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即座に消費

 メイベルが話したとおり、朝食は豪華だった。

 豪華すぎてしかも料理の量も多すぎる。

 確かにメイベルやフィリアは、あの体型を維持できているのが不思議なくらい良く食べる。


 つまりその分を即座に消費しているのだろう。

 あれだけの事が出来るんだったら、その分沢山食べないといけないのかもしれないなと俺は思った。


 思いながら、チキンをソテーしたものにナイフを入れる。

 皮の部分がパリッと香ばしく焼き上げられて、香草の入った薄く黄色に色づいたソースがかけられている。 

 それを一口口に含むと複雑な香りと甘酸っぱいソースの絡まった鶏肉のうまみが口いっぱいに広がる。


「美味しい……この味は初めてです」

「そうなのかい? そういえばオプレスの草はここ一帯の特産だったから、他の国出身のカナタ君は食べた事がないかもしれないね」

「オプレスの草、覚えておこう、というか後で乾燥したものを買ってこよう」


 そう俺は頷きながら再び鶏肉を口に含む。

 この皮の焼き具合も絶妙だなと思いながら幸せに思いつつ俺はもぐもぐしていると、ふと、フィリアが食べていない事に気づく。

 それどころか鶏肉をじっと睨みつけている。

 そんなフィリアにクロが、


「どうしたんですかフィリア。折角ですから暖かいうちに食べましょう。フィリアの大好物でしょう?」

「……こんな食べ物で誤魔化されると思っているの? 私は……もぐ」


 そこでクロが、文句を言い出し始めたフィリアの口に、一口大に切った先ほどの鶏肉をフォークで放り込んだ。

 もぐもぐと口の中で噛み締めて味を確かめるフィリア。

 睨み付けていた瞳が、とろんとしたものに変わって、


「美味しい! やっぱりクロの作る鶏肉のソテーは絶品だわ」

「そう言ってもらえて嬉しいですよ。僕は貴方が幸せそうに僕の作ったご飯を食べてくれるのが好きなんです」

「……分ったわよ。食べます、もう」


 そう言ってフィリアが食事に手を付ける。

 それをクロが幸せそうに見ていて、カナタはこの絶妙な飴と鞭の使い方というか弄び方というか、フィリアさん大変だなと心の中で思う。

 そこでメイベルが俺の肩を叩いた。


「カナタ、こっちの煮浸しも美味しいよ? はい」

「あ、ありがとう。取り皿に取ってくれたんだ」

「うん、カナタの席から少し遠いし、美味しかったから」


 そう言われて渡されたナスの煮浸しは、確かに美味しい。

 特にこのかけられているうまみのあるあまじょっぱい黒いソース。

 これはなんだろう、後でクロさんに聞いてみようと俺は思っていると、メイベルが俺の方をじっと見ていた。


 しかもまじまじと見られているので、何かおかしな事をやっていただろうかと俺が思っていると、


「カナタは美味しそうにご飯食べるよね」

「それは、まあ。だって美味しいから」

「そっか……そのうちお菓子を焼いてくるから、カナタ、味見をしてくれる?」

「ぜひ! メイベルのお菓子か……楽しみだな」

「うん、楽しみにしていて下さい」


 メイベルがにこにこ笑いながら告げる。

 それを思いながら、だったら俺も何かお菓子を作ってお世話になっている人達に食べてもらうのもいいかなと思う。

 後で、材料と魔道式冷蔵庫と、材料を買ってこようと俺は決めていると、


「それで、早速だけれど朝から奴らのアジト探しに行きましょう、カナタ!」

「それなんだけれど、メイベル少し待ちなさい」

「お師匠様、どうしてですか?」

「捕まえた奴らから話を聞いてくるから、多分昼過ぎになると思う。そのほうがいいでしょう? 闇雲に探すよりは」

「それはそうですけれど……」


 不服そうなメイベルだがそこで俺は、


「メイベル、買い物に手伝ってくれないかな?」


 そう切り出したのだった。






「魔道式冷蔵庫? 小型のやつで、お安い店となると……あそこかな」


 メイベルに案内されてやってきたそこには、様々な魔道式家具が揃っている店だった。


「確か魔道式冷蔵庫は……ここ」


 メイベルが走っていって、それを指差す白く塗られた木の箱。

 高さはカナタの背丈よりも少し低いが、随分大きい。


「もう少し小さいのはありませんか?」


 すぐ傍にいた店員に聞くと、首を横にふられてしまう。

 仕方がないのでそれを買う。

 後で俺の自宅まで無料で運んできてくれるらしい。


 なのでついでに別の家具も買おうと思うも、台所にはコンロもあって一通り揃っていた。

 そうなってくると後は調理器具だが、何故か台所には鍋一式が揃っており、良く砥がれた包丁までもが置かれていた。

 それを思い出せば、必要なものは一通り揃っている。あとは、


「メイベルは、食べてみたいお菓子はある?」

「うーん、果物を使ったお菓子がいいかな」

「果物……メイベルはどんな果物が好きなんだ?」

「今の時期は葡萄かな?」

「分った、葡萄のケーキにしよう」

「本当! 楽しみだな、カナタのケーキ」


 楽しみだと言うメイベルを見ながら俺は、スポンジとクリームを重ねた上に、葡萄を使ったジュレを乗せたケーキを作ろうと考える。

 材料は葡萄に、クリームに、砂糖に、小麦粉に、卵に……。

 そうやって俺は必要な材料を考えて、


「メイベル、食材を売っているお店に行かないか?」

「そうだね、えっと、まずは果物屋さんかな」


 メイベルが少し考えて、俺の手を引き歩き出した。






 色とりどりの果物と野菜の並ぶ店。

 知っているものもあれば知らないものも多い。

 その中でカナタは美味しそうな葡萄を二つ、干し葡萄を一袋、ついでに胡桃も胡桃割り機と一緒に買っておく。

 後でこの葡萄と胡桃を混ぜ込んだクッキーを作ろうと思ったのだ。

 ケーキを作った材料の余りを混ぜるだけで出来る簡単なお菓子。


 それに日持ちがするから、見つかって逃げ出す時に持っていってもいい。

 ついでに瓶詰めの日持ちしそうな飲み物も数本買っておく。

 気づけば両手一杯に荷物を抱える事となったのだが、そこでメイベルが俺の買い物袋を取り上げて、


「持ってあげるよ」

「でも……」

「いいって。そういえば買い物袋、随分可愛いやつなんだね」

「えっと、それしか売ってなかったんだ」

「……もっと男の人が持っていてもおかしくない買い物袋を売っているお店に今度案内するね」

「よろしく、メイベル……あれ?」


 そこで俺は気づいた。

 今路地裏に入っていったメイド服の女性。

 その後姿には見覚えがある。

 あれは、ミランダ家にいて俺達にお茶を出し、圧倒的な力を持って敵を倒した、


「マリアさん?」

「うん、間違いないかも……カナタ、ついていこう!」


 そう言って俺が止める間もなく走り出したメイベル。

 俺は荷物を持ちながらは流石にきついなと思いつつ、メイベルを追いかけていったのだった。

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