13
次のフィッティングは、図書委員が似合いそうな先輩だ。
彼女は採寸をする前に、指導をしなければならないくらいに酷い。
先程の先輩の、トンデモ具合が可愛く見えるくらいに、酷過ぎる。
「先輩は採寸の前に、どうして欲しいのか、どうなりたいのか、要望をおっしゃって下さい。
ただ僕が測ってサイズを伝えるだけでは、解決できない所が多過ぎます」
「……え? え??」
始まらない採寸と、僕の真面目な声に、困惑したのだろう。
キョロキョロと視線を彷徨わせ、首を傾げる。
自分の身に着けている下着のどこがどう悪いのか、サイズが合わない以外に何が問題なのかが、分からないらしい。
ワンチャン、ウケ狙いかとも思ったのだが……そうか、本気なのか。
体育の授業で着替える時とか、修学旅行の大浴場でとか、これまで友達に指摘される機会は、幾らでもあっただろう。
野郎連中なんかは、隙あらば誰がデカい小さいの話で盛り上がると言うのに。
おかしいな。
まさか……女性が更衣室でお互いのおっぱいを触り合いっこして、キャッキャと戯れながらガールズトークに花を咲かせるのは、幻想だったとでも言うのか!?
「先に謝罪しておきます。
言葉が悪くなったら、済みません。
先程の先輩も、スポブラではなくナイトブラを普段から使用している、と言うツッコミ所満載な下着を身に着けていましたが、貴女のは……ちょっと、酷すぎます。
アンダーもあっていない。
着ける位置が違う。
カップも合っていないし、その上寄せることすらしていない。
肩紐の長さ調整も出来ていないし、何より、ジュニアものであることが許せな……!
……コホン。
先輩くらい乳房が発育している場合は、大人用を身に着けなければ。
形が崩れるし、それでは着けていて苦しいでしょう」
途中からヒートアップし過ぎて、本音がだだ洩れる所だった。
危ない、危ない。
怖がられて、逃げられたら大変だ。
僕の観点で許す、許せない、の問題ではないのだから。
これは、先輩のおっぱい存続の危機なのですよ……!?
いや、マジでね。
冗談ではなく。
至極真面目な話だ。
本当に。
なんで真面目な話かと言うと、全くサイズの合っていないこんなブラジャーでは、過度の外部刺激が加わる。
そのせいで、乳癌のリスクが高くなるのだ。
ステージによっては全摘をしなくても良いし、今は手術前と遜色劣らない見た目に出来る、おっぱいの再建手術だってある。
だけど……病気なんて、ならない方が良いに決まってる。
病気になったおかげで気付けることがある、と言うのは一理あるのだろう。
しかし個人的意見を言うなら、それは病気を美談にし、自分の精神状態を保つための自己防衛本能の一種に過ぎない。
僕はそう思う。
病気になんて、ならない方がいい。
絶対にいい。
そんな御託、どうでもよろしい。
横に置いておこう。
それよりも今は、先輩のおっぱい救出が何より優先されるべきことだ!
「えぇっと……
わたし、女家族、誰もいなくて。
安売してるのをつけてるから、何がどうダメなのかも、わからないの。
おっぱい王子には悪いんだけど、何がどうだめなのか、教えてほしいな」
「それは……
事情も知らず、申し訳ありませんでした」
言って先ほどポニーテールの先輩にさせた格好よりも、更に深く、頭を下げた。
今のセリフから、色々察することが出来る。
両親共に揃っている上、家計の心配をしなくていい僕には、表面上の理解は出来ても、心情的なものを汲んで、寄り添うことはできない。
暴走して、暴言を吐かなくて良かった。
彼女の心の傷をえぐるか、新たに傷を作る所だった。
……ただね、サラッとあだ名で呼ぶのは、辞めて欲しいな。
呼ばれるたび、僕の心が傷付くから。
このお年頃の男の子は、とっても繊細なんだよ。
影でコソコソ言われたり、からかわれるように言われたりするのは、一万歩くらい譲ればスルー出来るけど、真正面から、何の悪気もなく言われると、さすがに傷付く。
……ちょっと、泣いてもいいですか?
僕のあだ名は自分の行動が招いた結果なので、ある意味仕方ないと受け入れてやらなくもないが、彼女の問題は、家庭の事情だ。
初対面の一後輩が、踏み込んでいい領域じゃない。
「それでは、後輩さん。
貴女も共通して学ぶべき所でしょうし、少々お時間をください」
年齢によって適したブラジャーが違うことを知らない人が多いので、プリントを用意してある。
使い回しているそれを、五人に配る。
あって悪い知識じゃないしね。
女性は子供を産むための準備をするべく、二次性徴期になると肉体が変化していく。
初潮を迎えたり、つくべき所に脂肪がつきやすくなったり、そういう逃れようのない変化だ。
乳房が膨らみ始めるのも、この時期になる。
そして乳房がみんなが大好きなおっぱいへと進化するにあたり、いくつかの段階を経なければならない。
ちなみに‘’みんな‘’の中からは、幼児のつるぺたイカ腹愛好家の少数派は、今回は除外させて頂こう。
未発達や発展途上のそれも悪くはないが、それを語り出したら逮捕されてしまうリスクがある。
やだよ、僕は。
この歳に限らず、前科持ちになんてなりたくない。
ただでさえ、ギリギリの綱渡りをしている状態なんだから。
これ以上の危険は犯したくない。
二次性徴を迎える際、まず胸が膨らむための前段階として、非常に刺激に敏感になる時期がある。
揉むなんてもってのほか。
衣服が擦れるだけで、ピリピリヒリヒリと、むず痒いような、痛いような、妙な感覚に耐えねばならない。
その刺激をなるべく和らげるため、また刺激と共に硬くなり、前へと出てきた乳首を隠すため、胸の部分が柔らかい生地の二重になっている肌着を着る。
これが第一段階。
胸が膨らみ始めるのは、乳首を中心とする。
大人のおっぱいはお碗型が美しいとされるが、発展途上中のそれは円錐に近い。
その上、固い。
脂肪がまだほとんど付いていないのだ。
当然である。
あのマシュマロを比喩される独特の柔らかさは、最初から女性の胸に付いているわけではない。
女性が痛みに耐え、丹精込めて成長させた結果なのだ。
敬意を込めて、五体投地で拝まなければならない存在。
触れる時には細心の注意を払わなければならない、尊ぶべき聖域。
それが、おっぱいなのである。
おっぱい進化論は次回に続きます。




