4-1 死にたがりと正論パンチ
「ラビット隊長、ご依頼の物が届きましたよ」
「ご苦労様です。あなたに神のご加護があらんことを」
ラビットは部下から渡された包みを開けた。
アリアーデと3年間鍛錬を続けて、もう教える事はなくなっていた。
機は熟した。
まずは、邪魔が入らないようにアリアーデと2人きりになる必要がある。
「姫様、待っていてください」
ラビットがこの日の為にあつらえた服を着て隊長室を出る。
アリアーデと会う約束は市民街にあるコンサートホールでしている。鍛錬を無事終えた事の記念に、贈り物を用意したとも伝えてある。
廊下を歩き宿舎を出ると、目の前によく見知った男が現れた。
「おやおや、こんなところで奇遇ですね。お出掛けですか?」
「ハンス。貴方には関係ありません」
「殿下と戦うおつもりですか? それは困りますねぇ」
ラビットが行動に移すと予想していたように待ち伏せされていた。
「そこを通してください」
「嫌だ、と言ったら?」
この男はいつも邪魔をしてくる。
自身に罰を与えてくれない人間には興味はない。
無言で剣を抜き放つと、ハンスも杖を構えた。
一太刀目は相手の首を狙った。
だが、そこにハンスはおらず空を切っていた。
「ハンス。新しい魔法を覚えましたか」
「無駄な事はしない方がいいと思いますよ?」
「無駄かどうかはまだわかりません」
ハンスが使っているのは瞬間移動。
このような魔法は多用できないはず。
畳み掛けて消耗を誘えば、勝機は見えてくる。
♢
「レイさん、何が起こっているかさっぱりわかりません」
リーンは、目の前の戦いを認知できずにいた。
それもそのはず、神速のラビットと最強のハンスが戦っているのだから、常人の目には影すら見えない。
「やはりハンス様が勝ちそうですね」
2人は今日ラビットがアリアーデに挑むことを確信していたので、アリアーデが皇宮を出てからラビットをずっと見張っていた。
今頃アリアーデはコンサートホールで待ちぼうけを食らっているに違いない。
「でも、ハンスが出てくるとは思いませんでしたね」
「ハンス様の性格を考えれば妥当でしょう」
レイはリーンから聞かされていたストーリーを聞いて、攻略対象者はもう正式なストーリーから外れていると考えていた。
むしろ、今重要なのは個々人のストーリーに出てくる強敵達であった。
「ラビット様のストーリーに出てくるのは、ドワーフの超電磁砲……でも、まだゲーム開始まで4年もあるので、まだ開発されてない可能性もあるとおもうんですが」
「ですが、ラビット様が動いている以上、我々は誘導しなければなりません」
アリアーデを強敵と戦わせる。
それはラビット然り、各ストーリーに出てくる強敵にも言えること。
いかに自然に遭遇させて、かつアリアーデに満足してもらえる結果にするか。
それこそが2人の計画であった。
「面白い話をしていますね?」
「「!?」」
リーンはハンスのことを怖がっているため、言葉も出ないようだった。
「ハンス様、戦いは……」
ラビットとハンスが戦っていた方を見ると、まだ"2人とも"戦っていた。
「分身……ですか」
「ええ。ラビット君の剣はつまらないですからね。こちらの方が面白そうなお話でしたので」
「……」
「おや、教えて下さる気はないと?」
「レイさん……」
リーンはレイに決断を委ねた。
「わかりました、説明致します。ですが、一つ聞いておきたい事があります。ハンス様は、姫様を弑虐なさるおつもりですか?」
一番行動が読めないのがハンスという男だった。
ハンスルートのストーリー内ですらハンス以外の強敵が出ずに、ただひたすらアリアーデを嬲るような人間だ。
「物騒なお話ですねぇ。私は殿下を弑虐など致しませんよ。本当です。さ、次は貴方達の番ですよ。強制的にお尋ねすることも出来ますが……」
言ったのだから早く言えと、言外に急かしてくる。
アリアーデを殺さないと信じるほかなかった。
なぜならば、この男にはどう足掻いても勝てないのだから。
恨むなら、ハンスの可聴域を低く見積もった2人と言うこと。
「この世界は――」
♢
待ち合わせの時間間違えた?
それとも場所?
ラビットさんがドタキャンするわけないし、何かあったのかな?
でも今思えば、これって人生初デートじゃない?
……12歳の子供と行く時点で遠足か。
いや、でも精神的には大人だし?
いやいや、見た目的には引率の若い先生と小学生くらい違うし……。
「お待たせしてしまい申し訳ありません……」
「うお、え、大丈夫?」
ラビットさんの服がところどころ破けて激戦を物語ってる。
「不敬虔者から少々足止めがありまして」
ふむ、色々あったんだね?
ここは私の魔法で綺麗にしてあげよう。
杖を取り出して、私が初めて覚えた魔法である浄化魔法をかけてあげた。
「ありがとうございます」
「もうコンサートは始まってますけど、ラビットさん的には聞きに行きます? それとも先に食事にしますか?」
ホールから音が漏れてきてるからこそ、長時間待てたってのもあるね。
「……では、食事で」
ラビットさんは少しそわそわしてる気がする。
やっぱ、何か重要な用事を抜け出してきてるとかかな?
「じゃあ、おすすめのお店に連れてって下さい!」
「わかりました。私について来てください」
初めての市民街で、レイも護衛もいないなんてすっごい解放感あるなぁ。
ちなみに、私の今の服装はリーンが作ってくれた街娘風ファッションで結構気に入ってる。
やっぱ、街と言えばならず者に絡まれるパターンがある気がするんだよね。
どんどん人気のない場所へと進んでいく。
隠れ家的なお店かな?
騎士隊長にもなればたくさんお店知ってるだろうしなぁ。
街外れまで歩いて行き、ひっそりと静まり返った広場まで来た。
突如振り返ったラビットさんは、跪いて長細い箱を渡してくれた。
「姫様、こちらを受け取ってください」
「ん? これは剣?」
箱の中に入っていたのは私が扱いやすい長さの剣だった。
「それで私と戦ってください」
「あ、そういう……」
そういえばリーンが言ってたけど、ラビットさんの望みは死ぬことだっけ……。
と言うかお腹空いたしご飯食べたかったのに。
「……」
ラビットさんは私の返事を待ってるみたい。
戦いたいなら不意打ちでもしてこれば良かったのに。
ここの世界の人は断られるって思わないのかな……。
ま、断る理由もないけど。
「1時間以上待って、やっとご飯が食べれると思ったらこんなところで剣渡されて、初めての市民街を満喫できると思ったらみんな私に何か求めてて……」
みんな何かしら抱えて生きてるのはわかる。
私だって前世ではずっと焦ってた。
だけど、それを他人任せにするのは良くないと思う。
ラビットさんは優しいけど、自虐的すぎる。
「いいよ。ここなら邪魔も入らないし、望み通り殺してあげる。……その心をね!」
♢
ラビットさんの剣はとにかく早い。
だけど、それだけ。
魔法発動も感知されるけど、それはそれでやりようはある。
1年でだいたいラビットさんの剣筋は理解できたし、この世界がゲームを元に出来ている時点で、ステータスやパラメータとか開発者の意図を読めば簡単にどんな敵でも攻略できる。
ふん、私に手の内を見せた時点で詰みなんだよ?
ひたすらにラビットさんの剣の軌道を予測していなす。
受け止めるだけの力を魔法で補うより、いなしたほうが効率がいい。
するすると矢継ぎ早に剣をいなされて、ラビットさんは少し焦れてきたみたい。
さすがに私以外の人と激戦を繰り広げた後だけあって、いつもより技の精度が落ちてる。
「姫様、どういうおつもりですか?」
「剣舞を楽しんでるよ?」
一方私はラビットさんからもらった剣を手に馴染ませていた。
なかなか使いやすい剣だね。
もうそろそろかな。
ラビットさんの動きに合わせて時に飛び跳ね、時に滑り、そしてラビットさんの剣をいなしたと同時に私は剣を手放した。
体を自然な動きでラビットさんに密着させて、手のひらに魔力を集中させる。
「バースト」
ラビットさんが剣を持っている方の肩に破裂の魔法を当てて肩の骨を砕きつつ、空中背負い投げをした。
腕の腱をナイフで切って剣を握れないようにするのも忘れない。
「くっ……早く殺してください」
私は横たわったラビットさんの体に座り、足を組む。
「あのさぁ。そもそも、私がラビットさんの神様なんでしょ? 口答えしないで。あとそれさ、わざとやってるでしょ? 死にたいならとっとと死ねばよかったのに、それをやらないってことは神様に依存してるのが気持ちいいだけで死んだ人の事なんて全く考えてない」
優しい人は好きだけど、行き過ぎた献身は嫌い。
死にたがりなんて結局は構ってほしいだけ。
はぁ、昔の優しいだけのラビットさんに戻ってよ……。
「私はどうすれば……」
……自分のやりたい事を人に聞くのも嫌い。
「少しは自分で判断したら? そのせいで単調な剣捌きになってるのわかってるくせに。……私はこれからドワーフの国に行くけど、そこにラビットさんの仇がいるんじゃないの? 知らないけど」
魔昌石を持ってる魔物がいるのはドワーフ地下帝国のゴーレム。
ラビットさんのストーリーとか詳しく知らないけど、ドワーフにやられたならやり返せばいいだけなのにね。
「私もご同行してもよろしいですか?」
「こそっと行って帰ってくるだけだし、勝手にすれば?」
ま、ラビットさんが地下で騒ぎを起こしても知らぬ存ぜぬで通そ。
「あ、その怪我は皇宮に帰ってから治してもらって。……はぁ、ならず者がラビットさんなんてついてないなぁ」
私の夜ご飯どうしよかな……。




