番外編-9
悲鳴が聞こえた方向を見ると、何やら黒い物が沢山湧いてきている。
どうやらそこそこ大きい生物の集団らしい。
そう認識してからすぐに俺は、それが何かが分かった。
黒い蝙蝠の羽が生えた茶色いリスの魔物だ。
そしてそうして分かったかというと、それが俺の目の前に飛んできて地面に落ちて焼失したからである。
どうやら悲鳴の聞こえた場所から飛んできたらしい。
目を凝らしてみると、悲鳴を上げている女性が彼女の細うでにより、次々と現れた魔物を吹き飛ばしているようだ。
しかも周りにいる花見客も、そんな女性よりも一発一発蹴りやパンチな、魔法を使い倒している。
その多くもお酒に酔って、それこそ遊びの様に次々と倒している。
はっきり言おう。
魔物は危険である。
魔法を使うし鋭いきばを持っていたりもするし知能があったり動きも俊敏だったり……普通の人間はそう簡単に倒せない恐ろしい敵で、俺の膝よりも低いとはいえ集団での攻撃……。
「あはははは」
「きゃああああああ」
「ぐわははははは」
三者三様の雄たけびの様な、悲鳴の様な声。
だが少なくともけが人は一人も出ていない。
俺は自分の常識と照らし合わせて、この現実が果たして夢なのかどうかについて冷静に考えてみたが……やはり現実らしいと俺は結論付けた。
そんな、一般人が魔物をゲームの様に倒していく様子を傍観しながら俺は、
「すごいね、この町の人」
「うん、大体、みんなこんな感じだからね」
メイベルの楽しそうな声に更に俺は意識が遠のきそうになりながらも、
「そうか、それがこの町の常識……常識……」
俺が一人真剣にぶつぶつ呟いているとそんな俺にクロが、
「カナタ君はここに来て日が浅いから驚きますよね」
「そういえばクロさんはどうでしたか」
きっと同じように驚いたというか唖然としただろうなと俺が思っているとそこで、
「……感動しました」
「……は?」
「だってそうでしょう? ここに住んでいる人達は、ただ普通に暮らしている“だけ”の普通の人です。なのに魔物になんかやられるわけがなく全く怪我もせず全てをなぎ倒す……そう信じられますし現にそういった状況なのです」
「は、はあ……」
「そんな圧倒的力を人が持っているのなら……僕の手助けも力も、なにも必要がない。あんな思いをせずに済むんです」
「……そうですね」
「そうです。僕の力なんて必要ない。だからここはとてもいて心地よい」
そう笑うクロを見て俺は、そうか、クロの力が必要ないのかと思った。
だがすぐにそれならそれ以上強くなる必要はないんじゃないかと気付いた。
なのに、以前国でい落ちばん強い魔力を持つという俺に挑もうとしていたらしいのを思い出し、聞いてみたのだが。
「強くなりないと思うのは趣味です」
何を当り前の事を、とでもいうかのように言われてしまった。
それは何か違うと思ったけれどそれ以上は俺は何も言えなくなった。
だってメイベルが俺の手を握り、
「カナタも魔物を倒しに行こう!」
「え、ちょっ、メイベル!」
「どっちが沢山倒せるか競争だよ!」
「いや、え、ええ!」
そんな俺の後ろでフィリアがクロに、
「どうする? 私達も遊びに行く?」
「いえ、今日は弟子たちが遊んでいるのを見学しましょう」
「そう? じゃあ私もそうしましょう。……貴方はどうするの、エリト」
そこで先ほどから様子を見ていたエリトは、
「僕には戦闘能力はほとんどありませんので、ここで様子見でしょうか」
フィリアにエリトが楽しそうにそう答える。
ちなみにその時俺は、そんな話を一言も聞いていなかったのだった。
大量に現れた魔物は、結局すべて退治されてしまった。
「うーん、久しぶりに沢山戦った気がする」
「お、俺もだ。あんなにたくさん現れるなんて」
「そういえばカナタは何匹くらい倒した?」
「134匹かな」
「236匹私は倒したよ」
「メイベルの勝利だな、はあ、なまっているな……」
「もっとカナタは強力な魔法を使えば良かったのに」
「周りに人が多すぎて使えなかったんだ」
そう俺は言い返した。
大きな魔法を使いたくても意気揚々といろんな人たちが魔物を倒しにそこかしこで蠢いているのである。
そんな中で強力な魔法は使えない。
なので小回りがきき、道具を使う準備のいらないメイベルの様な人達の方がよほど効率よく魔物を倒せている状況だった。
やはり俺も体力を付けてそうやって魔物を一掃出来るようになるべきかと真剣に考える。そう、
「やっぱりムキムキに……」
「ちょ、待ってカナタ、ムキムキにならなくていいから!」
メイベルが焦ったように俺に言ってくる。
筋肉は素晴らしい気がするんだよなと俺が思っているとそこで、先ほどの場所からクロにおろしてもらったらしいエリトがやってきて、
「相変わらずの魔法の腕だね」
「まあな。これ位しか取りえは無いし」
「そういうわけではないと思うが……とりあえずは、元気そうで何よりだし、この話は他の人達やカナタの両親にも伝えておく」
「よろしく」
「では、もう帰るよ。随分長いもしてしまった。次は普通に遊びに来れるといいと思う」
「待ってる」
そう伝えるとエリトは去っていった。
突然やってきて何が起こるのかと思ったが案外普通に、こちらの状況を調べただけのようだった。
それは良かったと思う。と、メイベルが、
「結局、エリトさんはカナタが心配だったみたいだね」
「そう、なのかな」
「そうだよ。仲がいいお友達だったんだね」
「……そうだな」
色々と迷惑をかけられた過去の思い出がよぎり、一瞬頷けなくなりそうに俺はなる。
けれど何だかんだ言って特に何もなく帰っていったのを見ると、心配はしてくれていたのだろう。
そう思うと少しだけ俺は嬉しくなったりしたが。
「その内俺の故郷にもメイベルを案内したいな」
「ぜひそうしてほしいな」
そう笑うメイベルの顔を見ながら俺は、こんな日が続いていけばいいなと思ったのだった。




