間話 レイルート
自室に1人佇むレイの手元には、"レイルート"と書かれた紙が握られていた。
転生者であるリーンに書かせたその紙には、レイに関するイベントや、能力値、そしてエンディングが書かれている。
乙女ゲームと呼ばれる世界の中のレイには3つのエンディングが用意されており、心中するバッドエンド、駆け落ちするメリバエンド、伯爵家当主となりアリアーデと婚約するハッピーエンドがある。
どれも非現実的であり、とてもじゃないが真似できない。
「ゲームの中の私は、なぜ壊れているのでしょうか?」
バッドエンドに分岐するためには、アリアーデがレイを拒み続け、最終的に自立しようとするとバッドエンドになると書かれている。
――なぜゲームの私は主人を殺したのか。
メリバエンドに分岐するためには、アリアーデがレイを受け入れ、伯爵家に行かずに皇位継承権を放棄するとメリバエンドになると書かれている。
――なぜゲームの私は主人を困らせたのか。
ハッピーエンドに分岐するためには、アリアーデがレイを受け入れ、伯爵家の問題を解決して、執事を辞めさせるとハッピーエンドになると書かれている。
――なぜゲームの私は主人の執事を辞めたのか。
――なぜ私は主人を愛しているのか。
「姫様に愛されると、壊れてしまうのでしょうか?」
それともすでに、私は壊れていたのでしょうか?
主人に仕える上で、恋愛感情など持ってはいけない。
そんな当たり前な事もわからないようでは、壊れていてもおかしくない。
手に持っていた紙を乱雑に机に投げ、椅子に座る。
もう何度も見直した他の攻略対象者の紙を手に取り、とある一文に注目する。
「彼にとって愛とは破壊であり、彼に愛されれば主人公は壊れてしまう。だからこその隠しキャラで――」
バッドエンドしかない。
思い浮かぶのは、ウルヴァ討伐の際にハンスに連れて行かれた主人の事だ。
あの時の喪失感と得体の知れない感情が、再び蘇る。
気持ちが悪い。
吐き気がする。
主人がこの手の中から奪われ、もう二度と戻らないとしたら。
気持ちが悪い。
主人を取り巻く全てを殺し尽くして、安堵を得たい。
ああ、そうか。
本当の気持ちは。
今まで逃げていた、本当の気持ちが心の中を埋め尽くしていく。
「この感情は姫様のためにはなりません……」
今はまだ。
幼い主人には重すぎる感情だ。
例え中身が成熟しているとしても、主人の、彼女の負担になるわけにはいかない。
だから今は。
「私が壊れるその日まで、私は姫様のために――」
全てを捧げよう。




