ったら兄の事件に巻き込まれて、それはそれは可哀想なお姉さまだった。


「思ったより、楽しかったです」


 初日だけで、私は結構満足していた。

 新しい友達もできたし。


「良かったわねぇ。なでなでしてあげるわぁ」


 私はもう1人分身を出して、差し出した。

 お姉さまへの対価。

 私の分身を好きにしていいと言う対価。

 けど、いくら分身とは言えど、嫌なものは嫌なのだ。


 分身2号はお姉さまになでなでされて、どさくさにまぎれて抱きしめられている。

 すごく嫌そうな顔でこちらを見てくる。


「アリアが嫌がってるからやめなよ」


 ドミニクが助け船を出してくれた。

 彼は今だけ私の仕事のサポートをしてくれている。


「ちぇ。わかったわぁ」


「サンクタ様。こちら、アールグレイです」


 レイがお姉さまの好きな紅茶を渡す。


「あ、僕もお願い」

 

 ドミニクは最近レイと仲が良い。

 私としては嬉しい限りなのだけど、たまに何か企んでる節がある。


「擬似魂の調子はどう?」


「大丈夫だよ。分身にいい感じに定着してる」


 ドミニクが長期間クランツェフトを離れる私のために、思考を自立できる擬似魂と言う魔具を作ってくれた。

 デメリットとしては、本体との連絡が取れないことだけど、これのおかげで分身に思考が割かれる事がなくなったし、学院生活に集中できる。


「その魔具をみんなに配って1人1アリアちゃんにしたらどぉなの?」


「何ですかその単位……。普通に嫌です」


 この擬似魂を抜くと、それまでの情報が一気に本体に流れ込むので複数体は負担が大きい。


「姫様が何人増えても私はお仕えします!」


 うーん、嬉しいような嬉しくないような……。


「はぁ。それ作るのにいくらかかってると思ってるの? もう作らないよ」


 ため息混じりに紅茶をすすりながら、ドミニクは書類を完成させた。


「よし、それじゃあもうそろそろ飛ばしてくれる?」


 ああそうだった。

 ドミニクを教員用宿舎に転移させないと。


「手伝ってくれて、ありがとう。本体にもよろしくね」


「贔屓はしないから。まぁアリアなら僕の講義についてこれるだろうけどね」


 私はドミニクに手を触れて、宿舎をイメージした。



 今日はハンスの講義がある。

 さすがハンス。とても人気……かと思いきや、最初のうちは満員御礼なのに最後には数人しか残らないぐらい難しい課題を課す人で有名らしい。

 グランとタイニーはそそくさと逃げ出していた。

 多分、簡単に合格出すの嫌なんだろうな……。


「ラファさん、おはようございます」


「アリアさんも先生の講義を受けるんですね」


 やっぱりラファがいた。


「どんな講義をしてるか気になって……」


「ラファニエル様、おはようございます」


 レミリアも、ハンスの講義を受けているらしい。

 ん? そう言えば私の周りみんなハンスの親戚か?


「レミリア、おはよう。アリアさんと一緒なのかい?」

 

「はい、常に共におります」


 なんか恥ずかしいぐらい、レミリアは私にべったりなのだ。困る事でもないけど、いつも私をじっと見つめて何かを言いたそうにしている。


「講義を始めます」


 転移で入室してきたハンスは、時間ぴったりに講義を始めた。


「今日は分身について、深く掘り下げていきます」


 ふむ。分身か。

 やっぱり思考の分離、分離に伴う疲労、分離上限の個人差とかかな。それとも――


「まず、皆さんにお聞きします。分身は妊娠すると思いますか?」


 は?

 いや、こっちを見ないでよ。

 な、何言ってるの?

 するわけないでしょ!?


「するわけがない。と思いましたね? そもそも分身を使う魔術師は多くありません。自身より弱い分身を作る意味がないからですが、生物学的には夢がある魔法です。そして、まだしないと決まったわけではありませんよ」


 私の反応を見て少し笑っている。

 ッチ。からかいやがって。


「さて。ではなぜ妊娠しないと思われましたか?」


 そりゃあ、魔力をずっと補充、もしくは分けたりしながら存在を保つ分身が妊娠したら、消えた時にお腹の子も消えちゃうし……。

 あれ? だとしたら妊娠はできるんじゃ?

 分身の中身ってどうなってるんだ?


「分身の中身は、普通の人間と変わりありません。実体があり、そして内臓がある」


 黒板に魔法で"魂の所在"と書いた。


「人が人である証明は魂の存在です。分身の子に魂が宿るのか。その魂はどこから来るのか――気になりませんか?」


 ♢


 自分の部屋で休憩していた分身の私は、目の前のハンスの分身に戸惑っていた。


「リア、特別授業ですよ。分身は妊娠するのか。実際に試した方が早いでしょう?」


「な、何言ってるの!? ほ、本体は? 何の講義を受けてたら……そんな発想が……」


 私は慌ててもう1人分身を出して、気付く。

 この状況を本体に伝える手段がないことに。

 そして出てきた分身は、この状況――押し倒されている私をみて絶句した。


「えっ……?」

 

 ♢


 私はハンスの講義を夢中になって聞いていた。

 知的好奇心が刺激される、楽しい講義だ。

 しかし、突然それはやってきた。


「!!??」


 突然立ち上がった私を、みんなが不思議そうに見ている。

 そして、ハンスはニヤリと明確に笑った。


「すみません、続けてください」


 擬似魂が引き抜かれた。

 引き抜いたのは、分身の私。

 そして、それまでに感じていた感情と体験が一気に私の身に降りかかった。

 

 何この気持ち……。


 ♢


 私の分身は顔を覆って現状を直視できないでいた。

 キスしている。楽しそう。私も混ぜ……いや、違う!!


 私の分身は、急いでハンスに押さえ込まれている私の擬似魂を引き抜いた。


「分身をコントロールできない状況に置くのは賢明だとは思えませんよ」


 ハンスは余裕そうに、髪をかき上げてベッドの上で脚を組んでいる。


「まさか、分身が狙われるとは思わなかったし……」


 まさか、擬似魂の感情がこうも私の感情と容易に分離するとは。まるで、他人にハンスが寝取られたみたいな……。

 それでいて、自分に起こったように感じる。


 まだキスだけだからよかったけど……。

 よかった?

 自分の分身に対して思う感情がそれ?

 それじゃあまるで、私が――


「リア。きちんと私の講義についてきてくださいね」


 そう言い残してハンスは消えた。


 手元の丸い擬似魂を見ながら、私はどうしたものかと考える。

 魂の所在。

 擬似の魂は私とは少し違うんだ……。

 そんなこと言われても、じゃあどうしろって言うのよ。

 擬似魂を使うの辞めさせたいなら、そう言えばいいのに。


 ♢


「大丈夫ですか?」


 ラファが私の背中をさすってくれた。


「うん……ありがとう」


「講義はこれで終わりです。各自お配りした課題を次の講義までに終わらせておくように」


 ハンスは転移で消えていった。

 机の上には、魂と感情の結びつきについて論述せよ。と書かれた課題用紙が置いてあった。


 ……書きたくない。

 なんでこんな気持ちを紙に書かないといけないんだ。


「面白い講義でしたね。同じ魂があったとしても、同じ感情を持つかはわからないとは考えたこともありませんでした」


「魂が見えてても、わからないことってたくさんあるんですね……」


 ラファの純真な意見が刺さる。


「アリアーデ様、お次は選抜試験ですが……体調は大丈夫ですか?」


 レミリアは、私を観察するように見ている。


「問題ないよ。ごめんね、心配かけちゃって」

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