氷の微笑—女王と副社長
ヴィクトリアとクリストファーは何を企んでいるのでしょう。
イギリス、DMC本社。
副社長室は静まり返っていた。
音が吸い込まれるような空間だった。
重厚な調度。磨き上げられた床。
外光を遮るガラス越しに、ロンドンの曇天が鈍く滲んでいる。
その中心に、二人だけがいた。
ひとりは、氷のような笑みを浮かべた男。
副社長、クリストファー。
もうひとりは、冷たい美貌を持つ女。
Alluring船長、ヴィクトリア・ラフィアン。
距離は近い。
本来であれば一歩引くべき距離。
だがどちらも動かない。
踏み込めば危険だと知りながら、あえてそこに留まっている。
クリストファーは深く椅子に身を預け、脚を組んだままゆっくりと言葉を落とした。
「ラフィアン。お前のために、わざわざBMMを招待してやった」
恩を売るような声音。
「クリスタニアを無力化できれば、その分我々が力をつけることができる。だが——」
一瞬、視線が鋭くなる。
「確実に仕留めねばならん」
ヴィクトリアは、わずかに顎を引いた。
その仕草は従順にも見える。
だが、実際は違う。
視線を逸らさず、真正面から受け止めている。
「承知しております」
クリストファーは満足げに口元を歪める。
「今回は俺が行く。お前は気が短いからな。せっかくの舞台を台無しにされては困る」
ヴィクトリアの視線が、わずかに細くなる。
「……しかし、どうやって」
クリストファーは軽く笑った。
「ラフィアン。俺の情報網を甘く見るな」
指先で肘掛けを軽く叩く。
「ヴァルナーの弱点は妻だ」
わずかに声を落とす。
「噂によれば、あの男は——」
一拍。
「妻を溺愛しているそうだ」
沈黙。
ヴィクトリアの唇が、わずかに歪む。
「……相変わらず、反吐が出そうな手をお使いですこと」
クリストファーは肩をすくめた。
「勝つためだ」
そして、ゆっくりと前に身を乗り出した。
距離が、さらに縮まる。
互いの呼吸がかすかに届く位置。
だが、触れない。
「来るんだ、ラフィアン」
その声は低い。
命令というより、囁きに近い。
「お前は黙って“女王”であり続ければいい。そうだろう?」
ヴィクトリアはまっすぐに彼を見返す。
逃げない。
一歩も引かない。
そして、静かに微笑んだ。
それは、美しく、
そして冷たい笑みだった。
「仰せのままに。副社長」
その言葉に、従順の響きはない。
むしろ逆だ。
“その役割を受け入れてやる”という選択の響き。
一瞬だけ。
ほんのわずかに。
互いの視線が絡み、離れない時間があった。
支配でも、服従でもない。
均衡。
その均衡が、かえって危うい。
やがてクリストファーは視線を外し、
ヴィクトリアもまた、何事もなかったかのように背を向ける。
部屋の空気は元に戻る。
だがその内側では、
確かに、火種が残っていた。
DMCは静かに、BMMに忍び寄っていきます。
繰り返されてきた因縁に終止符を打てるのでしょうか。




