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それからのクリスタニア〜静かな海に灯はともる  作者: chamoまる


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2/4

ブリッジのルール—知らなくていいこと

船の上には、いろいろなルールがある。


中には、知らないほうがいいこともあるらしい。

その頃、ロンドンでは――


ハワード邸に、一本の連絡が入っていた。


レイコの両親、エヴァンスとキョウコからだった。


 


応接間に、柔らかな空気が流れる。


 


「それなら、久しぶりにパーティーでもしましょうか」


マリア夫人が、楽しげに言う。


 


「ええ。賑やかな方がいいでしょう」


ハワード提督も静かに頷いた。


 



 


数日後。


紅海の現状について各所とやり取りを続けていたハワード邸に、提督宛の別の電話が入る。


 


相手は、リヒトの父――ヴァルナー大将だった。


 


短い近況のやり取りの後、提督が切り出す。


 


「ご子息の件ですが――」


 


わずかな沈黙。


 


やがて、大将は低く言った。


 


「……それなら、亡き母に会いに来るよう、伝えてくれ」


 


「……それだけですか?」


 


「ああ」


 


通話はそれで終わった。


 


受話器を置いた提督は、小さく息をつく。


 


「素直じゃないな」


 


思わず、苦笑が漏れる。


 



 


同じ頃、クリスタニア。


 


ブリッジでは、フレデリクが静かに口を開いた。


 


「船長を、少し休ませるべきだと思う」


 


一瞬、空気が止まる。


 


「このところ、顔に疲れが出ている。倒れられては困るからな」


 


無駄のない言葉。


 


三井がすぐに頷く。


 


「そうっすよ。サウサンプトン着いて、翌日折り返しでしたし。ここから先、まだ長いですしね」


 


「……賛成や」


栗栖が短く言う。


 


谷屋も腕を組んだまま頷いた。


 


「無理させる必要はない」


 


意見は、すぐに揃った。


 



 


その結果。


 


リヒトは、数日の休暇を取ることになった。


 


その場所は――


 


レイコの部屋。


 



 


数日後。


 


ブリッジに戻ってきたリヒトは――


どこか、違っていた。


 


無駄がない。


 


判断が、やけに速い。


 


三井が、ちらりと横目で見る。


 


「……なんか今日、キャプテン無敵じゃないっすか?」


 


誰も答えない。


 


「肌ツヤもいいし……何食ったらそんなに元気になれんすか?」


 


一瞬、空気が止まる。


 


フレデリクが、静かに言う。


 


「……聞くんじゃない」


 


——収まった、はずだった。


 


「えー、なんすかそれー!」


 


三井が食い下がる。


 


「教えてくださ――」


 


その瞬間。


 


勢いよくドアが開いた。


 


「おい、三井」


 


谷屋だった。


戻ってきた瞬間に、空気を読む。


 


「――○×△⬜︎※♯!!」


 


反射だった。


 


「お前マジで空気読めっ!」


 


機関主任の谷屋が一歩で距離を詰める。


腕を掴み、そのまま口を塞ぐ。


 


「むぐっ!?」


 


「お前は知らなくてもいいんだっ!」


 


低い声。


 


遅れて、栗栖が言う。


 


「……貴様!キャプテンのあれこれ聞いたらあかんて!!」


 


「むぐぐ……っ!」


 


「このお子ちゃまが」


 


短い一言。


 


ブリッジが、完全に静まる。


 



 


「……三井ぃ…」


 


低い声。


 


リヒトだった。


 


それ以上は、誰も言わなかった。


 



 


その頃。


 


レイコは――


 


動けなかった。

すべてを知る必要はない。


知らないほうが、平和なこともある。



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