第三十三話 静寂の特訓
第一幕 静寂の特訓
「クルーン。今日から、僕が指導する」
ホエードが、いつも通りの抑揚のない声で告げた。
「よ、よろしくお願いします!」
クルーンが、緊張の面持ちで頭を下げる。
「今日の目標は、シンプルだ。キャンディクルーンの、維持時間を延ばす事」
「維持時間、ですか」
「今の君は、力を出し切ると、あっという間に元に戻ってしまう。それでは、長期戦に対応できない」
ホエードは、静かに近くの岩に腰を下ろした。
「まずは、ただ座って、心を静めるところから始めよう」
「え、それだけですか?」
「ああ。力を保つ為に必要なのは、まず、心を乱さない事だ」
第二幕 持続の限界
クルーンは、言われた通り、静かに座って精神を集中させる。
だが、数分もしないうちに、いつものオーラが、ふらふらと不安定に揺れ始めた。
「あ……。もう、揺らいできちゃった……」
「まだまだだ。焦る必要はない。何度でも、繰り返せばいい」
ホエードの淡々とした声に、クルーンは、なんとか気持ちを立て直す。
「もう一回、やってみます!」
何度も、何度も、集中を試みるクルーン。
徐々にではあるが、オーラの揺らぎは、少しずつ小さくなっていった。
「――良くなってきた」
ホエードが、静かにそう呟く。
「本当ですか!?」
「ああ。焦らず、着実に。それが、一番の近道だ」
第三幕 亡き相棒の教え
「ホエードは、どうやって、その忍耐力を身につけたんですか?」
クルーンが、ふと尋ねた。
「……昔、一緒にいた相棒が、教えてくれたんだ」
ホエードの声が、僅かに柔らかくなる。
「あの子は、いつも、じっくりと相手を見極めてから動くタイプだった。僕は逆で、いつも先走ってしまう性格でね」
「そうだったんですか……」
「『焦っても、何もいい事はないよ』ってね。よく、そう言われたよ」
ホエードは、遠くを見つめながら、静かにそう続けた。
「今の君を見ていると、少し、あの子を思い出すよ」
「え……」
「一生懸命で、真っ直ぐで。だからこそ、時々、力み過ぎてしまう」
クルーンは、その言葉を、静かに胸に刻んだ。
「僕、もっと落ち着いて、力を使えるように頑張ります」
「うん。期待してるよ」
ホエードの口元に、ほんの僅かな笑みが浮かんでいた。
第四幕 芽生えた忍耐
特訓を重ねる事、幾度か。
「――キャンディクルーンだ!」
クルーンが、静かに、しかし確かな集中力を持ってオーラを纏う。
その輝きは、以前よりも遥かに安定し、時間が経っても、揺らぐ事なく持続していった。
「これは……! すごい、全然疲れが違います!」
「うん。これなら、長期戦でも十分持ちこたえられる」
ホエードが、満足げに頷いた。
「ホエードのおかげです、本当にありがとうございます!」
「僕こそ、ありがとう」
ホエードは、静かにそう返すと、少しだけ遠い目をした。
(君のおかげで、僕もまた一つ、前に進めた気がするよ)
その想いは、言葉にはならないまま、静かに胸の内に留められた。
夕暮れの中、二人は、しばし穏やかな沈黙を共有していた。
着実に積み重ねられていく成長と絆――修行の日々は、あと一つの試練を残すのみとなっていた。
(つづく)




