番外編-4
俺達はピクニックに来ていた。
辺りには満開の花が広がっている。
この花の名前は“レテ花”というらしい。
花弁の先が深い青色した小さな花である。
独特の甘い香りで、赤い果実のような香りである。
この花を集めて香水を作る人達もいるらしい。
生命力の強い草で、一度かってもすぐに生えてくるのだそうだ。
そして、魔法薬の材料になるそうで、後でクロが幾らかお持ち帰りをしたいらしい。
さて、そんな中に突然変異の花があって、それは青ではなく薄いピンク色をしているらしい。
なんでもその花は昔、“聖女”が愛した花だそうだ。
その聖女の伝説には魔王が関係していて、その魔王といえば、現在ニコニコと嬉しそうにフィリアの側で籠を持って歩いている。
そう思いながら俺は、そういえば世界を破壊しようとした魔王の力を“封じた”のが聖女だって話だったような気がした。
でも俺はあの師匠になってくれたクロが、力を封じられているようには見えないのだよなと思う。
凶悪な力がまだあるきはするのだがそこで、メイベルが俺の顔を覗き込んで、
「カナタ、どうしたの? なにか悩んでいるみたいだったけれど」
「あ、いや……この花畑と言うか花にまつわる話を思い出していて」
「伝説? ああ、あれね。うんうん、でもクロさんが寂しそうに笑うから話しては駄目だよ?」
「うん、分かった」
メイベルに言われて俺が頷く。
そこでメイベルが俺の顔をじっと見つめてから、
「それよりもカナタは私の方を見ていて欲しい気がしなくもない?」
「! わ、分かっているよ。……メイベルは、相変わらず可愛いと思うよ」
「よし、もう一回!」
「何だかフィリアさんに似てきたな……」
「うん、あこがれのお師匠様だから問題無いわね!」
メイベルが俺の前で楽しそうに笑う。
その瞬間に目の前の全てが明るくなったように俺は感じてしまう。
周りの花畑よりもメイベルのほうが何倍も魅力的というか……そこで俺は肩を叩かれた。
その人物は当然だが、エリトだ。
邪魔されて不機嫌になった俺は、
「……いい所なんだから邪魔するな」
「邪魔はするよ。僕は君を連れて帰らないといけないんだしね」
「だーかーらー、俺はメイベルが好きなんだ!」
「そうかそうか、でも俺はカナタを連れ帰るよう言われているから、残念だけれどそれは聞けないな」
薄く笑ったエリトに俺は、同じことばかり繰り返してと嘆息する。
珍しく意固地で話の分かってくれないエリトに、妙だなと俺が思っているとそこでフィリアが、
「うーん、どこもかしこもカップルばかり。いい花見の場所がないわね」
「あ、師匠、私が知っているのはここよりもう少し先です」
「そうなの? じゃあそっちに案内なさい」
フィリアがそう言うとメイベルは頷き走りだす。
相変わらず走るのが早いと俺が思いつつ追いかけていく。
それにエリトの様子を見るとついてきているようだ。
よく見ると走る速度が早くなる魔道具の靴を履いている。
以前俺が作って渡したものだ。
魔法で防御力を高くしたものである。
すべての攻撃がほぼ効かないとはいえ服はあれであるし、精神的にもあまりよろしくないので、魔法の使えない彼に俺が作って渡したものだ。
それを見ながら俺も自分用に作っておこうかと考える。
なにしろ、メイベルは脚が速い。
金色の髪を後ろから見ながら、うさみみが生えている錯覚すら覚える。
しかもぴょんぴょんと軽やかなのだ。
そういった所が可愛いと思うのだけれど……と考えているとメイベルが俺に振り向いた。
そしてそのまま俺の近くまで歩いてきて俺の右手を握る。
「カナタ、早く!」
「え、ちょ、早い!」
俺はメイベルに手を掴まれて連れて行かれてしまう。
走るのが早くて追いかけるのは大変で。
でも重ねたては温かくて、メイベルの手が柔らかくて体温を感じるとか……混乱しそうなくらい嬉しい。
走って頬を撫ぜる風が心地よい、そう思いながら俺はメイベルに連れられて走り続けたのだけれど。
気づけば花は少なくなり、岩山が見える。
そこかしこの崖っぷちのような場所に“レテ花”が咲いている。
それも段状になった場所だ。
こんな場所に来てどうするんだろう、まさかこのいくつも突き出ているような地形の岩場を破壊して、といったような想像が俺の脳裏に浮かんでいるとそこで、メイベルがその中で一番大きな岩場を指差す。
「あそこの頂上に、いっぱい咲いているんですよ」
「あら、確かにそこそこ広さもあるし眺めもいいし、あの場所を独り占めね! 考えたわね、流石だわ我が弟子!」
メイベルの言葉にフィリアがそう褒める。
だがあそこまでどうやって行くのだろうと思っていると、そこでクロが、
「うーん、フィリアとメイベルならあの岩山を登れるだろうけれど僕達は少し大変かな」
「あら、私が背負って行ってあげてもよくてよ!」
フィリアが今すぐ胸に飛び込んできてと言うかのように手を広げるも、クロは苦笑して、
「いえ、大丈夫です。先にカナタ君と、そこにいるエリト君と一緒にあちらに魔法で向かいます」
「そう? 分かったわ。すぐに追いつくから楽しみにしていて」
「はい。先に用意はしておきますね」
「よろしく~、さて、行くわよメイベル!」
クロとそんな話をしてフィリアはこの場を去っていく。そして、
「では、とりあえずあそこまで“転移”しましょうか」
そうクロが大したことではないように、とんでもない魔法を使う宣言をしたのだった。




