表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/87

#9 イレギュラー

 ――引き続き、祖師谷(そしがや)B級ダンジョン内にて。


「…………あ、ドロップアイテム」


 遥歌(はるか)が2匹目のオークを倒した場所に、ころん、とテニスボール大の真っ白な球体が転がっていた。

 ダンジョンでモンスターが倒れたときに、ときどき発生するアイテム――ドロップアイテムの一種だ。


《ラッキー! モンスターコアじゃん》

《定番だけど、換金効率いいよな》


 カメラを通して配信映像を観ている視聴者たちが、そんなコメントを投稿した。



 この白いボールは「モンスターコア」と呼ばれる物だ。

 ダンジョンに充満する「魔素」の結晶と見なされており、特殊な装置によって人類が利用可能なエネルギーを取り出すことができる貴重な資源である。


 遥歌は近くにモンスターの気配がないことを確認し、武器を収めてドロップ品のモンスターコアをバックパックにしまった。




 ――――その次の瞬間だった。




 ドゴゴガシャガラガガガッッッ!




 遥歌の真横の壁がけたたましい物音を立てて崩壊(ほうかい)し……――中からモンスターが飛び出してきた!


 ――ガラガラと石造りの壁が崩れ落ちると同時に、そこに設置されていた通信設備もメチャクチャになった。




「――――なっッ!?」


 遥歌は驚愕(きょうがく)に目を見開く。



 現れたのは、オークロード。

 本来、このB級ダンジョンでは出現しないはずのA級モンスターだ。

 その筋骨隆々(りゅうりゅう)とした巨大な身体(からだ)には、見る者をおびえさせる威圧(いあつ)感があった。



 オークロードは出会い頭に分厚い鉄塊(てっかい)のような剣を片手で振るい、硬直したままの遥歌目がけて振り下ろす――――



 このとき、遥歌は両足がすくんで動くことができなかった。


 SP――スピリット・ポイント――によるバリアはまだ十分残っていた。

 ――が、彼女はB級探索者だ。

 A級モンスターの致命の一撃(クリティカル・ヒット)に耐えられるかはわからない。



《ヤバい! ダンジョンのイレギュラーだ!》

《ルーミエたん、避けてーーっ!!》



 配信チャンネルに悲鳴のようなコメントが流れる。



(…………ダメ、動けない。私、ここで死ぬの――――?)



 遥歌(はるか)の視界の中で、あらゆるものがスローモーションで動きだした。

 頭上から、ギロチンのような重厚な刃が迫って来る。それは遥歌に明確な「死」を意識させた。




 そんな遥歌の視界を、大きな何かが横切った。



 ――それは、グレーの制服を着た配信施工員の背中だった。




「――――人が作った配信設備をぶっ壊してんじゃねぇっ!!」




 配信施工員――鋼侍(こうじ)は怒りの(さけ)びを上げ、オークロードの顔面を蹴り飛ばした。



「――――ぶもおぉぉっッ!?」



 オークロードは剣を取り落とし、自ら開けた壁穴の奥に吹き飛ばされて行った。そして、そのまま光の粒子に変わった。



《………………》

《………………》

《………………》



 配信チャンネルも含め、しばらく無言の時間が続いた。



「……………………えっ?」



 長い沈黙の後、遥歌は呆然(ぼうぜん)と声を発した。



 ――B級ダンジョンに発生したA級モンスターという異常(イレギュラー)は、その場に潜んでいたもう1つの(・・・・・)規格外(イレギュラー)によって上書きされた。




(…………あ、ヤベ…………)



 遥歌の反応を聞いて、鋼侍は自分がやらかしたことを悟った。


 今回、遥歌の前に割って入った鋼侍は、ばっちりカメラにも映っていた。

 オークロードによる設備の破壊は、幸か不幸かそのカメラには影響がなかった。



《――A級モンスターを瞬殺ぅっ!? ……配信施工員じゃなかったのかよ!》

《もしかして、あいつじゃない? ――あの、例のウワサの配信施工員って》

《都市伝説かと思ってたら、実在したのか…………》

《……あの男、A級探索者以上の実力者だ。間違いない》



 配信画面上で、コメントが滝のように流れていく。



 疑惑が、確信へと変化する。

 このとき、配信の同時接続数は300万に達していた。

 もはや、誰の目を誤魔化(ごまか)すこともできなかった。



 鋼侍の顔に冷や汗が浮かび、つーっと流れ落ちた。




「――――あ、あなた! そんなに強いのに、なんで配信施工員なんかやってるのよ!!」




 恐怖と衝撃から立ち直った遥歌のそのセリフは、大多数の視聴者の声を代弁していた。







ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

「面白い」「スカッとした」と思ったら、★評価やブックマークを頂けるとランキング順位アップの助けとなります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ