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ドミニクif

エイプリルフール企画です


 音楽がうるさい。


 いや、正確にはちょうどいい音量なのだろう。

 舞踏会とはそういうものだ。

 

 笑い声も、彼女を取り巻く視線も、今のドミニクにとっては鬱陶しいものでしかなかった。


 壁に背を預け、広間を眺める。

 中央では、彼女が笑っていた。


 たったそれだけのことに、胸の奥が痛む。


 馬鹿みたいだ、と思う。


 自分はそこまで愚かじゃないはずだった。

 見た目にしろ、地位にしろ、才能にしろ、別に恵まれていないわけじゃない。

 むしろ平均よりはずっと上だと、他人が勝手に証明してくれている。


 なのに、たった一人。

 たった一人の女の子すら、振り向かせることができない。


 そんなこと、あるんだ。


 ドミニクは誰にも聞こえないように、小さく笑った。

 笑ったはずなのに、胸の奥は少しも軽くならない。


 アリアーデがこちらにやってきた。


「こんなところにいた」


 その一言だけで、息が止まりそうになる。

 探していた、という意味なのか。

 本当に?

 僕を?

 

「一曲くらい、付き合ってよ」


 どうしてそんなに簡単に言うんだ。

 それがどれだけ残酷なことか、わかっているのだろうか。

 

「僕、あんまり踊れないんだけど」


「それでも、いいよ。ドミニクと踊りたいんだから」


 差し出された手は、お世辞にも綺麗とは言えない。

 ナイフや剣を握るから、指に薄くタコが出来ている。


「しょうがないな……」


 彼女の好意にすら、素直に向き合えないと言うのに。


 同じ身長で、同じ顔の高さで、彼女は僕を見ている。

 今この時だけは、他の誰でもない僕を見ている。


「ハンスに教えてもらったんだけど、上手かな?」


 僕の前で、他の男の話?

 恋だの、愛だの知らない顔で。

 ……本当に知らないのだから、どうしようもない。


「下手くそ」


「うっ……ごめん……」


 僕の言葉で、すぐに顔を曇らせる。

 ああ、なんて不用心なんだ。

 そんなふうに感情を曝け出して、他の男にも、誰にも、同じようにするんだ。


「僕なんかより、ハンスと踊ってきたら?」


 思わず零れた言葉に、自分で嫌になる。

 こんな、試すみたいな言い方。


 けれどアリアーデはきょとんとした後、あっさり言った。


「どうして? ドミニクと踊りたいのに」

 

 顔を上げる。

 彼女は少し照れたみたいに笑っていた。


「そのために、探してたんだよ?」


 その言葉に、表情に、胸の奥が熱くなる。

 どうしようもなく、嬉しいと思ってしまった。

 ……これは僕の欲しかった言葉。


 馬鹿だ。

 こんなもの、ありえるはずがないのに。


 アリアーデはこんなふうに、誰か一人を選ぶようなことはしない。

 こんなふうに、僕だけを安心させるための言葉をくれたりしない。

 もっと身勝手で、もっと眩しくて、もっと残酷だ。


 気づいた瞬間、熱は一転して吐き気に変わった。


「ペグロック、もういい。やめろ」


 煌びやかな空気が一転して、無機質な部屋に変わる。


「そんなふうに笑う彼女を、僕に見せないでくれ」

 

 ペグロックが、まるで慰めるようにそばに寄ってきた。

 

 何をやっているんだろう僕は……。

 もう、手遅れなのに。

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