12-1 覚悟を決めろ
おかしい。
どうしてこうなった?
「アリアーデ君?」
「どうしたの? ハンス先生」
「なぜ手を繋いだままなのですか……?」
寝室から私室に出てきたものの、彼女は手を離してくれなかった。
「手が冷たいから。あと、繋いでたらこの気持ちの理解が深まる気がする」
真っ直ぐにそう言われた。
なぜそうも、無防備に言えるのか……。
「あ、ご飯も食べさせてあげよっか?」
は?
『彼女は君を介抱しようとしている。実に美しい』
うるさいですね。
私の領域に立ち入ることを許してはいませんよ。
失せなさい、この変態が。
頭の中に住み着いた住人は、油断をするとすぐに喋り出す。
「いえ……むしろ、私が食べさせて差し上げましょうか?」
つい、いつものようにからかおうとして、失言だったと気付いた。
今の彼女はこれを冗談だと処理しない。
「いいよ?」
……最悪だ。
『君は本当に面白い』
この状況で、自身を律しながら彼女の対応をする……?
ああ、やはり監禁した上で催眠をかけ、数日で記憶を戻した方が良かったのでは……。
乾いた笑いが出てくる。
分身を即座にレイの元へと向かわせる。
「……冗談なので、忘れてください」
「先生、冗談言うんだね……」
机の上にはサンドイッチが置いてあった。
私に食欲はないが、彼女には何か食べさせないといけないだろう。
分身の様子は……。
♢
分身がレイの元に到着した。
レイは厨房でフルーツを切り分けていた。
「レイ。リアがおかしいのですが……心当たりはありますか?」
「……もちろんです。ハンス様のことがお好きなのでしょう」
……それはわかっている。
むしろ、記憶がなくなったせいで、直接言いにきているくらいなのだから。
「あなたが一番リアに詳しいでしょう。あの状態を、どう解釈すればいいのですか」
リアの記憶がある私ですら、わからない。
「姫様は……リーン風に言うなら、ハンス様を攻略されているのだと思います。恋愛というよりも、もっと根本的な……未知を探求されているだけです」
私を使って、探求ですか……。
この期に及んで、そうきましたか。
「今ハンス様が困っていらっしゃるのは、姫様が原因ではないでしょう」
私の内的要因、とでも言いたいのでしょうね。
「……なるほど。私が死んだらリアを頼みますね」
そう言い残してパチンと指を鳴らす。
深域入り口の島に停泊中の海賊船へと転移した。
ここへは夜に一度、指示を出しに分身を向かわせている。
手すりに腕を乗せて、ため息をつく。
やはり、自力では限界がありますね。
「あれ、思ったより早かったね」
甲板に座り、板状の端末を触りながら、門の解析と深域調査をしているドミニクに話しかけられた。
「……リーンはいますか?」
「リーン? ねぇリーン! ハンスが呼んでるよ!」
リーンが上甲板から急いで降りてきた。
「どうしましたか? アリア様の記憶は戻られたんですか?」
「……リアの記憶は、学院の冬季休暇の間にどうにかします。あなたにも来ていただき……いや、あの状態のリアに会わせるわけには……」
リーンがいれば、リアも少しは大人しくなるかと思ったが、そんなわけがない。
むしろ、ややこしくなるに違いない。
「アリア様がどんな状態だって言うんですか!?」
顔を真っ青にしてリーンは聞いてきた。
「大したことではありません。彼女が私の手を離そうとせず、今も……食べさせようとしてきています」
「ぶっ、あははは! 何それ、ちょっ、お腹痛い!」
ドミニクが大笑いしている。
リーンは……顔に手を当てて震えている。
「ど、どうしてそうなってるんですか……」
「レイに言わせれば、未知への探求だそうですが……。彼女に記憶を返すタイミングを見失いました」
「ルヴィ! こっち来なよ!」
ドミニクが、島内で捕虜を拘束しているルヴィアを呼び寄せた。
彼らは二人でコソコソと笑い合っている。
落ち着いたリーンが、こちらに指を差しながら言う。
「ハンス様、いいですか? 恋愛ゲーム攻略の鍵は、イベントですよ! アリア様を攻略するなら、受け身ではいけません!」
なぜ、恋愛ゲームの話をしているのか……。
「しかも、好感度が高い状態なら、なおさらですよ!」
心なしかリーンは嬉しそうだった。
「ねぇ、ハンス。そのままだとアリアに負けるよ? 恋愛耐性ないわけじゃないんだから、攻めなよ」
ドミニクは甲板に座ったまま、呆れたように肩をすくめた。
「俺だったら、今のアリアにして欲しいこと全部してもらうけどなー」
ルヴィアは頭の後ろで手を組みながら、気楽な調子で言ってきた。
皆さん好き勝手言ってくれますね。
……そんな軽い話ではないでしょう。
彼女を抱きしめ、顔を埋め、甘え、ずるずると堕ちていく。
私の記憶の中の彼女は、それすらきっと肯定してくれる。
だが、何も知らない彼女の好意を、利用するわけにはいかない。
……つまりは。
「……私が、教えるしかないですね」
この甘い地獄を私が耐えられれば、の話ですが。
まだ海図を集めていた時の方が楽かもしれません。
「僕たちの力が必要なら言ってよ。面白そ……いや、ハンスだけじゃ解決できないこともあるでしょ?」
「そうですよ! 私も今のアリア様を見た……いえ、力になりますから!」
思わず目を細めてしまった。
……彼らに頼ってしまっては終わりだろう。
大変お待たせいたしました!
今日から毎日投稿再開します!
(ストックは少ないので、毎日できるか心配ですが頑張ります!)
改稿範囲は1-1〜1-7、2-7〜4-0です。
基本的にはお話の順番を入れ替えて、主軸(ハンスを倒す)に向かっていけるように、調整した感じになります。
キャラの性格を鑑みた結果、ハンスの家庭教師本格化の位置は変わってません。




