番外編-5
さて、クロの転移魔法を使って岩場の頂上にまで俺はやってきた。
そこには一面、青い花が咲いている。
心なしか花が大きい物が多いように感じる。
その中に一つ、薄くピンク色に色づいて咲いている。
珍しいし、まさかここで見れるとは思わなかったので後でメイベルにも教えようと俺は決める。と、
「カナタ君、エリト君、手伝ってもらえないかな」
「あ、はい。……エリトも手伝ってくれ」
俺がエリトに声をかけるとわかったと頷く。
以外に素直だと俺は思った。
そして、ベージュ色の布を地面に引く。
一部は花の上になってしまうが、この花はとても生命力が強いのでちょっとやそっとでは傷がつかない。
なので先程の花畑で花見をしていた人達も花畑の上に布を敷いて楽しんでいたのだ。
そんなわけで布を引き、その上にクロが作った飲み物や食べ物を並べていく。
ニコニコとそれを並べているクロ。
とてもではないが、お伽噺に出てくるクロフィールドという魔王とも呼ばれた魔法使いには見えない。
しかも年齢的にも。
そう思いつつ、先ほどの転移魔法について俺は考える。
瞬時にここまで来る魔法など、禁忌とも言えるものだ。
その巨大な力は魔王と言われて遜色ない。
けれど師匠と仰ぐには俺はこれからこの人を超えないといけないのだと思う。
とりあえず転移の魔法は時空間系の魔法だろう。
多分コピー転送ではない……と思いたい。
さて、怖いことを考えてしまいそうな俺はすぐにその考えを打ち消して、
「それで後はどうしましょうか。一通り準備は整いましたが」
「すぐにフィリア達が来るからそれまではのんびりと周りの景色でも見ていましょう。カナタ君にエリト君、お手伝いありがとうございます」
「いえ、早くメイベル達は来ないかな……」
「僕も早くフィリアに会いたいですね」
珍しく惚気けたクロ。
少し驚いてしまった俺だ。
やはりクロ自身はフィリアが大好きなようだ。
そこでエリトがクロに向かって、
「なるほど、フィリアという女性を魔王クロが好きという話は本当だったのですね」
エリトの言葉に俺は固まった。
どうしてクロが魔王だと知られているのだろうか?
俺は話していないぞと思っているとそこでエリトが、
「その昔我が国に甚大な被害を与えたこともあり、ずっと追跡を行っていたのです。それを今も」
「……なるほど、もしやそれでフィリアの事もメイベルの事も、そして奏多くんのことも事前に知っていたと」
「はい、カナタの部屋がどこなのかも分かっておりましたので事前に手紙を送りましたね」
どうやらそれで、俺の部屋が気づかれたようだ。
そしてそこに郵便で手紙……。
「もう少し心の準備をする時間が欲しかったよ」
エリトが来ることを事前にもう少し皆に話せたはずなのだ。
それにエリトは苦笑して、
「だから前日に届くようにしただろう?」
「毎日来ているわけじゃないからな」
俺が嘆息するとエリトが更に、
「でもまさか魔王に弟子入りしたりこの国の姫との婚約を決めるとは思わなかった」
「気に入ったんだからいいだろう?」
「予定では気に入らせない予定だったんだけれどな……」
そう話しているとそこでクロが、
「それで、僕が魔王だと告げたからには何か言いたいことがあるのでは?」
「ええ、しかもその魔王がこの国の貴族の女性に心を奪われているのは、その力がこの国に保有されていることになる、そう考えてしまうのです」
「ただ単に好ましいと思っているだけで恋愛感情で好きかは別かな?」
「そのフィリアという女性を気に入っているのなら、カナタの代わりに我々の国に連れて来れないかという話にもなっているのです」
突然そんな話になり、俺は、え? と思ってしまう。
とりあえず今の話は、この魔王クロの力が危険だからクロが好きなフィリアを連れて行こうかという話になっているらしい。
それで代わりにカナタをこちらにおいてもいいと。
その話を聞きながら何だと俺は思ってしまう。
俺が必要だと言いながら俺を出しにするだけんバのだと。
それはそれで不愉快だけれど、クロがそんな存在だとは王子であったのに俺は知らなかった。
本当に俺はそんな扱いだなと俺が思っているとそこでエリトが、
「なので、フィリアという方をうちの国に連れて行かれたくなければ、このカナタをt5売れて帰るお手伝いをお願い致します」
「おい、エリト。どうしてそんな話になったんだ?」
「ん? なにがだい?」
何故か俺を連れ戻すお手伝いをクロにお願いするのを聞いて俺は話がおかしいと思う。
だって先ほどまでしていた話は、クロの力は巨大な力なので好きな女性を捕まえておきたいといった話であったはずだった。
なのにエリトはそうされたくなければ、俺を連れ戻す手伝いをしろとクロにいっている。
わけがわからないのでエリトに俺が、
「クロの力が恐ろしいから捕まえておきたいという話だよな?」
「? ああ、そうか、カナタは魔王クロ関係を知らないのか。僕の母方の血筋の話だからね。僕の母方に、聖女の妹がいたから」
「そうなのか? というか、それでお前の目的は?」
「もちろん、カナタを国に連れ帰ることだよ。魔王クロはここずっと静かだし、それでも危険には代わりはない。フィリアのお願いでどうなるかわからない状況は危険ではあるけれど、それは潜在的な危険だ。今はそれ以上に、不安要素であるカナタを連れ帰るのが僕としては優先かな」
「不安要素って」
なんだよそれと俺が言い返そうとすると、エリトが小さく呻いた。
「全く、何も気づいていないんだな」
「だから何が」
「カナタの魔法の能力はとても秀でていた。それは分かっているな」
「それはまあ」
「その力が禁忌に近いというのは、気づいていたか?」
「禁忌には触れていないだろう?」
「触れてはいないが、使えるのだろう?」
「それはまあ……」
エリトがそこで深々と嘆息した。
「カナタ、その力を使えるような危険な魔法使いで、それを他国にとられるのもどうかという話になっている、それがこの話の本質だよ」
そう俺は、エリトに言われたのだった。




