3-7 転生者のお茶会
レイがある日、リーンをメイド服姿で連れてきた。
リーンはぺこりとお辞儀した。
「え! 私の侍女になったの?」
採用試験とかいつしてたんだろ?
……怪しい。
まぁいっか。館の運用はレイに全面委託だしね。
「えっと……はい。運良く雇ってもらえました……」
リーンは乾いた笑みを浮かべている。
チラチラとレイを見るので、レイを下がらせた。
「レイ、ちょっと二人でお話したいから出てって」
「かしこまりました」
レイはお辞儀して退出していく。
そんなレイを見て、リーンは口をぱくぱくさせながら驚いた。
「……あそこまでレイを手懐けることができるんですね」
いや、レイをなんだと思ってるんだ……。
可愛いワンコにしか見えないんだけど。
「まぁ座って。そもそも、乙女ゲームなのに死にゲーってどういうことなの?」
リーンはソファに腰掛けて、話し始めた。
「ええと、この世界は基本的にヤンデレしかいない乙女ゲームなんですが……。今いる魔王ルートは、好感度が上がった攻略対象者は最後の時……つまり魔王討伐の際に全員敵に回ります」
え、敵になるの? 仲間じゃなくて?
「……裏切られるとか?」
「ええと、そうではなくて……。簡単に言うと、アリア様が魔王に取られると思ったキャラ達は、アリア様を殺して自分も死ぬつもりなんです」
「……わ、わけがわからないよ」
ゲームの中の私は弱いのかな……?
別に裏切りがないなら、問題なくない?
「みんなアリア様を一人占めしたいんですよ!」
「そんな子供みたいな……」
それならそう言えばいいのに。
……どうすれば一人の人間を一人占めできるんだ?
「そんなキャラが魅力なゲームでしたから……。そんなことより、問題は魔王ルートに入ってるってことなんですよ! 本当ならレベル上げなんてしなければ、魔王はやってこないんです!」
もしかして隠しルートってやつ?
「えーっと……。魔王ルートって最終的にどうなるの?」
「魔王ルートはエンディング後周回前提のルートなんですが、戦闘好きな人用に難易度が上がってます。好感度やレベルを上げた分だけキャラが強くなりますし、最後は連戦になりますから、各キャラを倒した後セーブしないと途中絶対死にます」
連戦かぁ。
どれだけ消耗を抑えるかが重要だね。
「うんうん。楽しそうなゲームだね」
「いやいや! 何言ってるんですか! 私なんて戦闘が苦手だから、何回もリトライして進めたんですから」
リーンが青ざめたり怒ったり変化が面白い。
「要は死ななければいいんでしょ。で、誰が相手なの? 心当たりしかないけど、一応」
そう尋ねたら、リーンは思い出したかのように立ち上がった。
「温室に行けば、キャラの進行度がわかります!」
フラグ管理表みたいなのがあるのかな……?
「じゃあ、そこでお茶会でもしよっか!」
私とリーンは、お茶の用意を持って、そのまま温室へと向かった。
皇宮の温室にある紫陽花は、常に花が咲いているように温度調整されている。
花は興味なかったから、今まで訪れてなかったけど……。
「何この色……」
「ひっ!? やっぱり、全員フラグ立ってますよ!」
リーンがドン引きしている。
「金、青、緑、紫、混色……」
紫陽花、カラフルだねぇ。
五色ってことは五人?
「アリア様……」
リーンが信じられないものを見る様な目で見てきた。
そんなリーンをガーデンチェアに座らせて、私がポットから紅茶を入れてあげる。
「物語のスタートは十六歳ですよ? 二年間で色々イベントをやるのに……」
「そ、そうなんだ……」
私も座ってカップに口をつけた。
うん、紅茶おいしい。
「それで、この紫陽花の配色と攻略キャラは関係があるの?」
青とか紫はわかるけど、金色って紫陽花としてどうなんだ……。
まあ、なんとなく瞳の色で思いつく人物はいるけど。
「はい……。この温室に来れば誰の攻略フラグが立っているかわかるのですが、まさか全員とは……」
ふむふむ。
バトルがあるなら先に誰と戦うか聞いた方がいいかな?
なんの技があるか聞ければ有利に立てるし……。
でも詳しいネタバレはやだな。
「なんでそんなに嬉しそうなんですかっ!?」
だって、この世界がゲームだったら、私はプレイヤーとして遊べばいいだけだし。
それに乙女ゲームっていうより、今までの話を聞くに、ただの戦闘ゲームだし。
「いや、五種類の花色があるってことは五人と戦えるってことだから、五回楽しめるって思って……」
リーンは私を不思議生物でも見るような目でみてきた。
「こ、このままラストまで行けば……確実に殺されるんですからね!」
「はいはい。で、誰なの?」
「攻略対象者は登場順にレイ、ルヴィア、最推しのラビット様、ドミニク、隠しキャラのハンスで五人です」
やっぱりか。
「まぁ、この五人ならなんとかなるでしょ」
軽く言うと、リーンが絶句した。
「いやいやいや! レイは調教してくるし、ルヴィアは洗脳してくるし、ドミニクは魔具で監禁してくるし、ハンスは戦闘狂で殺されますし、最推しのラビット様は癒しですけど、死にたがりなんですからね!?」
聞くとすごい凶悪な感じするけど……。
レイは完璧執事ってだけだし、ドミニクは私のこと興味ないし、ルヴィアはただのクソガキだし、ラビットさんはいい人だし、ハンスは私が倒すし。
「だって、ゲーム通りにいくとは限らないでしょ?」
「そうですけど……」
むしろ本気のみんなとやり合えるなら、なかなか楽しみなんだけど。
え、どうしよう。
魔王ルート最高では?
「じゃあ、戦闘システム、それからゲーム上の魔法の種類と魔力消費量、あと威力を教えてほしいな!」
「ふ、ふえぇ……」
リーンが心配を通り越して思考停止しているが、ゲーム内イベントの情報より戦闘知識の方がほしい。
「もう……わかりましたよ! えっと、魔法は――」
紙とペンを魔法で出して、リーンから語られるゲーム情報をメモしていく。
一通り聞き終わったので、今後の方針を話し合う。
「リーンはここで何したいの?」
できたら一緒にゲームしてほしいな……。
せっかくの日本人なんだから、私の作ったゲームにパロディ要素があることとか気付いてもらえるかもしれないし、感想欲しいし……。
「ええと、できれば……アリア様のお洋服を作りたいです」
もじもじしながらリーンが教えてくれた。
リーンがおもむろに両手を前に出すと、魔法の糸と布が出現した。
それを針で縫うと、糸が消えて布と布がくっついた。
「おぉ、すごい! リーンって魔力多いんだね」
「一般市民よりも少し多いぐらいですけどね。私も小さい頃に魔法を使っていたので……」
やっぱり幼い頃に魔法を使ってれば魔力量上がりやすいんだね。
「それでも、一着作るのが限界ですけど」
するすると、手際良く一着仕立ててくれた。
「この世界だと、イメージ通りの服がすごく作りやすいんです! 見てください! これはゲーム内に出てきたアリア様の衣装なんですよ」
興奮気味に私に押し付けてきた。
たしかに、私の灰色の髪と赤い瞳によく似合いそう。
ぱちん。
指を鳴らして目の前の服に着替えてみた。
「え……魔法でそんな事できるんですか……?」
「ゲームの創造魔法はストーリー上の便利魔法扱いだったって言ってたけど、魔力さえあれば悪用できちゃうよね」
布を出す魔力量と既製服を出す魔力量だと、前者の方が必要な魔力量は少ない。
イメージの複雑さが消費魔力を決めるからね。
「服を作る意味が……」
リーンはしょんぼりしているが、意味がないことはない。
「私、デザインできないからコピーするだけだよ? むしろ、服のレパートリーが増えて嬉しいから」
「そ、そうなんですか? よかったぁ」
へにゃりと笑ったリーンはちょっと可愛いかもしれない。




