4-1 死にたがりと正論パンチ
「ラビット団長、ご依頼の物が届きましたよ」
「ご苦労様です。あなたに神のご加護があらんことを」
ラビットは部下から渡された包みを開けた。
アリアーデと鍛錬を続けて、もう教える事はなくなっていた。
機は熟した。
まずは、邪魔が入らないようにアリアーデと二人きりになる必要がある。
「姫君、待っていてください」
ラビットがこの日の為にあつらえた服を着て団長室を出る。
アリアーデと会う約束は市民街にあるコンサートホールでしている。
鍛錬を無事終えた事の記念に、贈り物を用意したとも伝えてある。
廊下を歩き宿舎を出ると、目の前によく見知った男が現れた。
「おやおや、こんなところで奇遇ですね。お出掛けですか?」
「ハンス。貴方には関係ありません」
「殿下と戦うおつもりですか? それは困りますねぇ」
ラビットが行動に移すと予想していたように待ち伏せされていた。
「そこを通してください」
「嫌だ、と言ったら?」
この男はいつも邪魔をしてくる。
自身に罰を与えてくれない人間には興味はない。
無言で剣を抜き放つと、ハンスも杖を構えた。
一太刀目は、相手の首を狙った。
だが、そこにハンスの姿はなく、剣先は空を切った。
「無駄な事はしない方がいいと思いますよ?」
「無駄かどうかはまだわかりません」
ハンスが使っているのは瞬間移動。
このような魔法は多用できないはず。
畳み掛けて消耗を誘えば、勝機は見えてくる。
♢♢♢
「レイさん、何が起こっているかさっぱりわかりません」
リーンは、目の前の戦いを認知できずにいた。
それもそのはず、神速のラビットと最強のハンスが戦っているのだから、常人の目には影すら見えない。
「やはりハンス様が勝ちそうですね」
二人は今日、ラビットがアリアーデに挑むことを確信していた。
なのでアリアーデが皇宮を出てから、ラビットをずっと見張っていた。
今頃アリアーデはコンサートホールで待ちぼうけを食らっているに違いない。
「でも、ハンスが出てくるとは思いませんでしたね」
「ハンス様の性格を考えれば妥当でしょう」
レイはリーンから聞かされていたストーリーを聞いて、攻略対象者はもう正式なストーリーから外れていると考えていた。
むしろ今重要なのは、各ストーリーに登場する“強敵”の方だった。
「ラビット様のストーリーに出てくる強敵は、ドワーフの超電磁砲です。でも、ゲーム開始までまだ二年ありますし、さすがにまだ開発されてない可能性もあると思うんですが……」
「ですが、ラビット様が動いている以上、我々は誘導しなければなりません」
アリアーデを強敵と戦わせる。
それはラビット然り、各ストーリーに出てくる強敵にも言えること。
いかに自然に遭遇させて、かつアリアーデに満足してもらえる結果にするか。
それこそが二人の計画であった。
「面白い話をしていますね?」
「「!?」」
リーンはハンスのことを怖がっているため、言葉も出ないようだった。
「ハンス様、戦いは……」
ラビットとハンスが戦っていた方を見ると、まだ二人とも戦っていた。
「分身……ですか」
「ええ。ラビット君の剣はつまらないですからね。こちらの方が面白そうなお話でしたので」
「……」
「おや、教えて下さる気はないと?」
「レイさん……」
リーンはレイに決断を委ねた。
「わかりました、説明いたします。ですが、一つ聞いておきたい事があります。ハンス様は、姫様を弑虐なさるおつもりですか?」
一番行動が読めないのがハンスという男だった。
ハンスルートのストーリー内ですらハンス以外の強敵が出ずに、ただひたすらアリアーデを嬲るような人間だ。
「物騒なお話ですねぇ。私は殿下を弑虐などいたしませんよ。本当です。さ、次は貴方達の番ですよ。強制的にお尋ねすることも出来ますが……」
言ったのだから早く言えと、言外に急かしてくる。
アリアーデを殺さないと信じるほかなかった。
なぜならば、この男にはどう足掻いても勝てないのだから。
恨むなら、ハンスの可聴域を低く見積もった二人ということ。
「この世界は――」
♢♢♢
待ち合わせの時間、間違えた?
それとも場所?
ラビットさんがドタキャンするわけないし、何かあったのかな?
でも今思えば、これって人生初デートじゃない?
……十四歳の子供じゃ、違うか。
いや、でも精神的には大人だし?
「お待たせしてしまい申し訳ありません……」
「うお、え、大丈夫?」
ラビットさんの服はところどころ破れていて、さっきまで激しい戦いをしていたのが一目でわかった。
「不敬虔者から少々足止めがありまして」
ふむ、色々あったんだね?
ここは私の魔法で綺麗にしてあげよう。
杖を取り出して、私が初めて覚えた魔法である浄化魔法をかけてあげた。
「ありがとうございます」
「もうコンサートは始まってますけど、ラビットさん的には聞きに行きます? それとも先に食事にしますか?」
ホールから音が漏れてきてるからこそ、長時間待てたってのもあるね。
「……では、食事で」
ラビットさんは少しそわそわしてる気がする。
やっぱ、何か重要な用事を抜け出してきてるとかかな?
「じゃあ、おすすめのお店に連れてって下さい!」
「わかりました。私について来てください」
ちなみに、私の今の服装はリーンが作ってくれた街娘風ファッションで結構気に入ってる。
やっぱ、夜の街と言えばならず者に絡まれるパターンがある気がするんだよね。
どんどん人気のない場所へと進んでいく。
隠れ家的なお店かな?
騎士団長にもなれば、たくさんお店知ってるだろうしなぁ。
街外れまで歩いて行き、ひっそりと静まり返った広場まで来た。
突如振り返ったラビットさんは、跪いて長細い箱を渡してくれた。
「姫君、こちらを受け取ってください」
「ん? これは剣?」
箱の中に入っていたのは私が扱いやすい長さの剣だった。
「それで私と戦ってください」
「あ、そういう……」
そういえばリーンが言ってたけど、ラビットさんの望みは死ぬことだっけ……。
というか、お腹空いたしご飯食べたかったのに。
「……」
ラビットさんは私の返事を待ってるみたい。
戦いたいなら不意打ちでもしてこれば良かったのに。
ここの世界の人は、断られるって思わないのかな……。
ま、断る理由もないけど。
「一時間以上待って、やっとご飯が食べられると思ったらこんなところで剣を渡されて。夜の市民街を満喫できると思ったら、何か求めてきて……」
みんな何かしら抱えて生きてるのはわかる。
私だって前世に戻りたいけど、戻れないんだし。
だけど、それを他人任せにするのは良くないと思う。
ラビットさんは優しいけど、自虐的すぎる。
「いいよ。ここなら邪魔も入らないし、望み通り殺してあげる。――その心をね!」
♢
ラビットさんの剣はとにかく早い。
だけど、それだけ。
魔法発動も感知されるけど、それはそれでやりようはある。
だいたいラビットさんの剣筋は理解できたし、この世界がゲームを元に出来ている時点で、ステータスやパラメータとか開発者の意図を読めば、どんな敵でも攻略できる。
ふん、私に手の内を見せた時点で詰みなんだよ?
ひたすらにラビットさんの剣の軌道を予測していなす。
受け止めるだけの力を魔法で補うより、いなしたほうが効率がいい。
するすると矢継ぎ早に剣をいなされて、ラビットさんは少し焦れてきたみたい。
さすがに私以外の人と激戦を繰り広げた後だけあって、いつもより技の精度が落ちてる。
「姫君、どういうおつもりですか?」
「剣舞を楽しんでるよ?」
一方、私はラビットさんからもらった剣を手に馴染ませていた。
なかなか使いやすい剣だね。
もうそろそろかな。
ラビットさんの動きに合わせて時に飛び跳ね、時に滑り、そしてラビットさんの剣をいなしたと同時に私は剣を手放した。
体を自然な動きでラビットさんに密着させて、手のひらに魔力を集中させる。
「バースト」
ラビットさんが剣を持っている方の肩に、破裂の魔法を当てて肩の骨を砕きつつ、背負い投げをした。
腕の腱をナイフで切って剣を握れないようにするのも忘れない。
「くっ……」
ラビットさんは一瞬、苦しそうに息を吐いてから、絞り出すように言った。
「……早く、殺してください」
私は横たわったラビットさんの体に座り、足を組む。
「あのさぁ。そもそも、死にたいなら口答えしないで」
ラビットさんは息を呑んだ。
「あと、それさ。わざとやってるでしょ?」
返事はない。
「死にたいなら、とっとと死ねばよかったのに。それをやらないってことは、神様に依存してる自分が気持ちいいだけだよ。他人のことなんて、全然考えてない」
優しい人は好きだけど、行き過ぎた献身は嫌い。
死にたがりなんて結局は構ってほしいだけ。
はぁ、なんで年上に説教しないといけないんだ。
「私はどうすれば……」
……自分のやりたい事を人に聞くのも嫌い。
「少しは自分で判断したら? そのせいで単調な剣捌きになってるのわかってるくせに。……私はこれからドワーフの国に行くけど、そこにラビットさんの仇がいるんじゃないの? 知らないけど」
魔昌石を持ってる魔物がいるのはドワーフ地下帝国のゴーレム。
ラビットさんのストーリーとか詳しく知らないけど、家族がドワーフにやられたなら、やり返せばいいだけなのにね。
「私もご同行してもよろしいですか?」
「こそっと行って帰ってくるだけだし、勝手にすれば?」
ま、ラビットさんが地下で騒ぎを起こしても知らぬ存ぜぬで通そ。
「あ、その怪我は皇宮に帰ってから治してもらって。……はぁ、ならず者がラビットさんなんてついてないなぁ」
私の夜ご飯、どうしよっかな……。




