4-4 列車旅
ラビットさんと戦った日から、私は攻略対象者達の行動を監視していた。
ハンスだけは姿が見えなかったけど、他の人達はリーン含め何やら怪しい行動をしてる気がする。
特にラビットさんは露骨に私を追いかけまわしている。
一度問い詰めたら、「神よ、私に神託を」って言って聞かないから、「神は神より強い人の言葉しか受け取りません」って言ってやった。
そしたらぴったりと来なくなったけど、修練場から悲鳴が日夜聞こえるらしい。
前よりラビットさんが狂信的になってしまったのは私のせいじゃないといいな……。
「うわ、景色最高じゃん!」
旧バーバリー領への道は高原が広がっている。
私は列車の窓を開けて、心地よい風を感じていた。
そう! 私は今、1人で列車旅をしているのだ!
レイとリーンを撒いてくるのに苦労したけど、最終的にはトイレの窓から逃げて来た。
今頃皇宮は大騒ぎだろうけど、ちゃんと置き手紙をしてきたから誘拐ではないってわかってもらえたと思う。
それに、父との約束も果たしたも同然だったしね。
「ふんふーん。あ、すみませーん、駅弁1つくださーい」
車内販売があるとか、わかってるねぇ。
お茶も一緒に購入して机に駅弁を置いた。
瓶に入ったお茶をカップに注いで飲む。
「初めての列車でのお茶のお味は〜〜ブブー!! ゲホッゲホッ」
「おやおや。人の顔をみて吹き出すとは随分と粗野ですねぇ」
ハンスは私の目の前の席に座って足を組んだ。
「ど、どうしてハンスがここにいるのよ!」
最近見ないと思ったら、こんなところに!
でもなんで私がここにいるってわかったんだろ……。
「特等席で見物しようかと思いまして」
見物?
知らない単語ですね……。
ちょっとなんなの? 意味不明なんだけど。
「何の見物?」
「順番ですよ。今みなさんが殿下の元へ手段を問わず向かっています。これは大変愉快な事態ですねぇ。ここにいれば、競走馬達の愉快な順位争いが見られるでしょう?」
みんな、馬に例えられてるよ……。
「せっかく1人で列車旅を満喫出来ると思ったのに!」
「それはお気の毒に……。ちなみに、私から逃げ切れたらご褒美を差し上げますが、どうされますか?」
……。
どうされますかって、挑まれた勝負は断らない派の私にそれを聞きますか?
ハンスの実力も知りたいし、やる一択。
「この駅弁食べたらね」
「おや、そのような時間がありますか?」
ハンスは視線を窓の外へ向けた。
えっ……。
窓の外を見ると、ラビットさんが列車の後ろを走って追いかけて来ていた。
「うそでしょ〜!?」
列車並みの速度っておかしいでしょ!
ハンスはニヤニヤとこちらを眺めている。
「さっさと始めたいところだけど、ルールはある?」
「そうですね。私が殿下の追跡を開始するのは明日の朝としましょう。待ち伏せは致しません。私と目が合ったら殿下の負けです。他の皆さんと協力するのも可能としましょう」
なるほど。
と言うことは、追いかけっこと言うよりはかくれんぼになりそう。
隠れつつ移動を繰り返せば良さそうだね。
勝敗が目が合ったらって、私が目を逸らしたらいいだけじゃない?
神話にありそう、目を合わせたら死ぬ怪物。
想像したらちょっと嫌だなぁ。
トイレしててふと窓の外を見たらそこにハンスがいる。
どんな悪夢? こわっ。
「私が負けたらどうなるの?」
「特に考えておりませんでしたが、必要ならば……そろそろ家庭教師をやってもいいですねぇ。ダンスの仕方から魔法の制御まで、嫌になっても教えて差し上げますよ」
藪蛇だったか……。
まぁいいや、勝てばいいんだし。
「はいはい。じゃ、ゴールはドワーフ地下帝国の入り口ってことで」
「ええ。助言をしておくと、あまり外には出ない方がよろしいかと」
「いや、それだと辿りつかないじゃん……」
「では、検討を祈ります」
ハンスは霧が晴れるように消えていった。
うそ、あれ分身だったんだ……。
分身のどこが難しいって、思考を分割しないといけないところ。
私はまだ分身が使えない。
正確には目を閉じて集中したら出来るんだけど、それだと戦闘中に使えないし今はいらないって判断をした。
「さて、ラビットさんは……」
窓の外を見たら、ラビットさんが並走していた。
「はぁ、早く乗ったら? ……無賃乗車だけど」
「神よ、突然申し訳ありません。神の身辺には怪しい者が多いため単独で行動しております」
ハンスとの勝負を考えると、これからやってくる人達をゾロゾロと引き連れるのは良くないな。
「その判断は正しいよ。今ハンスと勝負してるんだけど、今から言うものを用意して指定する宿屋に来て。あとは他について来てる人に伝言をお願いできる?」
「容易い御用です」
ラビットさんには偽装工作用の染髪剤と変装道具の準備、そしてリーンとルヴィアに囮になってもらうことを伝えてもらう。
「明日以降伝言が失敗しても、私のところに戻らなくてもいいから。私は単独行動する」
「仰せのままに」
ラビットさんは、そのまま車窓から飛び出して行った。
さて、私も準備しますか!
私も駅弁を抱えて、列車が市街地に入ったところで車窓から飛び出した。
♢
魔法で変身したら絶対にバレる。
と言うかこれからは魔法は一切使えないと言ってもいいだろう。
私は1軒目の宿屋に入ってラビットさんを待つ。
そこで変装セットを受け取って、黒髪の町娘に変装して2軒目の宿屋に行く。
リーン達には1軒目の宿屋に入ってもらってから、私に変装してもらう。
こうすることで追跡対象を増やして撹乱することが出来る。
私はその宿屋で一泊して、部屋から街の様子を見た。
「……尾行の気配はなし。ここでバレちゃ、これまでの手間が全部無駄になっちゃうから良かった……ん?」
よく見ると、街の外に出歩いている人で同じ姿の人が何人もいることに気付いた。
……よかった、目は合わなかった。
慌てて窓から離れて今後の出方を思案する。
「何あれ……ざっと30人は分身がいたよ……」
大通りには、ハンスの分身がたくさんいた。
だから、外には出ないほうがいいって言ってたのか。
……じゃあどうしろと?
屋根伝いに走ったら目立ちすぎるし、かといって大通りを堂々と歩くなんてリスキーすぎる。
せっかく変装したのに……。
ドワーフ地下帝国は地下にあるんだよね。
入り口は洞窟らしいけど、地下の支配領域がどれぐらいあるかによって、もしかしたら近くを掘れば辿り着ける?
いやいや、現実的じゃないな。
そうこう思案していると、外からリーンの悲鳴が聞こえてきた。
気をつけて窓の外を見ると、リーンがハンスの分身に見つかって腰を抜かしているところだった。
「時間もあまり無い……か」
しょうがない。
魔法は使わないと思ってたけど、強行手段に出るしかないね。
私は宿屋の裏口から出ると、地面を思いっきり蹴って空高く飛んだ。
雲を突き抜けて、地上から見たら点ぐらいの位置で止まる。
「寒っ!」
これこそがナビに頼らず目的地に行く方法……。
って、そんなこと考えてる場合じゃないや。
向こうも卑怯な手を使うなら、こっちもやり返すだけだもんね!
上から見るとドワーフ地下帝国の入り口はわかりやすかった。
目印の大きな山に、これまた大きな横穴が空いている。
そこ目掛けて私は空を突っ切った。




