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それからのクリスタニア〜静かな海に灯はともる  作者: おーがすてぃーぬ


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帰る場所―あなたの帰る場所はここよ

帰る場所は、最初から決まっているとは限らない。


それでも、人は見つけることができる。


本編Legendiaより愛をこめて

まだ読んでいない方はこちらからどうぞ↓

https://syosetu.com/usernovelmanage/top/ncode/3081195/

サウサンプトンを離れたクリスタニアでは、クルーたちによるささやかなパーティーが開かれていた。

リヒトのプロポーズ成功を祝う、内々の祝いである。


クルーズ部門が密かに用意した白いオフショルダーのドレスをまとい、レイコは楽しげにクルーたちと談笑していた。


その様子を少し離れたところから見つめていたリヒトの隣で、フォックス中尉がどこか困ったような顔をしている。


「どうしたの?」


レイコが声をかける。


リヒトは真顔のまま答えた。


「彼を、どう呼べばいいのか悩んでいる」


「……何の話?」


レイコは首を傾げた。


その反応に、今度はリヒトのほうが驚いたようだった。


フォックスはにこにこと笑いながら口を開く。


「実はですね、ヴェイル中佐が、自分の兄さんになったんです!」


「……え?」


「だからレイコ様はお姉様になるんですけど、リヒト様をお兄様って呼ぶのが、どうにも落ち着かなくて」


「ちょっと待って。全然分からないわ。ちゃんと説明して」


レイコが思わず身を乗り出すと、フォックスは「へへへ」と笑いながら話し始めた。



セレモニーの後。


ハワード邸のダイニングは、いつもより少しだけ華やいでいた。


エディがローズとの結婚を報告し、ハワード提督は満面の笑みでそれを祝っていた。

マリア夫人もまた、その喜びを隠そうとはしない。


だが、その光景の中で——フォックスだけが、少し距離を置いていた。


気づけば、彼は犬たちとともに庭へ出ていた。


「いいよな、お前たちは」


フォックスは小さく呟く。


「家族がたくさんいてさ」


犬たちは何も言わず、彼の膝に前脚を乗せ、静かに頭を擦り寄せる。


そのとき、背後から柔らかな声がした。


「フォックス。アップルパイが焼けたの。一緒に食べましょう?」


マリア夫人だった。


フォックスは、顔を上げなかった。


少しの沈黙が落ちる。


やがて、マリア夫人は静かに続けた。


「ねぇ、フォックス」

「前からずっと思っていたのだけれど——」

「よかったら、私たちの息子になってくれないかしら」


フォックスの肩が、わずかに揺れた。


「ご両親の代わりにはなれないかもしれない。でも、あなたを愛することはできるわ」

「今すぐでなくてもいいの。考えてくれたら、それでいい」


そう言って、少しだけいたずらっぽく笑う。


「雷親父がお父様になってしまうけれどね」


フォックスは、ゆっくりと顔を上げた。


「……フォックス」


「抱きしめても、いいかしら」


その一言で、彼の表情が崩れた。


マリア夫人は優しく彼を抱きしめる。


「あなたの帰る場所は、ここよ」


フォックスは、声を出さずに涙をこぼした。



その様子を窓越しに見ていたハワード提督が、静かに言う。


「自慢の息子が増えるだけだ」


「お前は弟が二人になるな」


隣のエディは苦笑した。


「フォックスはともかく……あのリヒト様が素直に“兄”を名乗るかは怪しいですが」



こうしてフォックスは、ハワード家の養子となった。


そして何より——レイコを姉と呼べることを、誰よりも楽しみにしていた。



「……っていう話なんです」


フォックスは満面の笑みで締めくくる。


レイコは、しばらく言葉を失っていた。


やがて、小さく息を吐く。


「本当に、もう……」


そうして、少しだけ優しく微笑んだ。


「これからは、フォックスじゃなくて、ロバートね。ロバート、お姉様って呼んでくれない?」


「お、お姉様!」


レイコは思わずロバートを抱きしめた。


それを見たリヒトは、少しだけムスッとする。


「もう淋しくないわね」


名前が変わっても、変わらないものがある。


それが、きっと“家族”というものなのだと思う。



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