第七話 人のためになる『化かし』
「聞いたか?」
「あぁ、なにやら、副ギルド長が捕まったらしいな」
今日も当たり前のように『薬屋たぬき』に集まった冒険者達が、最近街で持ちきりの噂話をしていた。
常々悪評のあった副ギルド長アランカルが、隣国から来た貴賓に無礼を働き憲兵に取り押さえられたのだ。
相手は、お忍びで城下に来ていた貴族令嬢で、名前は明かせないが相当地位の高い人物だったらしい。
一目見て誰か分かる貴賓と言えば、第二王子の婿入り先有力候補であるタランティーから来たお姫様だ。
先日行われた祝賀パレードは、王都民皆が目にしており、彼女のピンクブロンドの髪は非常に珍しかった。
しかし、そんな高貴な人間と副ギルド長が出会う場などあるのだろうか?
皆が首を傾げるのをコッソリ見ていたオタケは、口元に手を当てて笑いを必死にこらえていた。
何故なら、この大捕物に、オタケが一枚噛んでいたからだ………。
その日、オタケは、開店前に足りない野菜を買いに市場に来ていた。
いつもの着物姿だが、頭からスッポリとフード付きコートを羽織っている。
リンドヴルムからの贈り物で、最近のお気に入りだ。
綺麗な格子模様が特徴的で、中に獣の皮が付いており、とても温かい。
彼が外国から買ってきたものだけに、同じものを持っている者は王都にはおらず特別感もある。
浮かれてスキップしてしまいそうになる自分を抑え、オタケは、買い物リストをチェックしていた。
その耳に、
「これが、今度の依頼だ……」
物陰で見慣れた男が誰かと話をしていた。
「あ……アランカルさんだ」
オタケは、どうも彼のことが苦手だった。
ギルド長のイブーと違い、いつも変な目のオタケを見てくる。
時々舌なめずりをしたり、肩を抱いてこようとしたりするのを他の冒険者からもたしなめられていたが、副ギルド長という地位にあるため誰も罰することができない。
どうも高位貴族との繋がりが強いらしく、副ギルド長になったのも、その貴族からのゴリ押しがあったからだ。
イブーも手を焼いており、何かあれば職を退いてもらうと再三勧告しているのだが効果が出ない。
そんな彼が人目を避けて受ける依頼とは、何なのか?
オタケは、近くに置かれていた木箱の陰にかくれて聞き耳を立てた。
「オイオイ、コレは、ちと難しい依頼だな。お姫さんを拉致するなんて、俺に出来るわけないだろう?」
手渡された紙を懐に入れながら、アランカルが依頼者に愚痴をこぼす。
「先方が、かの姫君を一目見て気に入ってな。いつもの三倍だすと言っている」
これは、拉致の相談だ。
しかも、コレが初めてではない。
最近王都において、若い娘のかどわかしが問題になっていた。
憲兵がいつも以上に見回りを増やし、ピリピリと殺気立っているのも、そのせいだ。
まさか、隣国の姫まで狙おうとしているとは、あり得ない馬鹿さ加減。
オタケは、更に情報を得る為に、もっと彼らに近づこうとした。
その時、
カタン
運悪く、持っていた籠が木箱に当たって音を立てた。
逃げる間もなく手首を捕まれ、暗闇に引き込まれる。
「お前、盗み聞きしてたな?」
アランカルは、顔を見ずとも彼女がオタケだと分かっていた。
何故なら、オタケが、リンドヴルムから贈られたこのコートを毎日着ていると知っていたからだ。
「離してください!」
「うるせぇ、お前も他の奴らと一緒に売っぱらってやる」
アランカルは、少女誘拐の上、更に人身売買にも加担しているようだ。
嫌がるオタケを引きずるように、奥へ、奥へと入っていく。
「おい!そこで何をしている!」
オタケの声を聞きつけた憲兵が、裏路地へと入ってきた。
しかし、動じる事なくアランカルは、オタケを背後に隠して彼らに自分の顔を見せた。
「いや、なに、オタケのヤローが何を勘違いしたのか突っかかってくるから、チョットお仕置きをしてやってただけだ」
相手が副ギルド長だけに、憲兵達も強くは出れないのだろう。
「オタケちゃん、それは、本当なのかい?」
質問はしてくるが、アランカルを取り押さえる気配はない。
オタケは、必死に考えた。
アランカルが言い訳できないくらい、打撃を与えられる方法は何かないのか?
「あ……」
その時、オタケは、思い出した。
リンドヴルムが『人助けになる化かしなら許す』と言ったことを。
「エイッ!」
手に持っていた籠を放り投げると、中には入っていた野菜が辺りに散らばった。
皆がそちらに気をつけている間に、
ポン!
姿を変怪さす。
そして、サッとフードをとった。
「私に、無礼を働こうとしたものを捕らえなさい!」
そこに現れたのは、先日パレードをしていた隣国の姫君だった。
ピンクブロンドの髪が風に揺れ、気品ある顔立ちがハッキリと見て取れる。
「ち、ちがう!ちがう!!」
アランカルは慌てたが、
「懐に、私を拉致するよう書かれた依頼書がはいっています!そこの男が依頼者です!」
オタケが共犯の男を指さすのと、憲兵達が犯人達に飛びかかるのは同時だった。
言い逃れできない状況に、アランカルは逃げようと必死に抵抗したが、騒ぎを聞きつけた住民達も加わり難なく取り押さえられた。
その後、彼が持っていた依頼書と家宅捜索で見つかった数々の証拠のお陰で、彼の背後にいた貴族も捕まったという。
ただ、ピンクブロンドのお姫様は煙が消えるように姿を隠し、目撃したのも犯人達と憲兵のみ。
本物のお姫様は晩餐会の最中であったことから、又もや幽霊ではないかと噂がたった。
しかし、以前と違うのは、
「いやー、ホント、スカッとしたぜ!あのアランカルって奴、俺、前々から嫌いだったんだよ」
「誘拐された子供達も無事に帰ってきて、本当に良かったわ」
「幽霊様万歳だな!」
人々が、犯人逮捕に活躍した幽霊を褒め称えたことだった。
すると、不思議な事に、オタケの霊力が呼応するように上がっていく。
どうやら、『化かし』により生じた波及効果も修行の一環と認められるらしい。
一度の『化かし』で、悪党退治に被害者救済まで成し遂げたオタケは、体に霊力が貯まっていく感覚に驚いた。
「そうか……これが、人のためになる『化かし』なのね」
その後、変怪の練習を続けると、自分よりも大きなものにも姿を変えられるようになってきた。
霊力が漲っているからだろう。
ただ、残念なのは、
「服は、どうにもならないわよね…」
アピスに変怪したオタケは、ちんちくりんの着物と開けてしまった胸元を見て、大きくため息をついた。
こんな風に、少し他とは違うオタケが、周りの人を『化かし』で助けながら成長していき、リンドヴルムとの恋に身を焦がすようになるのは、まだまだ先のお話。
完
キャラ文学用に書いていた作品ですが、当てはまらないということで恋愛に区分を変更しました。
勿体ないので載せておきます。




