7-7 同類
ハンスが気を失ってから、私は完全にパニックになった。
どうして、なんで言ってくれなかったの。
苦しかったはずなのに、痛かったはずなのに。
「アリア様……なぜハンスなんですか? それだけはないでしょう? だって、私のアリア様が壊されちゃう……」
リーンが何か言っている。
「アリア、その男から離れるんだ」
カイネル兄様が何か言ってる。
剣を構えたお兄様がこっちに近付いてくる。
お父様はどこにいる?
周りの貴族はなんで誰も助けにこないの?
「……守らなきゃ」
ハンスの魔力を、魂を使って私は魔法を構築する。
周囲に冷気が立ち込めて、私とハンスを中心にドーナツ状に床が凍っていく。
「アリア、やめなよ」
ルヴィアが、支配した針を私の首に突きつけている。
少し魂がハンスに近付いたからか、冷静になってきた。
……ハンスを救える可能性はある。
「クリエイトモード」
小さく呟いて、必要なピースを睨みつける。
「俺の事、憎んでいいから……」
「いや、違うルヴィア! 逃げろ!」
気付いたドミニクが声をあげる。
私はルヴィアを逃さまいと全力で駆け抜けた。
首に刺さる針をもろともせずに。
「えっ?」
「ついてきて」
私はルヴィアの腕を掴むと、ハンスに駆け寄って瞬間移動を発動して二人を連れてアジトに飛んだ。
ハンスを機械の横にあるベッドに寝かせる。
「ゴホッ」
刺さった針が邪魔だった。
手で引き抜いて治癒魔法で手当てする。
ああ私、治療魔法使えたんだ……。
「アリア、ここ……もしかして」
「この魔昌石に支配の魔法を込めて。早く」
「な、なんで?」
イラついた私はルヴィアに近寄って、無理やり口の中に指を突っ込んだ。
魔昌石をルヴィアの舌先に押しつけ、無理やり魔法を発動させるよう促した。
「早くして?」
瞳に恐怖の色が滲んだルヴィアは言う通りに魔法を発動する。
……ルヴィアは私の右手を支配した。
でも魔昌石には魔法が入った。
私は気にせず右手を切り落とし、治癒魔法で即座に再生させた。
ハンスの魂と近付いたおかげで、魔法の発動も練度も上がっている。
「化け物……」
ああ、ハンスもこんな気持ちだったんだ。
……何も感じないや。
右手が持っていた魔昌石を拾って、フルダイブVR機械にセッティングして電源を入れた。
私の考えが正しければ……ハンスは救える。
ハンスの頭にリング状の魔具を取り付けて、私も同じ世界に入るために同じものを頭につける。
あとは、魔力を込めるだけ。
私は迷わず魔力を込めた。
♢♢♢
ホールは騒然としていた。
床には血の跡と氷が残っている。
レイは走っていた。
行き先は秘密基地だと言うことは、レイにはなんとなくわかっていた。
ドミニクがレイの後を追いかけてくる。
ホールの外に出たら、ドミニクが声を掛けてきた。
「レイ、これに乗って」
大きいペグロックに乗ったドミニクが、レイに手を伸ばす。
迷わずその手を掴むと、二人は急いで秘密基地に向かった。
♢♢♢
ドミニクが秘密基地の中に入ると、茫然と立ち尽くすルヴィアとベッドに横になったハンスがいた。
そして、ベッドにもたれかかるように倒れていたアリアーデを、レイが抱き起こしてもう一つのベッドへ寝かせた。
「やっぱり……」
「どういうことでしょうか?」
「クリエイトモードは、世界を自由に作製できるモードで、オブジェクト設定や人物を作る時に魔力を消費するんだ。それも、広大なフィールドを作る時は何ヶ月もかかる。そのくらい魔力消費が大きいから、アリアはそれに縋ったんだろうけど……根本的解決にはならないよ」
今のハンスの体は多すぎる魔力に体がついていかない状態だった。
であれば魔力を少なくすればいいと普通なら考えるが、アリアーデとハンスの魔力を合わせた魔力供給のスピードはかなり早い。
恐らく出来て現状維持だろうとドミニクは思っていた。
「我々はどうすれば……」
「今の状態でアリアを引き離すと、アリア自身も危ないかもしれない」
魂が繋がっている状態と言うのはデータがない。
魔力もハンスが持っていると言うことは、魂を経由してアリアーデが魔力を使っていると言うこと。
今接続を切るとどうなるかわからない。
「そうだ、中の様子が見れないか試してみる」
そう言って、ドミニクは機械に向かい合って操作し始めた。
♢♢♢
白い空間に私は居た。
ハンスの姿は見えない。
だけどやるしかない。
私は東京の街並みを再現し始める。
ビルのような巨大建造物は魔力消費が大きいから、東京は今の状況にもってこいだった。
どうしてもっと早くにこうしなかったんだろう。
無理やりハンスを連れて来て……ああ、そっか。
だからハンスは私から逃げてたんだ。
私の目の前でああやって倒れて、ざまぁみろって言いたかったの?
私を一人にして、孤独を味わわせたかったの?
……わからないよ。ハンスの気持ちが。
目眩がしてきた。
吐き気もする。
多分これはハンスが感じていた不快感だろう。
このままだと、私の魂はハンスの魂に必要以上に引っ張られて取り込まれてしまうだろう。
何日先か、何ヶ月先かわからないけど。
私はハンスの内面に触れるのがずっと怖かった。
敵として定義すれば、その内面を考察することは出来た。
けど本当の彼の心に触れて、もし私の事を疎ましく思っているのだとしたら……。
私はあの時、ハンスが私の捨て身の攻撃から助けてくれると期待していた。
彼は戦いより私を優先してくれると、そうしてくれると嬉しいなって……。
私は街を歩いていると、見知った背中を発見した。
彼の歩くスピードは速いから、自然と私は走り出していた。
路地を曲がって、交差点に出た。
「ハンス! どこ行くの!?」
「……ここはリアの故郷ですか?」
私の前世の名前……。
突然名前を呼ばれてドキドキする。
「リア、どうして頑なに私の心を読もうとしないんですか?」
読めばわかるじゃないですか。と伝わってくる。
「ハンスがどう思ってるのか知るのが、怖くて……。できれば、ハンスの口から教えてほしいんだけど……」
ハンスが呆れている。
ここに来て、言葉など意味がないことはわかってる。
私の気持ちは全てハンスに伝わっているし、そのくらい魂が近付いていることも。
「ここでのあなたのやるべき事は、私の心を読む事です。それ以外に私を理解する術はありませんよ」
わかってるよ……。
怖いし辛いし逃げたくなる。
ハンスは私をじっと見つめていて、私が答えを出すのを待ってくれていた。
「じゃあ……目を閉じてて?」
ここで目を閉じる行為なんてなんの意味もないけど、それでも恥ずかしかった。
私はハンスに近付いて、ハンスの胸に手を当てる。
私も目を閉じて集中する。
『私を見てほしい。そして、私と同じところまで堕ちてきて下さい』
一気にハンスの感情が流れ込んできて、私はそれに飲み込まれた。




