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鳥籠  作者: 快流緋水
8/10

逃走

 スカーレット・アジュレが囚われてから半年あまりが経った。セレストブルー・カラーの3ヶ月にも及ぶ捜索にも結果が出なかった。セレストブルーにとって,身を裂かれる思いでこのときを過ごしていただろう。スカーレットといることが当たり前であり,彼女がいない生活は,彼にとって考えられないことなのだ。

 なぜ,セレストブルーはここまでスカーレットに溺れているのか。自分の能力を明かしても変わらずに接してくれたからなのか。それもあるだろう。だが,それだけではない。能力を理解し,認めてくれたこと。さりげない言葉や気配り。そして,何よりもスカーレットの存在自身がセレストブルーを支えていた。いわば,スカーレットはセレストブルーにとってなくてはならない酸素のようなものだ。手離せない存在なのだ。



 スカーレットは全身を駆け巡る痛みに耐え切れず,背中から倒れこんだ。その衝撃で,更に激痛がした。手足がしびれ,目が霞む。口からは血がこぼれた。あまりに一瞬で,それでいて時が止まったようで。

 スカーレットは悟った。最期であると。

(セレに逢いたいのに…!!)

希望が絶望に変わり,痛みよりもそのことで涙が溢れ出た。

 ガサガサと草や落葉を掻き分ける音がスカーレットの耳に入った。誰かが来たようだ。

「お,おい!まずいぞ!」

狼狽した声に,スカーレットはなんとか目を開ける。視界はゼロに近いが,それでも人影が2つ見えた。どうやらその人の声らしい。

「人間かよ!?」

「矢が刺さってるよ。ど,どーすんだよ!?」

この慌てぶりから,死の淵に落ちる寸前のスカーレットにも事が推測できた。動物に間違えられ,射られたのだと。この悲運にうなだれる。

「生きているのか?」

2人の内,年長の男が膝を折って近寄る。そこで,スカーレットはなけなしの力でその男に手を伸ばす。男は驚いたが,罪の意識からか彼女の手をとる。

「すまない,こんなことになってしまって。」

「ほっ…と…い…て……。」

それでこと切れた。身体に力は通っていない。徐々に温かさも失われている。そして,スカーレットの目には,もう何も映っていない。

「放っておこう。」

「えぇ!?」

年長の男の言葉に驚きを見せるが,言った本人はさっさと来た道をたどろうとする。

「殺しておいて,それはないだろ!?」

「放っておいてと言われたんだ。」

「でも…!」

年長の男は振り返り,まだ突っかかっている男の胸倉を乱雑に掴んだ。

「いいか。このことは絶対に言うな。忘れろ!この女だって,こんな所にいるんだから何か事情があるのだろう。いいから放っておくんだ!」

怒鳴りつけ,胸倉を掴んだ手を振り払うように荒く突き放し,来た道を戻って行った。残された男は年長の男とスカーレットを交互に見て葛藤しているようだ。だが,諦めたかのようにため息をつき,先に行った男を追いかけて去った。

 スカーレットは,野ざらしに……。


 スカーレットを始末しろと命じられたレイヴンの配下は,セレストブルーの家まで来ていた。もちろん,セレストブルーに気付かれないように,木の陰から様子を窺っているのだ。馬車で来ているから,スカーレットを待ち構えていることになる。2度と彼女はここに来られないというのに。

「来ねーな。いつまでこうしてんだよ?」

待つことに痺れを切らした1人が口を開いた。それは,この場にいた全員の本音であろう。全員が揃って,困ったようにうなずく。

「でもまぁ,ここにいることが1番確かなことだ。」

「ああ,だが,そこの3人は帰れ。レイヴン様に報告をしろ。」

「歩きでですか!?」

「ああ。人が隠れられそうな所を見つつ行け。帰りつつもスカーレット様を捜すんだ。報告をしたら,レイヴン様の指示を仰げ。」

歩きでフリント家まで戻らなければならないことに対して嫌な表情を満開にしていたが,さすがにリーダーからの命令には逆らえず,しぶしぶ歩いて行った。

 報告のためフリント家を目指す3人は町内ではなく,近道である森の中を歩いていた。落ち葉を蹴散らし,かったるそうに歩いている。4日間も歩き続けると思うと,そうなるのも無理はない。それでも命令には背けず,歩き続ける。

 しばらくしてから,1番目の利く人が前方をいきなり指した。

「あそこ。」

「あ?なんだよ?」

先頭を歩いていた人が振り返り,嫌々そうに聞く。目の利く人はその声にうんざりしつつも,指す方向を見据えた。

「人が倒れている。」

「本当か?」

ここからでは見えない人にとって,信じられないようだ。だが,目の利く人は強くうなずく。

「どうするよ?」

3人は顔を見合わせる。無視をするか,見に行くか。レイヴンならば無視したであろう。だが,配下はそこまで冷血ではない。

「行こうぜ。」

人が森の中で倒れているのは,普通では考えられない状況だ。何かが臭う。3人は少々怯えつつ歩み寄る。

「おい,あれって…!」

3人の目に映ったものは,死体。心臓を貫かれ,仰向けに倒れた女性。そう,スカーレットである。

「死んでいる!」

心臓がスピードを上げて動く。予想外のことに,視点が定まらない。

「やべーよ,どうするんだよ?」

「ど,どうするって……。」

3人がそれぞれの慌てぶりにより,顔を見合わせる。その状態が数十秒続いた後,1人がセレストブルーの家の方へ走り出した。

「おい!?」

「死んでいるからこのままにしておこうぜ。とりあえず,リーダーの所に戻って報告した方がいいって!」

3人はあまりのことに衝撃を受けつつも,慌てて来た道を走った。

 その後。3人の報告により,レイヴンの配下はスカーレットを確認した。自分たちが手を下さなかったにしろ,同じ家にいた人の死は胸に詰まるものだ。

 それから,スカーレットの遺体を持って帰るわけにはいかないので,髪の毛を切り取り,証拠として持ち帰った。それを見たレイヴンは触りもせず,捨てるように命じた。思い通りにならない人は必要ないということであろう。

 スカーレットの遺体はそのまま,誰かに見つかることもなく獣の血肉となった。今はもう,ない。

 セレストブルーに逢いたいのに。


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