40
朝、寝ぼけながら電子世界を彷徨っていた愛海は、学校SNSで面白いものを見つけた。
「@MMが今日学校に来るんだって!」
「ファンサイトに書いてあった。ゲリラライブでしょ!?」
「うそだぁ!?」
その会話に驚いた愛海は、飛び起きるようにログオフして現実に戻った。
「なに!? 何かあった!?」
飛び起きた愛海につられて、飛び起きた優姫。唇を戦慄かせる愛海の肩を揺すった。
「こ、これ!」
スクリーンショットした今の学校SNSの会話を、フェイストップに映し出して見せた。
「え? 愛海、今日ライブやるの?」
「やらない! きいてない!?」
動揺を隠せない愛海。それに優姫とんとんと背中を優しく撫で、にっと笑みを浮かべた。
「宣戦布告だ。受けて立たないとだね」
不敵な笑みを見て、なぜか落ち着いてきた。優姫がいれば、なんとかなってしまう。そんな気がしてしまう。
「とにかく、平静を装っておかないとね。あと今日は絶対オレから離れないように」
強く念押しされ、愛海は黙って頷いた。緊張で胸が焼かれそうだ。
朝の支度と朝食を済ませ、2人は揃って学校へ向かった。
昨日と同じルート。景色も情景もなにも変わらない。優姫を見て喜ぶ生徒や、気さくに声をかける生徒。なにも変わらない。しかしどこか監視されているのではないかという疑心暗鬼が、影のように身を潜め後をつけてくる。
学校に到着し、正門をくぐった途端不安に耐えきれなくなった。愛海は優姫の袖を掴んだ。
「大丈夫。安心して」
振り向いて微笑を浮かべた。
「なにがあっても、オレがいる。任せて」
そういう彼女は、すでに臨戦態勢だった。普通にしているように見えて、優姫はBCCを戦闘状態で稼働させている。文字通り桁違いの能力を使い、周囲に情報収集や電子戦闘用のエージェントを無数に配置させている。それもただごく普通の情報に偽装しているため、誰にも気付かれない。愛海ですら気付かない完璧な偽装を施して、臨戦態勢を構築していた。
「……うん」
愛海には優姫がどんな手を打っているのか、全てを把握することはできない。分かるのは工作員を無数に配置している程度だ。
「おーい。葛城ー」
教室につくと、突然呼び止められた。愛海の心臓は危うく破裂するところだったが、それと同時に誰が声をかけてきたのか検索し、すぐにそれが綿貫であることがわかった。ほっと息をついた。
「愛海ちゃーん。なんかラッキーイベント発生したねー!」
事情は知らない綿貫からすれば、それが当然の反応だろう。
にこりと愛想のいい、本心からよかったと喜ぶ笑顔を浮かべる彼女に何も非はない。ただ内心ではそうそう喜べない事態なのにと若干毒づきたくなった。
「おー。なんかねー。ところで、昨日の子、連絡つく?」
「あん? いや、それがつかない。アタシもなんかやってくれたのかなって思って、連絡しようとしたんだけどさ」
風邪でもひいたのかな? とつぶやく綿貫は、画面を出して彼女へもう一度ショートメッセージを飛ばしていた。
-やっぱり怪しいね。-
優姫からメッセージが届き、愛海は小さくうなずいた。学校の出席管理サーバへアクセスし、調べるとさらにおかしい情報が出てきた。
-これ見て。-
出席記録は、正門の改札をくぐると自動的に登録される。
-昨日から学校出てないね。警備部にも捜索記録残ってた。-
同じことを思っていたのだろう。優姫から交換で送られてきた警備記録。下校時刻を過ぎても校内に残っている、下校記録のない生徒は警備員が捜索する決まりになっている。それもBCCの位置情報をもとに捜索するため、本来ならそれほど時間はかからない。
しかし警備記録には当該生徒の位置情報が学校のどこにもないという、前代未聞の状態にあるという記載があった。
やはりおかしな出来事が起きようとしている。いや、起きている。
ついでに学校の理事会や職員会にも情報を求めて検索をかけた。
理事会側から、一方的に今日のライブの事を押し付けられたみたい。
これも驚くべき情報だった。
綿貫に悟られないほどわずかに眉根を寄せた優姫。
-仁科に報告しておこう。なにか、嫌な予感がする。-
-うん……。-
今得られた情報をまとめて仁科に送信した。




