海運VS海運-もう一つの帝国
なかなか更新出来ず…
三井があの日の話を日向キャプテンに聞かせていた頃。
ソブリンブリッジには、イギリス本社から通信が入っていた。
『帝国海運の新造船青海Ⅶが、明日の朝にニューヨークに到着するようだ。船長は東条薫子。
DMCの先代とも関係があったとされる。帝国海運グループのグレートキャプテンだ。』
受け取った通信士は、険しい顔をした。
「東条キャプテン…」
その呟きを、リヒトは聞き逃さなかった。
「俺はDMC出身だが、彼女のことは知らない。君は何か知っているのか?」
通信士は一拍置いて答えた。
「先輩から聞いたことがあります。
我が社の藤堂副長と関係があるとかないとか…。人事部は東条キャプテンが藤堂副長を引き抜こうとしているのではと警戒していました。この3年ほど。」
リヒトは鼻で笑った。
「藤堂副長は、日向キャプテンの信頼が厚い男だ。船長候補の一人でもある。そんな簡単に裏切るような人間を、日向キャプテンが側に置くと思うか?」
通信士は少し考えて、表情を和らげた。
「それもそうですね。次席は青海Ⅶをどう出迎えるおつもりで?」
「なかなかいい性格をしているようだな。道中クリスタニアに絡まなかったか、確認してくれ。日向流にもてなしてやるさ。」
それを聞いたブリッジクルーは、顔を見合わせて笑った。
「あぁ…日向流ね。二階堂副長たちにインカムを飛ばします。日向キャプテンにはいかがしましょうか。」
「今頃父親の時間だろう。まだ黙っておけ。明日の夜には出港だな。見ろ。」
リヒトは、モニターに映ったメッセージにいち早く気づいた。
『そちらのスケジュールに問題がなければ、日程を一日切上げろ。アメリカの空母のために場所を開けろと要請が来ている。』
「ソブリン、ヴァルナーだ。明日の夜出港だ。それが最大の譲歩だ。時間は追って連絡する。他に付近にいる船は?」
『Preceptのニューヴェルデンがいる。明日の夜なら反航するはずだ。キャプテンは、アルベルト…』
「クリューガーだな?俺の戦友だ、心配ない。」
『ヘンリーキャプテンに青海Ⅶの件は一任してもらいたい。日向キャプテンと東条キャプテンを接触させるな。』
「善処する。」
リヒトはそれだけ伝えると、ふと眉間に皺を寄せた。
どうしても拭えなかった不安がそれなのか、確信は持てない。
「ルナディアを指揮してるのは藤堂か?」
クルーたちは顔を見合わせた。
「そうですが…何かありましたか?」
リヒトは、不安を打ち消すように首を振った。
「何でもない。明日からのスケジュールの組み直しと、運航計画の変更だ。」
ソブリンのブリッジが慌ただしさを増した頃。
娘を部屋に送り届けた日向キャプテンは、美しい字でメモを書きながら、神崎に尋ねた。
「何があった。」
「帝国海運の青海Ⅶが明日こちらに来るようです。キャプテンは東条キャプテンです。ヘンリーキャプテンが、本件の指揮を取るよう指示が来ています。」
日向キャプテンは、メモをベッドサイドのテーブルにそっと置くと、静かに振り返った。
「結構だ。あちらさんの招待は受けるな。こちらも訪問を断れ。」
日向キャプテンは、心底イヤそうな顔でそう指示を出した。
「私は休む。あとは頼んだ。」
「それから、明日アメリカ空母が帰港するため、場所を空けろと要請が来たそうで、ヴァルナー次席は明日の夜までしか譲歩出来ないと返答したそうです。」
それを聞いた日向キャプテンは、すぐに返事をした。
「明日の16時だ。ニューヨークのスケジュールは、予備日として1日多く取っていただけだ。以降の運航計画とスケジュールは、追って報告しろ。」
「畏まりました。」
神崎は、静かに礼をすると夏葵の部屋を出た。
遠く日本。美しいビルの景色が広がるの神戸の片隅。
仕立ての良いスーツを着た男が、にこやかにグラスを傾けていた。
「しばらく黙っていることにしよう。あの男だけは敵に回したくないからな。少なくとも…今は…だが。」
ニューヨークの夜は更けていく。
いくつもの街で、それぞれに風がざわめいていた。
そろそろ終盤。頑張って完結までいきます




