番外編-3
兄弟姉妹がそこそこ多く、従兄弟までいる……なので自分の価値は、俺自身は知っている。
そんな俺と、そこそこ仲が良かった従兄弟がエリトだった。
どうして気があったのかは今でもよく分からない。
ただこのエリトは変態だが、とても女性にモテていた。
そして近くにいた俺はモテなかった。
思い出して少し疲れながらもそこで俺は、
「それでエリト、今日は何の用だ?」
「いや、城の方に送るとちょっと困った事になりそうだから、僕が直接来たんだ」
また何か面倒なことを言われてしまうのだろうか?
次の無茶難題はなんだろうと俺が思ってしまう。
元々魔法が強いせいか、俺は色々なものに借り出されることが多いのだ。
なのでまたいつものような難題を押し付けに来たのかと思っていたのだが、そう聞いたエリトは相変わらずの笑顔で、
「実は、カナタにはお見合いはなかったことにして欲しいんだ」
「断る」
俺は即答した。
エリトが言ったその言葉に、視界の端でメイベルが顔色をかえたのが見えたが、俺は即座に言い返す。
そう言われたなら俺がどう答えるのか。
そんなもの選択することすらも出来ないくらい、俺にとってはメイベルは大切だったからだ。
だから、迷う必要はなかったのだけれど、そんな俺にエリトが相変わらず笑顔で、
「ん~、駄目だったら力づくで連れて帰れと言われているのだけれどね」
「……エリトが俺を力ずくで連れていけるとは思えないが」
「いや、出来るよ。搦手を使えばいいだけだし」
「……自分で言っていいのか?」
「ん? いや……僕も、まあ、色々思うところがあってね」
そう笑うエリトだがそこで、いつまでもこの裸に上着一つなのはどうだろうというか、メイベルに他の男の裸をみせつけるのもあれなので、俺は未だに借りた自分の部屋に連れて行ったのだった。
俺の部屋に連れて来て、とりあえず下着や服など……メイベルに選んでもらった以外の服を持ってきた。
それをエリトが受け取り、
「もう少しおしゃれなものはないのかな?」
「……俺は目立たず大人しくがモットーなんだよ。ほら、これをきろ」
そう言って渡すと、エリトは着替えていく。
とりあえずは着替えてもらってから、お話し合いだと俺は思う。
ようは何処をお落とし所にするかといったお話しあいである。
そこで着替えたエリトに俺は、
「それで俺はこの見合いを戻るつもりもないし、故郷には……時々しか戻るつもりもない」
「うーん、そんなにメイベル姫が気に入ってしまったのかな? 美人だから?」
相変わらずの笑顔のエリト。
その笑みが張り付いたもののように見えるのは、俺の気のせいか?
けれどここで引ける内容でもなかったので、
「美人だからじゃなくて、確かに綺麗で可愛いと思ったけれど……優しくて強いんだ」
「うーん、そこも完全に予定外なんだよね」
「……どういうことだ?」
それではまるでこのお見合い自体が初めから破断するのを望まれていたようではないか。
それに気づいて俺が黙っているとそこでエリトは笑みを深くして、
「実は、カナタはよく話を聞かずに逃げ出してしまった。だからきちんと全部を説明することが出来なくてね」
「……」
「そもそもメイベル姫の前情報から、カナタの好みじゃないしね。絶対に断るだろうと確信していたのだ」
「……だったらどうして」
「交流の関係で、色々ね。お互いのつながりを深めたいけれど、こちらとしては断るのも……なのもあってお茶濁しの意味もあって君に決まったんだよね。そして君は断る予定だったのに、ね」
困ったようにエリトが言う。
それを聞きながら、
「別に俺はそんなに重要な存在じゃないだろう? だったらこのままメイベルと一緒にいてもいいじゃないか」
それが俺とあの国での評価だったはずなのだ。
だから、メイベルと一緒でいいと思っていたのだけれどそこでエリトは深々と嘆息した。
「それは君自身が君を過小評価し過ぎなのと、君自身の性格がヘタレだからだろう」
「ヘタレって……」
「温厚な君の性格を皆知っているからそこまで危機感を抱かなかったのだよ。そして、君自身の魔法の才能と力は、他国に持っていかれるのは危険か、という問題もあるのだよ」
そうエリトは相変わらずの、仮面のような笑顔で俺に告げたのだった。
それ以上の話はただただ平行線をたどるだけだった。
そもそも、俺の魔法の力がという辺りの話が怪しい。
ほんとうの話をしろよと俺は思った。
だからその話を俺は重大に受け止めず、もうこうなったらメイベルとイチャイチャしているとこをみせつけて戻る気がないアピールをするべきなのだろうかと俺は思った。
そんな理由から、俺はメイベルに、エリトを一緒に連れていっていいかを聞く。
と、何やら真剣にメイベルは考えるそぶりを見せて、
「勝利すればカナタを連れて行かれずにすむのかな?」
「メイベル、違うから。それをするよりもこう、もっと……」
「いえ、連れ戻そうとするなら力づくで連れ戻せばいいのね。分かったわ!」
「いや、あの、メイベル……」
けれどその気になったメイベルは俺の話を聞かない。
なので俺はそれ以上言えず、とりあえずはピクニックを楽しむようにすればここにいたいのが分かるだろうと俺は楽観的に考えていたのだった。




