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スケールが大きい話

 今日は夜遅いのでもう寝なさい、と、メイベルと俺はフィリアに捕まった。

 正確には、メイベルが勇んで外に駆け出そうとして、俺も巻き込まれそうになったのを止められたのである。


 見つけたら見つけたで教えてあげるから、もう遅いから寝ろと、フィリアに連れられそのまま俺とメイベルは其々の部屋に放り込まれた。

 それに俺は徹夜にならなかったことをフィリアに感謝しながら、俺はふらふらとした足取りでベッドへと向かいそのまま倒れこんだ。


 ふかふかの柔らかい綿の感触。

 その心地よさに一気に体の力が抜ける。

 そして暫くとろんとしてからぼんやりと自分の腕につけられた腕輪を見る。

 とっさに使用した魔法。


「この前の人攫いはそんなものを出す余裕すらなかったからな。今回は一応役には立てたし。……でも、俺って意外に弱いんだな」


 自分の力を過信していないつもりでも、やはり無意識の内にそういうものがあったのだろうかとも思う。

 けれど今回の件で少しは俺はメイベルの役には立ったし、自分の力を再確認できた。


 そもそも俺は前線なんかに出ない。後ろの方で見ているだけ。

 技術を磨いていざという時に備えていて、使わなくて済むならそれに越した事はない。

 それが分っていて、俺の温厚な性格もあってかそれは自制できる。

 それに魔法自体は好きだったので夢中で勉強できた。


「そのお陰でこうやってメイベルのお手伝いも出来たし、少しは格好良い所を見せられただろうか」


 そこで俺は今時分が何を呟いたんだと頭を抱えたくなってしまう。

 けれどすぐに、女の子に良い所を見せたいと思うのは男として当然だと正当化した。

 それでその話は考えるのをやめて別の事を考え始める。


「“破滅石”か」


 クロが本当に魔王かどうかは未だにカナタは疑っているが、あの石は危険なものだと俺には分る。

 潜み、組み上げられ、複雑に絡みあげられながらも一つに強い力でまとめられているあの石。

 あれを暴走させれば、どのような被害がでるだろう。

 そう考えて大まかな試算をしてみて、


「……世界ではなく、国が一つ滅びるくらいだな」


 と俺は大まかに計算してみる。

 これに魔法防御や耐性、石の暴走した地点よりどれほど離れているかといった条件を加味して……。


「この都市の中心で暴走させればこの都市一つが綺麗さっぱりなくなるな」


 またこの場所で暴走させた場合、少なくとも王城が巻き込まれる。

 行政機能の停止による混乱は、可能。


「スケールが大きい話になってきたな。でもそんな危険なものだと分っていて奴等は盗んだのか?」


 強い力を持つ石だが、それを発動させれば自分達は逃げられない。

 そんな妙な忠誠心が彼らからは感じられない。


「……彼らはあれが何だか分らずに、あれを盗んだ?」


 そう考えればあの適当な受け渡しも納得できる。

 随分と気軽にあの石を他の人間に渡していたし、他の人に投げ渡していた。

 彼らが騙されているのか、それとも別のものと間違えているのか、別の目的があるのか。


「それに関しては直接聞き出さないとまずいよな。そういえば捕まえた奴等は役所に引渡したから、彼らが何を言ったのか聞きだしているかもしれないし」


 それに今頃彼らは捕まっているのかもしれない。なにせあのメイドも執事もとても強い。


「……でもそれを知ったらメイベルは落ち込みそうだな。自分で解決するんだって張り切っていたし。でも危険に違いないから、そういった事はしない方が良いよな」


 あんなに可愛い子が大怪我をするのは見たくないし、とカナタは呟いて。

 そこで後は成り行きに任せるしかないよなと結論付けて瞳を閉じる。

 今日も今日とてとても疲れたのだ。


 けれどメイベルと一緒にパンケーキを食べたりして、それもまた楽しかったのでよしとしよう。

 そんな事を朦朧とする頭で考えているうちに、何時しか俺は深い眠りに誘われたのだった。





 俺はパチッと目を覚ました。

 カーテンの隙間から差し込む光から、朝だと気づく。

 次いで傍にある懐中時計を使って時間を確認する。


「朝の六時か……起きるか」


 背伸びをしてから、毛布を剥がして起き上がる俺。

 昨日はそのまま眠ってしまったのでまずシャワーを浴びて、身支度を整える。


「うん、特におかしい所はないな。普通普通、普通って素晴らしい!」


 そう一人で騒いでから、メイベルは起きているのかなと思いつつ下に行こうと部屋のドアを開けた。

 メイベルが丁度、俺の部屋にやってきたところらしく、驚いたようにたっていた。


「あ、えっと、おはよう」

「おはよう、カナタ。昨日、今日はお師匠様もここに泊るって言っていたし、多分朝ごはんをクロさんが用意していると思う」

「そうなんだ、フィリアさんはどの部屋で眠っていたんだ?」

「クロさんと同じ部屋」

「……」

「早くくっついちゃえば良いのに、クロさんがなんだかんだで逃げ回っちゃって」

「そうだな……あれ、おはようございますフィリアさん」


 挨拶する俺にフィリアが振り返る。

 とても機嫌が悪そうだった。

 その様子から色々察した俺だったが、メイベルが、


「大丈夫です! お師匠様、がんばって」

「メイベル……そうよね、ここまで来たらもう落とすしかないわよね!」


 フィリアが、よし、もう一度押してやるわよと拳を振り上げた。

 この情熱は見習わなければとカナタが思っていると、そこでメイベルが、


「それで、今日のご飯、何ですか? お師匠様」

「……私を怒らせたから、クロがちょっと豪勢にしてくれるって」


 それを聞いた俺は、


「朝からは豪勢なのはきついですよ」

「ふーん、でもクロさんの食事は美味しいから朝からでもいけちゃうよ、早く行こう! カナタ」

「メイベル! 手を引っ張らないでよ、危ないよ!」

「つまづいたら私が抱きとめてあげるから、安心して!」


 そうにこやかに笑うメイベルは確かに可愛いと俺は思う。

 けれど一つ、不安がある。

 抱きとめるのは嬉しい気もするのだがその抱き留め方も含めて、女の子に自分が抱きとめてもらうという事実。


 いや、確かにメイベルのほうが力が強いし。

 この細身の体の何処にそんな力が眠っているのかと思うほどに。

 そんな事を悶々と考えていると、転ぶことなく俺は階段を下りることが出来た。

 そして漂う、香ばしい肉の焼かれる匂いがする。


「いい匂い、ごく」

「カナタは食いしん坊だね、行こう! クロさんがお師匠様のご機嫌を取るために、デザートまで用意しているだろうから」

「なんだか……どうしてくっつかないんだろう」


 クロにはクロの事情があるのだが、男女の関係は難しいなと人事のように俺は思った。 

 思って俺はメイベルに気づいて、自分も人の事言えないよなと思いながら、裏口から入っていったのだった。

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