8-1 あなたに対してのお礼
ログアウトの時間がやってきた。
私のログイン管理権限はハンスに奪われたため、私は待つことしかできない。
ハンスが上の方を見上げて言った。
「外が騒がしいですねぇ……」
レイ達は大丈夫だろうか。
と言うか、なんで外の状況がわかるんだよ……。
「さて。魂の回廊を解除するにあたって、注意事項があります」
「何? 早く出たいんだけど」
ハンスは指を2本立てた。
「一つ。もう二度と魂を触らないこと。二つ。私の魔力が混じっていますので、しばらくは魔法の発動が不安定です」
言われなくたってもう魂はいじらないよ。
「あと……自身の魂を見ないことを推奨します」
ハンスの口元が上がってるから、多分私にとって面白くないことだ。
魔眼が復活したら見ようとしなくても見えるっての。
「わかった。私からも一つ。ここでのことは口外無用だからね!」
「おやおや、人に聞かれて憚れることなどありましたか?」
あったよあった!
たくさんあったよ!!
「早く、繋がりを切ってよ!」
最後に心の中で罵詈雑言をこれでもかと言ってやる。
ハンスのクズ! 鬼畜! キモイ! ハゲろ!
目を閉じて念じていたら、体に触れる空気が変わった。
「姫様!! ああ、良かった」
目を開けて起き上がった私を抱きしめてくれたのはレイだった。
「レイ、心配かけてごめんね。うぅ……やっと出れた……」
レイをぎゅうぎゅう抱きしめて、外に出られた現実を噛み締める。
「感動の再会のところ悪いけど、状況は最悪だよ」
ドミニクが冷静に告げた。
たしかに、さっきからドンドンガンガン工事中かってくらい外が騒がしかった。
と言うか、ハンスは……いない。
あいつ逃げたな?
「お兄様でしょ? 私が行くから、みんなは待ってて」
病み上がりみたいなものだけど、体は動きそう。
ちらっと私は自分の魂を見た。
……染まってる。
最悪だ。多分、魂が長く繋がってたせいだ……。
「アリア……」
ルヴィアがもじもじと下を向きながら私に声をかけた。
「ルヴィア……ごめん。埋め合わせは後でするから」
今は早く騒動を鎮めないといけない。
「うん……俺、待ってる」
消え入りそうなルヴィアの声に胸が詰まりそうになった。全部、私がやったことだ。だから、きちんと終わらせないと。
「アリア。皇帝陛下は今寝たきりだ。やったのはカイネル皇太子殿下だよ。まだ身内の貴族しかこのことは知らない。だから、今のうちに上手く収めてきて」
「わかった。ドミニク、今までありがとう」
いつもの調子なドミニクだから、こう言う時もありがたい。
私はレイと共に、秘密基地を出た。
♢♢♢
ハンスは皇城にある皇帝ジゼットの寝室にいた。
「まだ死なれては困りますよ。約束を果たしていただかないと」
ハンスは手作りの魔法薬をジゼットに飲ませた。
毒を少しずつ盛られていたせいで衰弱が酷い。
だが、この魔法薬は解毒剤ではない。
契約を交わすためだけの間、少し元気になる程度のものだ。
「お前は……」
目を覚ましたジゼットは、かすれた声で口を開いた。
「16年前、アリアーデ殿下が誕生した際の約束を覚えていらっしゃいますか?」
「ああ……」
「私の皇位継承権第二位の権利をアリアーデ殿下へと委譲して下さい」
「そう……だったな……」
約束。
元々ハンスが辺境伯の地位に着いたのは、10歳の頃だった。旧レガリウス帝国の嫡子であるハンスの扱いは、クランツェフトにとって頭痛の種であったが、ハンスが自身の処遇について進言したのだ。
「私はクランツェフト帝国を裏切りません。その証に辺境伯として魔境の魔物を退治し続けましょう」と。
そしてアリアーデの誕生を機にハンスはもう一つ約束を交わした。
「皇位継承権第二位ですか? 信頼していただきありがとうございます。ですが、この権利は然るべき時アリアーデ殿下にお譲りします。その代わり――」
――レガリウスはクランツェフトに対して宣戦布告する。
この時のジゼットの顔はハンスの中でも上位に入るほどの間抜け面であった。
ハンスという人間を、この時ジゼットが知ってしまったのだ。




